それぞれのテイム!
「じゃあ、一番最初が俺で二匹目がいればボルヴィスさん、三匹目がいればランドルさんで、母さんが最後だな」
どうやら話し合いは終わったらしく、満面の笑みのアーケル君の一番宣言に、横で見ていた俺達は笑って拍手してやった。
「さて、何匹来るかな〜〜」
見るからにワクワクって感じで目を輝かせているアーケル君を見て、四匹確保しているのを知ってる俺は、ちょっと笑っちゃったよ。
『では、まずは二匹お届けしますね』
その時脳内に笑ったベリーの声が届き、その直後にさっきとはまた別の林からニニ達が転がり出てきた。
「おお、また二匹いるぞ!」
嬉しそうなアーケル君の叫ぶ声に、ボルヴィスさんも目を輝かせている。
そして、ムジカ君とシェルタン君も同じくらいに目を輝かせて、俺達の従魔と協力してサーバルを確保する自分の従魔達を見つめていた。
「ええと、どっちにしますか?」
一番最初の権利を獲得したアーケル君が、二番目にテイム予定のボルヴィスさんを見ながらそう尋ねている。
見る限り、二匹の大きさにほぼ差はないように見えるが、見かけには少し違いがあって、手前側の方の子が若干全体の体色が濃いベージュの斑点模様になっている。しかもその斑点模様が、俺のソレイユよりも全体に粒が大きいように見える。
「俺はどちらでも構わないよ。アーケルが好きな方を選んでくれればいい」
笑ったボルヴィスさんにそう言われて、嬉しそうに頷いたアーケル君が腰の短剣を抜いて進み出た。
「じゃあ、手前側の濃い色の方の子にします。なあ、俺が術を発動したらすぐに逃げてくれよな。この術は巻き込まれる可能性があるからさ」
笑ったアーケル君の言葉に、サーバルを確保していたニニとマロンとリベルターが揃って頷く。
おお、どうやらリベルターも、アーケル君のとんでもない術の威力を他の従魔達から聞いているみたいだ。
「よし、やるぞ! 押さえろ!」
手にした短剣を高々と上げたアーケル君は、そのまま大きな声でそう叫んで目標のサーバルに向かって例のあの術をぶっ放した。
そう、あのとんでもない威力の風と土の術の応用で放たれる過剰重力だ。
もちろん、アーケル君が過剰重力の術をぶっ放した瞬間に、ニニとマロンとリベルターは即座にサーバルから離れて逃げているので無事だ。
それに対して、文字通り全身を地面に押さえつけられたサーバルの方は、何が起こっているのかすら分からなかっただろう。
全く身動きが出来ずに地面に張り付くようにしながら目を白黒させているサーバルを見て、さらに力を加えるアーケル君。
サーバルが口を開けてはあはあ言い出したのを見て、小さく頷いて術を解く。
「俺の仲間になるか?」
頭を押さえつけたアーケル君のその言葉に、サーバルは目を閉じる。
「はい、貴方に従います」
可愛い声なので、この子は雌だったみたいだ。
「お前の名前は、チュールだよ。よろしくな。チュール。紋章は何処につける?」
嬉しそうなアーケル君の言葉に、ゆっくりと起き上がって良い子座りになったチュールは、グイって感じに胸を反らせた。
「ここにお願いします!」
笑顔で頷いたアーケル君がチュールに紋章を刻む。
「うわあ、これはまた違ったふわふわだな! なあ、一緒に寝ような!」
個人的欲望ダダ漏れなその言葉に、俺達は揃って吹き出して大爆笑になったよ。
俺の元いた世界にあった、ニニも大好きだったあの細長いパッケージに入ったペースト状のおやつを思い出してしまい、もう笑いが止まらない俺だったよ。
「では、次は私ですね」
笑ったボルヴィスさんが、嬉しそうにゆっくりと進み出る。
「自力で、これほど強い子を確保するのは初めてですね。でも、やってみます」
その言葉に、思わず俺は真顔になる。
「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。そこで見ていてください」
自信ありげなその様子に、苦笑いして下がる。
ボルヴィスさんは、テイマーになった時点ですでに上位冒険者だったんだから、初心者冒険者と違って俺が心配する必要なんてないよな。
そう思って見ていると、ボルヴィスさんは腰に装着している大剣ではなく、もう一本装備していた短剣を抜いて構えた。
どうしてわざわざ短剣を抜くのかと思って驚いてよく見ると、その短剣の柄には親指の爪よりも大きな透明の石が見えて納得した。
知らなかったけど、どうやらボルヴィスさんも何かの術を使うみたいだ。
でも、大剣を装備しているところを見るともしかしたら魔法剣士的な戦い方なのかもしれない。
ちょっと興味津々でボルヴィスさんを見ていると、一つ大きく息を吸ったボルヴィスさんはティグとフォールが押さえ込んでいるサーバルに近付いて行った。
「風よ吹け!」
大声でそう言って、下から上へと構えた短剣を大きく振る。
その瞬間、轟音が響いて局地的台風と言うか竜巻が起こった。
以前リナさんがしたみたいに、目標のサーバルのところにだけ竜巻状になった暴風が吹き荒れている。
でも、首元を咥えて押さえ込んでいたティグとフォールにはほとんど影響がない。
それどころか、暴風のせいで体が浮きそうになっているサーバルを二匹がかりで必死に抑えている状態だ。
結局、もみくちゃにされたサーバルが情けない悲鳴のような声を上げて降参したところで術は止められ、ボルヴィスさんも簡単にサーバルをテイムしたのだった。
名前はサッシュ。紋章を刻まれたサッシュは嬉しそうにボルヴィスさんに抱きしめられていたよ。
そして、次の二匹も猫族軍団によってしっかりと確保されて、ランドルさんとリナさんが簡単にテイム完了。
リナさんは、雌のサーバルにチュチュって名前をつけ、ランドルさんの子も雌だったらしく、マッチャって名前をつけていた。うん、これは間違いなく、抹茶だな。
それぞれテイムしたサーバル達に抱きついて大喜びしている彼らを見て、俺もソレイユに抱きついて一緒になって笑っていたのだった。
うん、サーバルの一大勢力が猫族軍団内に誕生したみたいだ。
さて、ソレイユは猫族軍団の中ではちょっと弱めだったけど、他の子達は戦力的にはどうなんだろうね?