ジェムの大量確保だ!
「おお、うじゃうじゃいるぞ〜〜」
ハスフェル達の案内で到着した場所は、タイミングよく発生したところだったみたいで、広い草原を見渡す限り巨大ダンゴムシのピルバグが埋め尽くしていた。
ちなみにピルバグは、亜種がいないから素材も無い。ううん、ダンゴムシは平気だけど……あれだけ大量にいるとちょっとキモイかも。
「うわあ、こんな大量のピルバグは初めて見ます!」
「あの、これって噂に聞く大量発生ってやつですか?」
ドン引きしたムジカ君とシェルタン君の叫ぶような声に、ハスフェル達がにんまりと笑って首を振る。
「いいや、ここはいつもこれくらいは出るぞ。ただし、消えるのも早いからとっととやっつけよう!」
ドヤ顔のハスフェルがそう言った直後、我慢しきれなかったのだろう猫族軍団とオオカミ達が一斉に駆け出していく。
「遅れをとるな〜〜〜!」
「おお〜〜〜!」
笑ったアーケル君の叫びに、リナさん達やランドルさん達だけでなく、クーヘンやマーサさんまでがそう叫んで抜刀して一気に駆け出して行った。
「あはは、じゃあ俺達も出遅れてなるものか〜〜〜!」
出遅れた俺が笑ってそう叫ぶと、ようやく笑顔になったムジカ君とシェルタン君の新人コンビも、雄叫びをあげて一気に駆け出していった。
もちろん、それぞれの従魔に乗ったままだ。そしてそのすぐ横には、新しく彼らの従魔になったサーバルのリベルターとリリスがピッタリと寄り添っている。
二匹は、ニニ達が駆け出して行った時に一瞬一緒に走り出しかけたのだが、それぞれのご主人を見ていそいそとすぐ横へ行って、側にくっついて彼らが動くのを待っていたんだよな。
二人が駆け出して行ってから、俺もマックスに合図を送って進ませた。
マックスは、そりゃあもう大張り切りで丸くなったピルバグを前脚で弾き飛ばしている。
はい、巨大ダンゴムシ軍団は、もう完全に従魔達のおもちゃと化しております。
一応術を使って戦っているリナさん達やマーサさん達は、俺達からかなり離れた場所で戦っている。
一番広い中央部分は従魔達が大張り切りで戦っていて、ハスフェル達は、リナさん達とは反対側の端の方で適当感満載で戦っている。
ムジカ君とシェルタン君の新人コンビは中央やや手前側を陣取り、それぞれの従魔達に助けられつつなかなか豪快に戦っていた。
ムジカ君は地面スレスレに大きな水の玉を出して、従魔達が追い込んでくれるピルバグをそこに水没させて一気にジェムにしている。
だけどそんな術を使えないシェルタン君は、走るピッピの背の上で立ったまま装備していた片手剣を抜いて持ち、近くに来るピルバグを撫でるみたいにして切っては一匹ずつジェムにしていた。
サーバル達は、そんな彼らの周りで主に彼らの死角に飛び込んでくるピルバグを叩いたり蹴飛ばしたりしてこれまた見事にジェムを確保していた。
シェルタン君の手綱を握る左手の手首部分には、小さいが丸い盾が装着してあって、時折横から突っ込んでくるピルバグを咄嗟に弾き飛ばしている。
「へえ、あんな盾の使い方もあるんだ。新人だって思っていたけど、結構頑張ってるよなあ」
密かに感心しつつ、俺のスライム達にも声をかけて、彼らの背後を守ってやる。
正直言って、マックスが大張り切りしてジェムを大量生産してくれているので、無理に俺が戦う必要はほぼ無いんだけど、一応俺もマックスの背の上でカメレオンビートルの槍を取り出して、近くに来たピルバグをせっせと突いてはジェムにしていった。
「ううん、確かに彼らがすぐに消えると言った意味が分かった気がするな」
ゴロゴロとジェムが転がる地面を見ながら思わずそう呟く。確かに、いつもよりも一面クリアーするのがかなり早い。まあ人数が人数だからってのもあるだろうけどさ。
「うわあ、凄い」
「でも、これって……」
地面に転がる大量のジェムを見て、困ったように顔を見合わせる新人コンビ。
「大丈夫だよ。スライム達には自分のご主人と仲間の従魔が倒したジェムや素材が分かるからな。まあピルバグは素材がないからジェムだけだけどさ」
彼らの言いたい事が分かった俺が笑ってそう教えてやると、驚いたように揃って目を見開く新人コンビ。
「ええとね。これはこっちの子達の分だよ。自分のご主人のを取ってね」
驚く彼らに詳しい説明をしてやろうとしたら、タイミングよくアクアとサクラとアルファ、それからベータがわざとジェムを体内に収めたままこっちへやってきた。
そして、彼らの従魔のスライムの前に一斉に吐き出したのだ。
これは収納したのではなく、ジェムを単に体内に取り込んで運んできただけだ。
「ええ? 俺達の分が分かるの?」
ムジカ君の戸惑うような言葉に、彼のスライムのキララがビヨンって感じに伸び上がった。
俺には分かるぞ。あれはドヤ顔だ。
「もちろん分かるよ〜〜! ええとね、ご主人の分はこれとこれと〜〜!」
得意そうにそう言ったキララは、触手を伸ばしてせっせとジェムを分別し始めた。それを見て、シェルタン君のピンキーとスイミーも一緒になってジェムを選び始める。
また、アクア達が追加のジェムを運んできて彼らの前に積み上げていく。
「ええ、俺達こんなに倒していないですよ?」
俺達よりは遥かに少ないが、予想以上に積み上がったジェムの山を見て新人コンビが慌てている。
「だけどあれって、彼らと彼らの従魔達が集めた分だよな?」
特にジェムを分けろと命じてはいないので、あれは本当に彼ら自身と彼らの従魔が倒したジェムのはずだ。
一応確認の為に足元にいたアクアに聞いてみる。
「そうだよ〜〜! 皆張り切ってやっつけていたからね!」
ビヨンと伸び上がったアクアの言葉になんとなく納得した。
単に大暴れしただけに見えた従魔達だったけど、どうやら一撃で叩き潰すのではなく、弱らせてから最後のトドメを新人コンビの従魔達に多くやらせていたみたいだ。それなら、彼らが倒した事になるからな。
「従魔達が頑張ってくれたみたいだぞ。良いじゃないか。従魔が集めてくれたのは君達の取り分なんだから、堂々と貰えばいいさ。まだ借金があるんだろう?」
揃ってコクコクと頷く彼らを見て、皆も笑顔になったのだった。