朝食と二人へのお願い
「おおい、起きてくれよ〜〜」
「このまま置いていくぞ〜〜〜」
「起〜き〜ろ〜〜〜!」
笑い声と共に不意に頬を叩かれて、唐突に目が覚めた俺はマニを抱きしめたままで慌てて腹筋だけで起き上がった。
「おっと危ない!」
すぐ横に来て俺を覗き込んでいたハスフェルが、慌てたようにそう言って下がる。その横ではギイとオンハルトの爺さんが揃って吹き出している。
「ああ、ごめんよ。ええと……?」
いまいち状況が掴めなくて、起き上がったまま不思議に思って周りを見回す。
テントの垂れ幕は全部巻き上げられていて、ランドルさん達やリナさん一家、それからクーヘンとマーサさんだけでなく、ムジカ君とシェルタン君までが揃って笑いを堪えた表情でこっちを見ている。
「あはは、俺ってニニにもたれたまま、また寝ちゃったのか。ごめんよ。朝飯だな」
成る程。さっきもふもふに埋もれてマニを抱きしめたまま寝落ちしたのか。
納得して笑いながら謝り、マニの顔をモミモミしながらなんとか立ち上がる。
ニニが立ち上がり思いっきり伸びをする。
一瞬で鞄に飛び込んでくれたサクラから大急ぎで机や椅子を取り出してスライム達に用意してもらい、その上にいつもの朝食メニューを色々と取り出していく。
それを見たランドルさんやリナさん達、それからハスフェル達も、笑顔でいつものようにそれぞれ手持ちの買い置きを色々取り出して並べてくれた。
ちなみに、ここで取り出した分は皆の食事用に提供した分だと言って、もし余っても彼らは引き取ってくれない。
なのでその場合は、お礼を言って俺が全部収納している。まあ、持ってくれるのはサクラなんだけどね。
でもせっかくなので、いつもランドルさんが出してくれる真っ赤なスパイスが大量にかかった辛い唐揚げと鶏肉の串焼きは、自分でもいくつか収納させてもらっているよ。
ランドルさん、ゴチになります!
「あ、おにぎりが食べたいから出してくれるか」
コーンスープと味噌汁を小鍋に取り分けながら、小さな声で鞄の中に入っているサクラにお願いしておにぎり盛り合わせのお皿も取り出しておく。
うん、肉巻おにぎりは確実にシャムエル様に取られるだろうから、最低でも二個は確保しておかないとな。
おにぎりをいくつか確保した後に、いつものタマゴサンドを一切れと野菜サラダと、スライスしてゴマだれをかけてある鶏ハムをまとめてもらう。タレのかかっていない端っこはヤミー用だ。
お椀にお味噌汁をもらい、麦茶と一緒にスライム達が用意してくれたいつもの簡易祭壇に並べる。
「おはようございます。おにぎり盛り合わせと、タマゴサンド、それからサラダと鶏ハムです。麦茶と一緒にどうぞ。ええ、この後また新しい人が来てくれるので、こちらも無事に終わりますようお守りください」
手を合わせて目を閉じて割と真剣にお願いしておく。
まあ一応神様なんだから、お願いするのは……間違っていないよな?
いつもの収めの手が俺を撫でてからお供えしたおにぎりやサラダを順番に撫でて持ち上げるのを俺は笑顔で見つめていた。
最後に麦茶のカップも持ち上げてから、こっちに手を振って消えていく収めの手を見送ってから、自分の分を持って席に戻る。
「ああ、待たせちゃってごめんよ」
食べずに待っていてくれた皆にお礼を言って、改めていただきますをしてから食べ始めた。
「あの、ちょっと聞いてもいいですか? 昨日も思っていたんですがさっきのあれって……何をしていたんですか?」
食べ始めてしばらくすると、近くに座っていたムジカ君がやや遠慮がちにそう尋ねてきた。その隣に座ったシェルタン君も、食べる手を止めてこっちを見ている。
「ああ、あれはええと……以前一緒にいて、今はそれぞれの仕事があってここにはいない仲間達へ、一緒に食事を食べるつもりで供えているんだ。まあ、俺の気持ちの問題だよ」
まさか仲間の神様へのお供物だとは言えなくて、誤魔化すようにそう言っておく。
「ああ、成る程。そういう事だったんですか。それは失礼しました」
「陰膳ですね。うん、きっとその方々に届いていますよ」
笑ったムジカ君とシェルタン君の言葉に、オンハルトの爺さんは嬉しそうに何度も頷いていたよ。
「ところでちょっと相談なんだけど、いいかな?」
食事を終えて、改めてコーヒーを入れてのんびり寛いでいたんだけど、不意に思い出して慌てて座り直してムジカ君とシェルタン君を見た。
「はい、何でしょうか?」
「ケンさんが、俺達に相談、ですか?」
驚いたようにそう言って、改めて座り直してくれる二人。
「うん、実を言うと君達にも協力してもらえないかなと思ってさ。ああ、もちろんこの後に街へ戻って何か用があるのなら、断ってくれても全然構わないからな」
そう前置きしてから伝えた内容を聞いて、二人はもうこれ以上ないくらいの笑顔になる。
「なんだ、そんなのもちろん喜んでお手伝いしますよ」
「俺達も、あの暴力テイマー達には色々と思うところがありますからね!」
満面の笑みで即座にそう言って頷いてくれた二人と、俺も笑顔でがっしりと握手を交わしたのだった。
よし、暴力テイマー対策に新たな協力者ゲットだぜ!