大きなテントと夕食準備!
「じゃあ、暗くなる前に先にテントを立ててしまおうか」
まだ真っ赤だけどほぼ日が暮れている西の空を見た俺の言葉に、皆も笑ってランタンを取り出して火を入れてから出していたテントを広げていく。
それを見て周囲に転がって遊んでいたスライム達が、一瞬でそれぞれのご主人の元へ跳ね飛んで行ってテントの周りに集まる。
「よし、じゃあここに立ててくれるか」
笑った俺がそう言っていつものように中心になる位置を示せば、あとはもう心得たスライム達があっという間にテントを張ってくれる。
突然の出来事に、ムジカ君とシェルタン君はポカンと口を開けて俺達のスライムを見つめていた。
「うわあ、すっげえ……」
「スライムって、あんな事まで出来るんだ……」
揃って呆然と呟いた二人は、揃って自分の従魔であるスライム達を見る。
しかし当然だけど、スイミー達にいきなりそんな芸当は出来ない。
なんだか恥ずかしそうにぷるぷると震えるスライム達を見て小さく吹き出した二人は、顔を見合わせて頷き合う。
「いきなりお前らにそんな事が出来たら、俺の方が驚くよ」
シェルタン君は笑ってそう言いながら自分のスライム達を捕まえておにぎりにしている。
「だよな。そんな無茶言わないって」
笑ったムジカ君も、そう言って自分のスライムのキララを撫でてやっている。
「じゃあ、俺達もテントを張るか」
そう言って、背負っていたリュックの中から折り畳んだ小さなテントを取り出した。
しかしその小さなテントを見た俺は、思わず口を開きかけて慌てたようにハスフェル達を振り返った。
『誰か予備の大きなテントを持っている人、彼らに貸してやってくれるか』
俺が鞄に入ったサクラから取り出した予備のテントを見せながらこっそりとトークルーム全開の念話でそう言うと、近くにいたギイが笑って右手を挙げてくれた。
「なあ。二人ともちょっと待って。せっかくスライムやサーバル、オオワシまでテイムしたんだから、君達も従魔達と一緒にくっついて寝てみたくないか?」
にんまりと笑った俺の言葉に、手を止めたムジカ君とシェルタン君の目が輝く。
「寝てみたいです! でも、このテントではちょっと無理ですよ」
「俺だって寝てみたいけど、俺達が持っているこのテントではちょっと広さ的に無理があります」
残念そうな二人の言葉に、笑った俺とギイが予備の大きなテントを取り出して差し出してやる。
「ほら、これも貸してあげるから使うといい。従魔達と一緒に旅をするなら、大きなテントは絶対に買っておくべきだぞ」
「うああ、何から何まで、本当にありがとうございます!」
「ありがとうございます! お借りします!」
顔を見合わせた二人は、笑顔で頷き合って揃って深々と頭を下げて俺とギイが差し出した大きなテントを両手で受け取った。
当然のように、俺達のテントを張り終えたスライム達が集合して、スイミーやピンキー、キララと合体して整列する。
「この棒をどこに立てるかさえ教えてやれば、あとはスライムがやってくれるよ。まあ二人での旅になったら、二人で協力して順番に立てていくのがいいかもな」
笑った俺の言葉に、目を輝かせた二人はテントの包みから組み立て式の柱を取り出し、集まってきたスライム達と一緒に楽しそうにテントを立て始めた。
どうやら、俺達のスライム達が新人コンビのスライム達にテントを立てる手順を教えてあげているみたいで、いつもよりも作業がゆっくりだ。
「あっちはスライム達に任せていいな」
楽しそうな二人の笑い声を聞きながら、俺はサクラが入った鞄を持ち直す。
「さて、じゃあせっかくだから二人のテイムの成功を祝って豪快に肉でも焼くか」
「ああ、良いなあ。ステーキでもいいし、なんならここでまたバーベキューにするか?」
「道具なら一通り持ってるぞ」
そう言って振り返ったドヤ顔のハスフェルとギイの言葉に、リナさん一家とランドルさん達が揃って吹き出す。
「お願いします!」
「バーベキューがいいです!」
笑ったランドルさんとアーケル君の嬉しそうな声が重なる。
「了解だ。じゃあ俺は肉の用意をするから、設営準備は任せた。って、待った待った! 二人のお祝いなんだから、主役の君達が食べないでどうするんだよ!」
テントの横の地面に直接腰を下ろした二人が、リュックからまた携帯食を取り出そうとするのを見て慌てて止める。
「ええ、そんな何度もお世話になるなんて……」
「そうですよ。貧乏人を甘やかさないでくださいって」
困ったように苦笑いしながらそう言って首を振る二人を見て、もう俺達全員の庇護欲が上限値を完全に突破しております。
「良いんだよ。成長期なんだから遠慮せずにしっかり食え! ってか俺が嫌なんだよ。せっかく一緒に行動しているのに、目の前で一部の人だけが不味い携帯食なんて食っているのがさ! 食事は美味しくないと駄目なんだぞ!」
握り拳を作って力説してしまったが、新人コンビ以外の全員から笑顔で拍手をもらった。
「俺達も、食事に関してはケンに世話になりっぱなしなんだよ。だからな……」
にんまりと笑ったハスフェルが、何やら笑いながら二人に耳打ちしている。
「ええ、でもそんなので良いんですか?」
「対価としては全然釣り合わないと思いますけど……?」
「間違いなく喜ぶから、それで良い」
断言するハスフェルの肩の上では、何故かシャムエル様が座っていて大爆笑している。
ええ、あいつ何を言ったんだ?
「「あの、では、厚かましくもご一緒させていただいてもよろしいでしょうか!」」
しかし、納得したらしく俺に向かって直立した二人の声が綺麗に重なる。
「おう、もちろんだよ。遠慮なく食え。じゃあ、せっかくだから二人もバーベキューの設置準備を手伝ってくれるか」
サクラの入った鞄を持った俺は、笑ってそう言うとさっき作ってもらったばかりの池の横へ向かった。
まあ、せっかく準備してくれた水場なんだから、有り難く使わせてもらわないとな。
って事で、まずは吹き出す水のすぐ横に作業用の机を取り出してスライム達に組み立ててもらう。
「じゃあ、がっつり肉の準備からだな。量は前回と同じくらい……いや、三割り増しでいくか」
この前、別荘の庭の小川横でやったバーベキューの時よりも、新人コンビとクーヘンとマーサさんが増えている。
まあ、マーサさんは俺と変わらないくらいしか食べないから三割り増しくらいで大丈夫だろう……多分。
「いや、ここは念の為に四割り増しで用意しておくか」
そう呟いて小さく笑った俺は、ガンガン取り出した各種ジビエ肉はスライム達に指示して準備してもらい、その間に焼肉のたれを始め、いつもの赤ワインで作る塊肉用のスパイスソースなんかの用意をしていったのだった。