この後の予定と俺の苦手なもの!
「どうする、無事にテイム出来た事だし、一度街へ戻るか?」
新しい従魔達とのスキンシップを終えたムジカ君達やリナさん達を見て、俺はそう言いながら西の空を振り返った。
まだ赤くなるほどではないが、確実に午後の太陽は少し傾き始めている。
「そうだな。とりあえず今日の目標は充分達成出来たみたいだから、戻っても良かろう」
頷くハスフェルの言葉に、マックスの向きを変えた俺はふと思いついて慌ててハスフェルを振り返った。
「なあ、それなら帰る途中で何処かに狩りの出来そうな場所がないか? もしあれば、新人従魔達の戦いっぷりを見られるかと思うんだけど……どうだ?」
何しろ、新人の二人はスライムに始まりオオワシとサーバルまでテイム出来たんだから、こちらは大成功だよ。
それだけでなくリナさんとアーケル君、ランドルさんとボルヴィスさんまでがサーバルをテイムしたんだから、戦いたくなっているのではと思っての提案だ。
「ああ、それはいいですね。ぜひ行きましょう!」
「俺も行きたいですね。ぜひお願いします」
笑ったムジカ君とシェルタン君の言葉に、リナさん達やランドルさん達も笑顔で頷いている。そしてその横では、今日は完全に見学者になっていたクーヘンとマーサさんも、狩りに行くと聞いてそれはそれは張り切っていたのだった。
どうやら新人さん達の頑張りっぷりを見て、皆の闘争本能にも火がついたらしい。
そして、狩りが出来ると聞いて、こちらも当然ながら大張り切りの従魔達だったよ。
「そうだな。それなら何処へ行くかなあ」
「下位の魔物で近くならウサギかスライム、あとはちょっと足を伸ばせば、ピルバグかグリーンバタフライの……」
「それは無理〜〜〜〜!」
何か言いたげにちらっとこっちを見たギイの言葉に、俺は即座顔の前でばつ印を作って力一杯そう叫んだ。
「そこまで嫌がらなくてもいいと思うんだがなあ。まあ、苦手なのは仕方あるまい。どうする? 何か希望はあるか?」
最後はムジカ君とシェルタン君を振り返っての質問だ。
「高く売れるジェムなら、ピルバグかグリーンバタフライの幼虫だなあ」
「確かに。昆虫系はまあまあ良い値がつく」
新人二人の言葉を聞いて、俺は遠い目になったよ。
ピルバグなら俺でも参加出来るけど、もう一つの方は……うん、もし行くなら俺は夕食準備をしておこう!
頭の中で力一杯そう叫んだ俺は、苦笑いしながらハスフェル達を見た。
「じゃあピルバグかな。ちなみにここって街からは遠いのか?」
郊外の景色って割と何処も似たような感じなので、正直言ってここが何処なのかがいまいち理解出来ていない俺はそう言って周囲を見回した。
「まあ、徒歩や馬では到底来られない場所だよ。俺達なら、今すぐ戻ればギリギリ日暮れまでに帰れるかな、ってところだな」
「今から狩りに行っていたら、今夜は間違いなく外で野営だな」
笑ったハスフェルとギイの言葉にちょっと考えてマーサさんとクーヘンを振り返る。
この顔ぶれで定職についているのはこの二人だけだからな。
「ええと、二人は街へ戻らなくても大丈夫ですか?」
すると俺の言葉に顔を見合わせた二人は、何故か揃って吹き出して大爆笑している。
「ね、言ったでしょう? 絶対こうなるって」
「確かにその通りになったね。いやあ、ご慧眼恐れ入ったよ」
笑ったクーヘンの言葉に、マーサさんも笑いながら何度も頷いている。
「大丈夫ですよ。ちゃんと街へ出る前に事務所に連絡してあります。もしかしたら今夜は戻れないかもしれないけど、心配はいらないからって」
なんとか笑いを収めて、俺達を見てドヤ顔でそう言うマーサさん。
「俺も兄さんに頼んで来てあります。もしかしたら皆と一緒に郊外へ出るかもしれないので、もし戻らなかったら今日の店の締めをお願いしますってね」
そして、同じく笑いながらドヤ顔になるクーヘン。
「あはは、じゃあこのまま狩りに行っても何の問題もないな」
笑った俺の言葉に拍手喝采になる。
「だけど、ピルバグならまだしも、グリーンバタフライの幼虫のところなんて、俺は絶対に行かないぞ」
もう一度顔の前でばつ印を作る俺を見て、ムジカ君とシェルタン君が揃って困ったようにしている。
まあ、そうだよな。彼らにしてみれば、お金になるジェムモンスターのところへ連れて行ってくれると言うのだから断る理由なんてない。それなのに、俺だけ反対している理由が分からなくて困っている。
でもごめんよ。マジでそっち方面は無理だからさ。
すると、苦笑いしたハスフェルが二人のところへ行き、顔を寄せて何か話をしている。
しばらくして思いっきり吹き出した二人が、揃って俺を振り返った。
「ケンさん……まさか、芋虫が苦手って本当なんですか?」
「マジっすか? 芋虫なんて、旅をしていたら何処にでもいますよ?」
絶対冗談だろうと言わんばかりの二人の言葉に、俺は真顔で大きく頷く。
「いや、一匹や二匹くらいならこうやって指で弾いて飛ばせば終わりだから大丈夫だよ。俺が駄目なのは群れで出てくるやつ。特にデカいジェムモンスターが群れで出てきた時点で、もう絶対に無理!」
断言する俺の言葉に、笑った二人がうんうんと頷く。
「分かりました。そういう事なら仕方がないですね」
「じゃあ俺達が、頑張ってケンさんの分も戦います!」
「あはは、よろしくな。だけど俺の場合は従魔達が張り切ってくれるから大丈夫だよ。どちらかと言うと、二人の方こそ従魔達に弾き飛ばされないように気をつけてな。特にピルバグはうちの子達は大好きなんだよ」
ボール遊び感覚で大はしゃぎする従魔達を思い出して、もう笑うしかない俺だったよ。
「じゃあ、ピルバグ戦にはお前も参加しろ。それで、グリーンバタフライの幼虫の時は、またキャンプ地を決めてやるからそこで料理でもしていてくれ」
「おう! それでお願いします!」
笑ったハスフェルの提案に即答する俺を見て、ムジカ君とシェルタン君はまたしても堪える間も無く吹き出し、全員揃って大爆笑になったのだった。