ごちそうさまでした!
「ふああ〜〜もう腹一杯。もう食えませ〜〜ん」
俺にしてはかなり食った方だと思う。冗談抜きで腹が苦しくなった俺は、大きな声でそう言って残っていたビールをぐいっと飲み干した。
「相変わらず少食だなあ。もう終わりか?」
笑ったハスフェルの声に、俺は空になったグラスを置いて振り返った。
肉焼きを交代したらしいハスフェルとギイ、それからオンハルトの爺さんの三人が揃って俺の両横に座る。
彼らの両手には、山盛りのお肉と白と黒のビール瓶ががっつり握られている。
ちょっと待て。いくらお前らの手が大きくても、片手で五本握るのはどう考えても物理的におかしいと思うぞ。
「まあ、せっかく持ってきたんだから飲め」
にんまりと笑ったハスフェルが机の上に置いたビール瓶の栓を一瞬で開けて、止める間も無く空になった俺のグラスに冷えた黒ビールを注ぐ。
「ああもう、こんな事されたら飲まないわけにいかないじゃあないか〜〜」
あふれんばかりにグラスの縁ギリギリまで黒ビールを注がれて、慌ててこぼれないようにグラスを置いて口で迎えにいく。うん、しっかり冷えていて美味いぞ。
「魔獣使いになった新人コンビにかんぱ〜い!」
若干フラフラする頭を起こして、手にしたグラスを高々と掲げて笑いながら大声でそう言う。
あちこちから乾杯の声が返り、アーケル君が笑顔で立ち上がる。
「将来有望な若者達にかんぱ〜〜い!」
「かんぱ〜〜い!」
もう一回笑顔でそう言い、黒ビールをぐいっと半分くらい飲む。
おお、世界が回っているぞ。さすがに、そろそろ冗談抜きで限界が見えてきたよ。
大きなため息を吐いて、背もたれに体重を預ける。
「もう無理! 俺に構わずどうぞ食ってくれ!」
笑ったハスフェル達が、空になった俺の皿にもお肉を乗せようとしているのを見て慌てて止める。
「ええ、せっかく上手く焼けたから持ってきてやったのに」
わざとらしいギイの言葉に、俺は笑いながら顔の前でばつ印を作る。
「だからもう俺は打ち止め〜これ以上食ったら、逆流する! そんなもったいない事出来るか!」
割と本気の俺の叫びに、その場は大爆笑になったのだった。
「あの、本当にこんなご馳走を代金も払わずにいただいて良いんでしょうか?」
「少しくらいなら、ジェムで払いますので請求してください!」
そろそろハスフェル達も食べる速度が鈍ってきた頃、ムジカ君とシェルタン君が俺の横へ揃ってやってきて真顔でそう言って頭を下げてきた。
「だから言っただろう? 臨時とはいえせっかく一緒のパーティーにいるんだから、美味い飯くらい一緒に食べたいの。俺が一緒に食べたいんです。だから、遠慮なんてしなくて良いです! もしどうしても気になるなら、もっと強くなって立派になった時に、困っている後輩を助けてやってくれよ」
ほぼ酔っ払い状態なので、若干フラフラしつつ笑いながらそう言って二人の腕を叩く。
「本当にいいんですか?」
「だからいいって言ってるだろう? それより、もう腹一杯になったか? 足りなければ、肉はまだあるぞ」
「いやいや、もう冗談抜きでこれ以上食ったら逆流します!」
「そんなもったいない事出来ませんって!」
さっきの俺と同じ叫びを上げた二人を見て、もう一回大爆笑になった俺達だったよ。
出した肉がかけらも残さずに駆逐され、野菜もまあほぼ無くなった時点で夜のバーベキューパーティーはお開きとなった。
さすがに出した分全部は飲めなかったみたいで、残ったお酒はハスフェル達がまとめて収納していたよ。
机の上では、スライム達が総出でせっせとお片付けの真っ最中だ。
汚れた鉄板や油まみれになったお皿を綺麗にするスライム達を、ムジカ君とシェルタン君は揃って目を輝かせて見つめていた。
ちなみに、彼らのスライムのスイミーとピンキー、それからキララもアクア達と一緒に手分けしてお片付けを手伝っているよ。
見ていると、さっきテントを張る時と同じように、新人のスイミー達と合体している子達だけ作業の進み具合がかなりゆっくりだ。
なので、恐らくアクア達がやり方を丁寧に教えてやりながら実践しているのだろう。ううん、うちのスライムは皆面倒見がいい、良い子達だねえ。
なんだか愛おしさが限界突破したので、近くにいたアクアをそっと撫でてやると、ニュルンと出てきた触手が俺の腕にまとわりつくみたいに絡まって、すぐに戻っていった。
この、控えめな甘え具合もたまらないポイントだよな。
すっかり綺麗になって片付いたところで今日は解散となり、改めてごちそうさまを言ってくれた新人コンビは、それぞれの従魔達と一緒に貸してやったテントへいそいそと入って行ったよ。
しばらくしてそれぞれのテントから歓喜の叫びが上がったところで、どうなるかとテントの外で見守っていた俺達は、揃って吹き出したのだった。
うん、二人も従魔とくっついて寝る幸せを心ゆくまで楽しんでくれよな。これは魔獣使いやテイマーの特権なんだからさ!
これからも、末長く従魔達と仲良くな。
改めてハスフェル達やリナさん達におやすみの挨拶をしてから俺もテントに戻り、待ち構えていたスライムベッドの上で定位置のニニの腹に潜り込んだ俺は、一つため息を吐いて腕の中のマニを抱きしめた。
「はあ。まずは二人の新人指導は無事に完了だな。次は上位冒険者のアルクスさんだっけ。まあ、そっちはハスフェル達とも顔見知りみたいだしなんとかなるだろう。問題はその後の暴力女性だよなあ」
大きなため息を吐いてそう呟くと、マニの額に顔を埋めた。
「まあ、なるようにしかならないよな。自力で解決出来ない事で悩むのは俺らしくない! よし、寝よう」
自分に言い聞かせるようにそう呟いた俺は、もう一回マニをしっかりと抱きしめて目を閉じる。
眠りの海へ落っこちるまで、それほどの時間はかからなかったのだった。ボチャン。