サーバルとの対決!
「うわっ! デカい!」
「うわあ! デカい!」
猫族軍団と一緒に林から転がり出てきたかなり大きな二匹のサーバルを見て、新人二人の口からほぼ同じ叫び声が聞こえた。
ただし、ムジカ君の叫びはなんだか嬉しそうな叫びだったのに対して、シェルタン君の叫びは若干怯えが混じっていて、その体勢も身を乗り出すようにしてガン見しているムジカ君に対して、シェルタン君は完全に腰が引けている。
彼を乗せていたホーンラビットのピッピも、ご主人の不安を察知したらしく心配そうな顔をして少し下がった。
「どうだ? どちらもかなり大きな個体みたいだけど、いけそうか? 駄目だと思うなら無理はしなくていい。その場合はあっちに頼むからな」
俺の言葉に、ムジカ君はやる気満々で進み出る。
「俺はやってみます! シェルタン。お前はどうするんだ?」
「お、俺は……」
完全に怖がっている口調のシェルタン君の声を聞いて、これは無理だと俺は思った。
無理はしなくていい。
シェルタン君にそう言おうとした時、一つ大きく深呼吸をしたシェルタン君は乗っていたピッピの背から飛び降りて俺を見上げた。
「怖いけどやってみます。ここで怖がって逃げたら……俺は、二度とこいつら以上の強い魔獣やジェムモンスターをテイムできない気がする。怖いけど頑張ってみます!」
まだ怯えてはいるようだが、目と声には力が入っているのが分かって俺は大きく頷いてやった。
「よし、それでこそ魔獣使いだ! 行ってこい!」
マックスの背から飛び降りた俺は、大きな声でそう言って彼の背中を力一杯叩いてやる。
「はい! 見ていてください!」
頬を真っ赤にしたシェルタン君は、そう言ってサーバルに向き直った。
大きな二匹のサーバルは、巨大化した猫族軍団によって完全に押さえ込まれ確保されている。
しかし、二匹とも闘志は衰えていないらしく、低い声でグルグルと唸りながら二人を睨みつけている。
その様子は、貴様ら如きに自分を支配出来るのか? と言わんばかりの力強い視線だった。
「俺が先にやってもいいか?」
シェルタン君が、一つゴクリと唾を飲み込んでからやや低めの声でそう言ってムジカ君を見る。
「構わないけど……本当に大丈夫か?」
「うん、やってみる」
真剣な声でそう言ったシェルタン君は、ゆっくりとサーバルに近いていく。
サーバルを押さえ込んでいるティグとマロンが、それを見て軽く身震いしてからゆっくりと喉を鳴らし始めた。
ティグがサーバルの首元を背中側から噛みついて全身でのしかかるみたいにして押さえ込み、マロンは右横やや下側から、こちらも喉元に噛み付いて両前脚を自分の前脚で完全に封じている。
当然だけど、どちらも噛み付いているのは完全に急所。
しかし、ここで不思議な事が起こった。
ティグとマロンが噛み付いたままゆっくりと喉を鳴らし始めたのを見て、他の猫族軍団の子達がそれぞれに喉を鳴らし始めたのだ。
すると、唸っていたはずの押さえ込まれたサーバルまでもが、一緒になって喉を鳴らし始めたのだ。
その様子は先ほどまでと違っていて、ぐっとリラックスしたみたいに見える。
呆気に取られた俺達が見守る中、シェルタン君はゆっくりとサーバルのすぐ横まで来て足を止めた。
右手で自分の胸元を押さえてもう一度深呼吸をしたシェルタン君は、いきなり右手を振りかぶってサーバルの頭を押さえ込んだ。
当然ティグとマロンがしっかりと確保しているので大丈夫なんだけど、まさかの予備動作なしの行動に見ていた俺達の方がびっくりして飛び上がったよ。
しかし、サーバルはほとんど抵抗らしい抵抗をしない。
どうやらシェルタン君とは戦わなかったけど、あれで完全に確保出来ているみたいだ。
「俺の、俺の仲間になってくれるか?」
静かな、でも強い思いを込めたその言葉が猫族軍団の子達が鳴らす喉の音に重なる。
「はい。貴方に従います」
ピカっと光ったのと同時に聞こえてきたのは、やや低めの雄の声だ。
それを聞いてからティグとマロンがゆっくりとサーバルを解放して下がる。とは言え、何かあればすぐに飛びかかれる位置で止まる。
まだ少し緊張はしているみたいだけど、もう安心して見ていられるくらいに落ち着いているし、声に力がある。
うん、あれならもう大丈夫だろう。
ゆっくりと起き上がって良い子座りになったサーバルの前に、改めてシェルタン君が進み出る。
「お前の名前は、リベルターだ。よろしくな、リベルター。俺、まだ自分の紋章を持っていないんだ。だからすまないけど、紋章を刻むのはもうちょっと待ってくれるか」
額に手を当てて嬉しそうにそう言ったシェルタン君の言葉の直後、もう一度ピカっと光ったリベルターは、ググッと大きくなった。
おお、これはかなりの大物だぞ。
全体に細いとはいえマックスよりちょっと小さいくらいだから、猫族軍団の中でも上位クラスの大きさだ。
自分よりも遥かに大きくなったリベルターを見上げたシェルタン君は、大きな声を上げてその胸元に飛びついた。
「ありがとう。俺の、俺なんかの従魔になってくれて……本当にありがとう……約束する。絶対に大事にする。死ぬまでずっと一緒だ……」
途中からは感激のあまり泣き出したシェルタン君に、大きく喉を鳴らしたリベルターは甘えるみたいに何度も頬擦りをしていたのだった。
俺達見学組も、ちょっと感動の余りもらい泣きしていたのは内緒だ。
そして、マックスの頭の上に座ったシャムエル様までもが一緒になって鼻を啜っていたのを見て、俺はそっと手を伸ばしてシャムエル様を横から撫でてやった。
「うん、よかったね」
ちょっと感動に震えているシャムエル様の呟きに、俺も笑って大きく頷く。
「そうだな。よかったよ」
「じゃあ、次はムジカ君だね。頑張れ〜〜!」
笑ってくるっととんぼ返りを決めたシャムエル様の言葉に、俺も笑顔でもう一度大きく頷いたのだった。
そうだな。ムジカ君も頑張れ!