芋虫狩りと昼食準備!
「到着だよ。ここが誰かさんが大好きな芋虫が出る場所だ」
テントを撤収して即席水場も撤収した俺達は、ハスフェル達の案内でもう一箇所の狩場へ到着したのだが、止まった途端にそう言ったハスフェルの言葉に、俺は悲鳴を上げて顔の前でばつ印を作った。
「じゃあ、俺はここでの狩りには参加しない! 代わりに昼飯の準備をするよ!」
「よし、昼食準備は任せた!」
「おう、任された! 芋虫退治は任せたぞ!」
「あはは、じゃあ任されてやるよ」
ハスフェルと顔を見合わせて揃って吹き出す。
「俺達も頑張ります!」
「飯代分くらいは働きます!」
笑ったハスフェル達の返事を聞いたリナさん達やランドルさん達だけでなく、クーヘンやマーサさん、そして新人二人も、そう言いながら遠慮なく大爆笑していたのだった。
って事で、ここで俺だけ離脱してスライム達と一緒に下がる。
俺の護衛役は、ハリネズミのエリーとお空部隊の子達が請け負ってくれた。
確かに狩りの途中であっても、空からだと何かあった時にすぐに駆けつけて来られるからな。
「うん。俺は絶対向こうは見ないぞ!」
大きな声でそう言って、少し離れた場所にある低木樹の茂みを必死になって視界の外へ追い出す。風も無いのにモゾモゾと枝が左右に大きく動いているのはどうしてかなんて、絶対に考えてはいけない!
一応、俺の精神衛生の為安全圏としてもう少し離れたところで、周囲の安全を確認してからテントを取り出してスライム達に立ててもらう。
机を取り出したところで、背後で早速始まった賑やかなドタバタと暴れる音を聞きつつ、絶対に振り返らないと必死になって自分に言い聞かせる俺だったよ。
「それで何を作るの?」
一応、椅子の上に置いた鞄に入ったサクラが張り切ってそう尋ねてくる。
「ううん、何を作るかなあ。春野菜が色々と手に入ったから、新玉ねぎを丸ごと焼いてみるか。チーズをかけたら、絶対あいつらでも食べると思うぞ」
だけど肉は絶対に欲しいだろうから、少し考えて新玉ねぎの真ん中部分を少しくり抜き、しっかり塩胡椒をした岩豚ミンチをそこに詰めておく。
それをオリーブオイルをひいたフライパンに並べて上下をしっかりと焼き、後は少しお湯を入れて弱火で蓋をしてしっかりと蒸し焼きにして火を通す。
最後に蓋を開けて水分を飛ばしてから、仕上げにたっぷりのモッツァレラチーズをかけて溶かせば完成だ。
よし、一品出来たぞ。
「小粒の新じゃがは、綺麗に洗って皮ごと茹でてから二番出汁に砂糖と醤油とみりんとお酒で味付けした、お出汁たっぷりの煮っころがしにしておくか。これは皮ごと食べられるやつだな」
直径3センチから5センチくらいの小粒の新じゃがいもは、スライム達に皮を綺麗にして芽の部分だけ取ってもらい、皮ごと軽く下茹でしてから味付けしたたっぷりの煮汁で煮込んでおく。簡単簡単。
ちなみに明らかに和食の味付けだけど、あいつらは気にせずパンと一緒に食べてくれるんだよな。俺はあんまり食べないけど、パンと味噌汁も定番メニューだしな。
それから新キャベツがたくさんあったので、芯ごとざく切りにして、これに乱切りのニンジンや新じゃがいも、セロリも入れてネルケさん直伝のソーセージと一緒に野菜たっぷりポトフも作っておく。
「うん、どれも簡単だな。ちょっと手の込んだものも作っておきたいけど……まあ、たまにはいいか。揚げ物なんかはまだまだたくさんあるからな」
ポトフの味を見ながら小さくそう呟く。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャカジャカジャン!」
お椀を手に大興奮状態なシャムエル様が味見ダンスを踊りまくっている。
おお、なかなかの高速ステップですなあ。
狩りに参加していたはずのカリディアが、突然戻ってきてシャムエル様の隣で一緒になって完コピダンスを踊り始める。
手にしているのはお皿ではなく葉っぱだったけどね。どうやらお皿を取りに行く暇がなかったみたいだ。
最後に揃ってキメのポーズだ。
「お見事〜〜〜、じゃあカリディアにはこれな」
笑って自分で収納している激うまブドウを一粒渡してやり、シャムエル様にはポトフはお出汁しかあげられないので、少し考えて新じゃがの煮っころがしを一粒丸々渡してやる。
「ううん、ちょっと甘めで美味しいね」
ツヤツヤに煮上がった新じゃがを両手で掴んだシャムエル様が、ご機嫌でそう言いながら嬉しそうに齧っている。俺も小さいのを一つ口に放り込む。うん、なかなか上手く出来たぞ。
「酒の当てにもなるし、ポテトチップスが食べたいからちょっと新じゃがで作っとくか。確かもう在庫って無かったよな?」
「ポテトチップスですか? ええと、後これだけだね」
サクラが取り出してくれたのは、お皿に半分ほどだけ残ったポテトチップスの残骸だ。誰だよ、こんなちょっと残したのは。
仕方がないので笑って受け取り、ポテチの残骸はシャムエル様と半分こしたよ。まあ、ポテチ自体はパリパリで美味しかったよ。
「じゃあ、大きめのじゃがいもをいくつか出して薄切りにしてくれるか。俺は揚げる準備をするからさ」
コンロと深めのフライパンを手にした俺は、そう言って油の準備を始める。
「あ、ご主人危ないよ〜〜〜!」
その時、突然アルファがそう言って俺を一瞬で包んで引き寄せる。
突然の予想外の事態に、当然そのまま引っ張られて仰向けに転ぶ俺。もちろん包んで守ってくれているから怪我なんてしないけど、まだ火はつけていなかったとはいえ、油を使っている時にそれは危ないって!
すぐに解放されたので、何事かと思って慌てて起き上がりつつ振り返った俺が見たのは、すぐ近くまで来ていた俺の胴体くらいの太さはありそうな巨大な芋虫が、スライム達によって取り囲まれて退場していくところだった。
「うぎゃ〜〜〜〜〜!」
まさかの芋虫とすぐ近くで見つめ合う状態になった俺は、情けない悲鳴をあげてもう一回ぶっ倒れたのだった。
いや、マジであのデカさの芋虫は、俺には無理だって……。