サーバルのテイムとそのやり方
「よし! よく頑張ったな。おめでとう、これでお前も立派な魔獣使いだぞ。じゃあ俺もテイムするから、そこで見ていてくれよな!」
満面の笑みで進み出たムジカ君の言葉に、リベルターを抱きしめていたシェルタン君も、顔を上げて満面の笑みで頷く。
「おう、行ってこい!」
笑って頭上で手を叩き合う将来有望な若者二人を見て、保護者一同はまたしてもあふれてきた感激の涙を慌てて拭って誤魔化していたのだった。
そしてヤミーとルルちゃんが押さえ込んでいたもう一匹の大きなサーバルも、最初こそ嫌がるように唸ってムジカ君を睨みつけていたんだけど、猫族軍団がゆっくりとまた喉を鳴らし始めたのを聞いてしばらくすると、やっぱり何故か一緒になって喉を鳴らし始めた。
しかも見ていると、今回もさっきと同じようにどんどんサーバルがリラックスしていく。
そして、ムジカ君はそんなサーバルをあっという間にテイムしたよ。
彼はもう、大型の相手でも余裕を持って対応しているみたいに見えた。
この子は雌だったみたいだけど、大きくなったら先程のリベルターよりもちょっと小さいくらいだったから、これも猫族軍団の中では上位クラスの大きさだ。
そしてムジカ君は、無事にテイム出来たそのサーバルにリリスって名前をつけて自分の紋章を刻んだ。
ちなみにムジカ君の紋章は、小さな花模様の中に千鳥模様っぽい可愛い鳥の意匠が描かれている。なんとも彼らしい紋章だ。
その紋章を胸元に刻まれたサーバルのリリスは、光った後にそのまま一気に猫サイズにまで小さくなった。
おお、めっちゃスリムで可愛いぞ!
まあ、耳は猫にしては有り得ないくらいに大きいのはうちのソレイユと一緒なんだけどね。
無事に大物のテイムを終えて安堵したのか、腰が抜けたみたいに二人は揃ってその場に座り込んでしまい、それでも嬉しそうにお互いのサーバルを撫でて笑い合っている。
そんな二人を見て、俺達も揃って安堵のため息を吐いたのだった。
「なあ、ところでさっきのあの喉を鳴らしてリラックスさせるのって、物理的に叩きのめしたり、術を使って叩きのめして確保するのと同じくらいの効果があるよな? それに、押さえ込まれているのに二匹とも寛いでたのは、どういう訳なんだ?」
あれは初めて見るやり方だったので、ふと思いついて側にいたニニにそう聞いてみる。
「そうね。まだあの新人の子達はサーバルと直接対峙して確保するのはちょっと無理だと思ったから、以前から考えていたやり方をやってみたの。思った以上に上手くいったわ」
目を細めたニニの満足そうな言葉に、思わず考える。
「ええと、つまり誰でもどんな相手でも出来るやり方じゃあないって事?」
「そう。あれは最初に圧倒的な力で一度私達が確保しているからこそ成功したやり方ね。つまり、テイムされる側よりも確保する側が圧倒的に強くないと無理なやり方ね。例えばティグみたいな強い子が相手だったら、まあ確保は出来るだろうけど、あんなやり方は出来ないわね。あれはつまり、今からあなたをテイムする人の子は、あなたをこんなに簡単にやっつけて確保できるくらいに強い私達が、信頼して従う凄い相手なんだよ。って教えてあげているわけ」
笑った得意そうなニニの説明に納得する。
成る程。俺達の従魔が一度圧倒的に叩きのめしているから、その従魔達が従うくらいの人の子ならば、従っても良いと思わせたわけか。
「さすがだな。正直に言うと、確保の際には手伝うつもりだったんだけど、お前らのおかげで俺達の出る幕なんてなかったよ。ありがとうな」
嬉しそうに笑った俺の言葉に、ニニだけでなく揃ってドヤ顔になる猫族軍団だったよ。
『どうやら二人とも無事にテイム出来たようですね。おめでとうございます。ところであと四匹ほど存在を確認しているんですがどうしますか? 誰かテイムするなら弱らせて追い込んで差し上げますが?』
その時、いきなりトークルーム全開で聞こえてきたベリーの言葉に、俺達は揃って堪えきれずに吹き出してしまい、誤魔化すように揃って咳き込んで皆に心配されたのだった。
「なあ、ベリーがサーバルを確認してくれているみたいなんだ。リナさん達やランドルさん達もサーバルをテイムしたがっているみたいだから、追い込むのを手伝ってやってくれるか?」
一応、ベリーの存在はボルヴィスさんやムジカ君達には話していないから、彼に追い込みしてもらうわけにはいかないもんな。
「そうなのね、もちろん喜んで協力するわ。仲間が増えるのは嬉しいものね」
俺の言葉に目を細めたニニは嬉しそうにそう言って笑い、仲間の猫族軍団を見る。
テイムのあとはもふ塊になって寛いでいた猫族軍団の子達が、一斉にやる気満々で起き上がり先を争うようにして走っていく。
新しく仲間になったリベルターとリリスも、それを見て当然のように巨大化してその後を追って走って行った。
「ええと、リリスによるとこの周辺にまだ数匹サーバルがいるみたいです。確保してくるんだって言って、走って行きましたよ」
俺が口を開くよりも早く、満面の笑みになったムジカ君がリナさん達やランドルさんに説明をしている。
おお、さっき従魔達の話す言葉が聞こえるようになったところなのに、もう完全な意思疎通が出来ているなんて、ムジカ君は思った以上に優秀みたいだ。
何匹いるか分からないので、誰が一番にテイムするか楽しそうに相談し始めたリナさん達を見て、俺はどうするべきかちょっと考える。
一応テイムに名乗りを上げているのは、リナさんとアーケル君、それからランドルさんとボルヴィスさんの四人だ。
「ううん、ソレイユは特に同族が欲しいとは言っていなかったしなあ。もしも五匹目がいたら考えてみるか」
さすがにこれだけ従魔がいたら、そろそろ打ち止めにしてもいいかも。
苦笑いしつつそう考えた俺は、今回は積極的には参加しない事にしたよ。
まあ、もしもまたセーブルやヤミーみたいな事情持ちの子がいればその時はその時だ。
小さく笑った俺は、自分の安全を確保する為に手綱を掴んでマックスの背中に飛び乗ったのだった。