ピルバグ退治と水遊び
「ええ、いいんですか?」
「あ、ありがとうございます。ではお借りします!」
「おう、遠慮なく使ってくれていいからな」
俺がそう言って笑うと、ムジカ君とシェルタン君は、追加で渡した収納袋を抱えて満面の笑みでお礼を言ってくれた。
実はハスフェル達と念話で相談して、俺達が集めた分のジェムの一部をスライム達に運ばせて彼らにこっそり押し付けておいたんだよ。
キララとスイミーとピンキーにはそれが自分達の分じゃあないと分かっていたみたいだけど、俺達が揃って笑顔で頷いたのを見て、伸び上がってお辞儀をするかのようにビヨンと曲がり、それから押し付けたジェムをキララとスイミーの二匹で、きっちり等分していた。
新人コンビは、大喜びで俺があげたあの五十倍の収納袋に集められた大量のジェムを収納していたんだけど、さすがに五十倍の収納力では全部のジェムは入らなかったらしい。
まだまだ残っているジェムを前に慌てていたので、急遽もう一つずつ二百倍の収納袋を貸してあげたんだよ。
別に、これもあげてしまっても俺的には構わないと思っていたんだけど、ハスフェルから念話で、新人にあまり高価なものを無料で無闇にあげるのはやめた方がいいと言われたので、これは街へ戻ったら返してもらう約束で貸してあげたわけだ。
ジェムがこれだけあれば残りの借金を全部返せると大感激した二人から揃ってお礼を言われて、俺達も嬉しくなってその場は拍手喝采になったのだった。
そんな感じでのんびりしている間に次の出現時間が来たらしく、またしても大量に出てきたピルバグを見た従魔達が俺達が何か言うよりも早く大はしゃぎで駆け出していってしまい、従魔達によるピルバグサッカー大会が開かれる事になったのだった。
途中からは俺達や新人コンビも参加してせっせと戦い、五面クリアーしたところで日が暮れてきたのでピルバグ退治は一旦終了となった。
さすがに今から行くのは無理なのでグリーンバタフライの幼虫の出現場所には明日行く事になり、とにかく今夜の野営地へ全員で移動する。
「す、すごい収穫だったよな」
「ピルバグって数匹程度なら同時に出てもなんとかなるけど、こんなに大量に出たら、普通は絶対に何度も怪我をして万能薬のお世話になるはずなのに……」
「今回の俺達、擦り傷の一つも無いよ」
「やった〜〜〜! 今回は高価な万能薬を使わなくてすんだよ」
移動しながら、ムジカ君とシェルタン君は目を輝かせて大興奮状態で話をしている。
「しかもジェムの量の凄かった事! あれなら残りの借金を返すだけじゃあなくて、装備を全体にもう少し良く出来るよな!」
「だよなあ。お前、籠手と脛当てが欲しいって言っていたもんなあ」
「お前も、剣を新しくしたいって言っていたもんな」
「おう、職人工房の剣、憧れだったんだよ。これなら何とか手が届きそうだ」
満面の笑みで頷き合った二人は、揃って俺達を見た。
「「本当にありがとうございます!」」
綺麗に揃った嬉しそうなお礼の言葉に、俺達も笑顔になる。
「頑張っている君達だからこそ、俺達だって応援したいと思ったんだよ。君達ももっと強くなって、今度は後輩達を助けてやってくれよな」
皆、嬉しそうに笑っているだけで何も言わないので、俺が代表してそう言っておく。
もう、今ここにいる全員が新人二人の保護者気分だよ。ううん、本当に良い子達でよかった。
「この辺りが野営するならいい場所なんだが、水源が無いんだよ」
「だから料理をするなら、水筒の水を使ってくれよな」
ハスフェル達の案内で到着したその場所は、大きなテントでも余裕でいくつも張れそうな、なだらかな草原なんだけど、確かに彼らの言うとおりでどこにも水場が無い。
大抵野営する時には水が沸いている場所を選んでくれるのだが、そんな彼らがわざわざここへ連れてきたという事は、本当に近くに水源が無いのだろう。
まあ、俺には無限水筒があるから調理の際にも多少面倒なだけで、別に大丈夫だ。
「おう、了解だ。それなら夕食は作り置きを出すから別に構わないよ」
「ああ、それなら任せてください!」
笑った俺がそう答えたところで、目を輝かせたムジカ君がそう言って進み出ると地面に手をかざした。
「ムジカ君、それならちょっと待って」
それを見たリナさんとアーケル君が進み出て、ムジカ君に何やら笑顔で耳打ちしている。
「ああ、それはいいですね。鳥達も喜びます」
ムジカ君が笑顔でそう言って肩に留まっていたメイプル達を撫でている。
もう俺達全員従魔から降りて、今からテントを張ろうとしているところだ。
「まずはここに穴を掘ってくれるかい。土の術はちょっと苦手でね」
笑ったリナさんの言葉の意味を察したマックス達犬族軍団とウサギ達が、一斉に集まってきて大はしゃぎで指定された場所に穴を掘り始める。とは言っても飛び散る砂は、スライム達が一瞬で集めてくれるので近くにいても俺達に砂が当たる事はない。
って事で、スライム達にはテントを張るチームと砂集めをするチームに分かれてもらい、まずは俺達もテントを設置する。
従魔達はあっという間に、直径6メートル深さ1メートルくらいの穴を掘ってくれた。しかも綺麗なすり鉢状になっているので、あれなら浅い部分で鳥達も水遊びも出来るだろう。
一仕事終えてドヤ顔な従魔達を見て笑ったリナさんがスライムに乗せてもらって穴の中へ滑り降りて行き、収納袋から取り出した金属製の二メートルくらいはありそうな筒を一本、まずは穴の真ん中あたりに垂直に思いっきりぶっ刺す。
それから、穴からスライムに乗ったまま上がってきたリナさんは、穴の縁の辺りの地面にも、やや小さめの金属製の筒をもう一本斜めにぶっ刺した。
それを見て吹き出したムジカ君とアーケル君が、穴の縁まで進み出て手をかざす。リナさんも、アーケル君の横に並んで穴に向かって右手をかざした。
しばらくすると、穴の底辺りからじわじわと水が染み出し始め、あっという間に穴いっぱいまで綺麗な水が湧き出してきた。
そして中央にぶっ刺した金属製の筒からは、まるで噴水のように水が上に向かって吹き上がり、空中で広がって輪を描きながら水面に落ちていく。
水の術による、即席噴水の完成だ。
そして、地面に突き刺したもう一本のやや小さめの斜めになった筒からは、それほどの勢いは無い水が噴き出して池に向かって弧を描くように落ちていく。
なるほど、こっちは手を洗ったり料理用に使う水で、あっちの噴水は従魔達の水遊び用だな。
納得した俺は、感心して見ていて不思議な事に気が付いた。
あれだけの大量の水が噴き出しているにも関わらず、何故か即席の池から水があふれてこないのだ。湧き出した水はどこへ行ったんだ?
不思議に思ってリナさんに聞いてみると、今回は水の湧き出す範囲を指定しているので、池からあふれた分はそのまま地面に戻っているんだって。
よく分からないけど、なんか凄い。
術の精度に密かに感心しながら見ていると、大興奮状態の犬族軍団とセーブル、それからお空部隊の鳥達が全員揃って池に突進して行ったよ。
そりゃあ水遊び大好きなマックス達やお空部隊の子達が、あの池と噴水を前にして我慢出来るわけがないよな。
次々に跳ね飛んで池に飛び込んで行くスライム達まで加わり、大はしゃぎで水遊びを始める従魔達を見て、俺達も揃って大笑いになったのだった。