この後の予定とアルクスさんの事
「じゃあ、俺達はどうしたらいいですかね? このまま街へ戻って一旦解散するならひとまず冒険者ギルドの宿泊所へ戻りますから、その場合は必要な時に声をかけていただければすぐに行きます」
「もしくは、俺達もこのままマーサさんが用意してくださったお屋敷に一緒に戻って、あそこに泊まらせていただくってのもありですか?」
一旦ここは撤収するため、スライム達にテントの撤収をお願いしていると、手の空いた新人コンビが俺の隣へやってきて困ったようにそう聞いてきた。
「おう、俺達は講習会場って呼んでいるあの大きなお屋敷は、一応マーサさんから好きに使っていいって聞いているから、もし街へ戻る必要が無いんだったらあのまま泊まっていてくれても構わないぞ。なんなら街へ戻ったら、次のアルクスさんって上位冒険者のテイマーの人に同じように指導もするから、そっちにも一緒に参加してくれて構わないぞ」
俺の言葉に、二人が嬉しそうな笑顔になる。
「アルクスさんって、真っ白な狼と黄色のインコ、それからスライムを連れた方ですよね。ちょっと前にギルドでお会いして少しだけですがお話しさせていただいた事があるんです。あの暴力野郎とは全然違っていて、言葉遣いもすっごく丁寧で、俺達みたいな年下のガキにも優しい方でしたよ」
「アルクスさんは、俺の鳥達を見て可愛い子達だねって言ってくださったんです!」
目を輝かせる二人の言葉に、ハスフェル達も笑って頷いている。
それほど仲が良いというわけではないらしいが、アルクスさんとは顔見知りの二人によると、確かに彼ならムジカ君が連れている鳥達を見ればきっとそう言うだろうとの事だ。
知る限り割と誰とでもすぐに仲良くなるハスフェルとギイが、顔見知り程度なんだと聞いてちょっと意外に思ったので、どうしてだか聞いてみた。
すると、二人は俺の質問に困ったように顔を見合わせてから揃って苦笑いして俺を振り返った。
「いやあ、彼自身は決して悪い奴ではないんだが、何と言うか、ちょっと真面目すぎるきらいがあってな。一緒にいると窮屈と言うか、なんと言うか……」
「だよなあ。決して悪い奴ではないんだがなあ。まあ正直に言うと、俺は苦手……かな?」
誤魔化すような二人の言葉を聞いて、俺もなんとなくだけど納得した。
恐らくアルクスさんは、いわゆる間違った事は絶対に許さない大真面目ないわゆる生徒会長タイプなんだと思われる。もしかしたら、正論を振りかざすタイプなのかも。
まあまあ、ここはちょっと適当にやっておきましょう、とか、そう言うのを絶対許さないタイプとか。
ううん、とりあえず最後の帳尻が合えばそれで良い! って思うタイプの俺も、もしもそうならちょっと苦手かも……。
だけどシャムエル様情報によると、彼は悪い人じゃあないと言ってくれていたし、ハスフェル達も、若干歯切れは悪いがシャムエル様と同じような事を言っている。うん、まあとりあえず一通りの詳しい説明や心構えなんかを教えた後は、彼も実践形式で教えるのが良いのかも知れないなあ。
若干不安に思って密かにため息を吐いた俺だったよ。
テントの撤収を終えて綺麗になった草地を見る。
少し離れた草地には、まだムジカ君とリナさん達が作ってくれた即席水場がそのままだ。
「じゃあ、これも片付けますね」
笑ったリナさんの言葉に、水遊び大好きなマックス達やスライム達、それからお空部隊の面々が一気にしょぼ〜んとなる。
「ええとこの後って、俺は参加しないけど芋虫のジェムモンスターところへ行って狩りをしてから街へ戻る予定なんだよな。じゃあまだちょっとくらい時間があるよな。まだ午前中だし別にいいよな?」
一応そう言ってから、確認の意味を込めてハスフェル達を見ると笑って頷いてくれたので、俺はマックスを水場へ押し出してやった。
「ほら、もう一回遊んでこい。これで最後だからな」
嬉しそうにワンと一声吠えてそのまま一気に駆け出していくマックス達と、次々に跳ね飛んで水の中へ飛び込んで行く全員が連れていたスライム達。ううん小さくなっているけどやっぱり凄い数だな。
そして、一気に羽ばたいて一旦上空へ上がってから、急降下して噴水へ向かって飛び込んでいくお空部隊の面々。
一気に辺り中に水飛沫が上がり、慌てて下がった俺達だったよ。
朝と同じくらいに大はしゃぎしたマックス達やスライム達、それからお空部隊の子達が満足するまで待ってやり、それから即席水場を撤収して出発した。
「言っておくけど、俺は芋虫狩りには参加しないからな!」
マックスの背中に乗って走りながら大きな声でそう宣言しておくと、ハスフェル達だけでなくムジカ君とシェルタン君まで一緒になって吹き出していたよ。
「って事で、芋虫狩りはお任せするからよろしくな。俺は少し離れた場所でテントを張って、昼飯の用意をしておいてやるからさ」
いっそ開き直った俺の言葉に、マーサさんやクーヘンまで一緒になって大笑いしている。
「いいんだい。俺には強い従魔達がたくさんいるから、別に無理して俺が狩りに参加しなくても問題ないんだよ。なあ、任せても良いよな!」
「はあい、任されました〜〜〜!」
ご機嫌なマックスの言葉に、俺も一緒になって笑ったのだった。
うん、別にいいよな。誰にでも苦手なものの一つや二つあるよな! と開き直っておく。