サーバルの捜索開始だ!
「一応この辺りなんだがなあ……ちょっと見つけるのはかなり大変そうだな」
到着した大きな森を抜けた先にあった平原を見渡しながら、ハスフェルが苦笑いしながらそう呟く。
見渡す限りの平原は、若干凸凹しているところもあるがほぼ平らだ。だけど時折林があって視界が遮られているから、猫科のジェムモンスターが潜むにはうってつけの場所のように見える。
「確かにちょっと大変そうだなあ。それどころか、迂闊に近寄ったら俺達の方が獲物認定されそうだ。まあ、ここの捜索は猫科の従魔達にお願いするのがいいんじゃあないか?」
俺の言葉に、ハスフェルとギイも苦笑いしつつ頷いている。
『大丈夫ですよ。私とフランマも捜索と追い込みは手伝いますからご心配なく。一応、周囲に数匹程度は気配がありますね。見つけたら少し弱らせてから追い込んで差し上げますので、ケン達は見晴らしの良い場所にいてくださいね』
笑ったベリーの声が念話で聞こえて思わず周りを見回すと、すぐ近くに大小二つの揺らぎが一瞬だけ見えて、すぐに消えてしまった。
『おう、よろしくお願いします!』
『ちなみに、新人さん二人だけじゃあなく、他の方々もやる気満々みたいですね。さて、何匹見つけられるでしょうかねえ』
妙に嬉しそうなベリーの呟きが念話で聞こえて、思わず吹き出した俺達だったよ。
「じゃあご主人、私達も探しに行ってくるわね。一応、護衛役にオオカミ達とセーブルを置いていくから、あまり離れずにこの辺りにいてね。ここなら見晴らしがいいから、万一何か現れて襲ってきても発見は容易だろうからね」
笑ったニニの言葉に、俺はマックスの背に乗ったまま笑って頷く。
周囲を見回すと、少し離れたところに巨大化したセーブルがいて、俺のオオカミコンビのテンペストとファインだけじゃあなく、ランドルさんが連れているシュークリームとエクレアや、クーヘンが連れているファングも一緒に俺達から少し離れたところで集まっていて、俺の視線に揃って振り返ったけど全員揃って得意そうなドヤ顔になっていたよ。
ちなみに、草食チームやイグアナ達も居残り組だ。お空部隊の子達は、上空を巨大化して制圧してくれているから、待機中も空から襲われる心配もしなくていい。
ハリネズミのエリーが、俺の鞄のポケットから抜け出して地面に転がり落ちて一気に巨大化する。
「ううん、大型犬サイズのハリネズミって、何度見ても凄いよなあ。あのデカくて長い針って、今の俺が身につけている防具でも貫くのかな?」
若干ドン引きしつつそんな事を考えていたら、振り返ったエリーが俺に見せつけるみたいに一気に丸くなって文字通り針山になった。
「おお、お見事〜〜でもさすがにちょっと怖いから普通に戻っておくれ」
笑った俺の声が聞こえたみたいで、エリーも笑いながら体を伸ばしてもう少し離れた。今は針は倒れているのでこっちに先端は向いていない。
うん、あれなら怖くないな。
オオカミ軍団がゆっくりと俺達を取り囲むみたいに展開するのを見て、マックス達が少し移動し始めた。
「あれ? どうしたんだ? あまり離れない方がいいんじゃあなかったのか?」
マックスを覗き込みながらそう尋ねると、こっちを振り返ったマックスがワンと吠えた。
おお。ちょっと今の鳴き方は犬っぽかったぞ。
「この辺りはちょっと足場が良くないので、待機するならあっちの方がいいですよ。サーバルを見つけて確保すれば、地面に降りてテイムしなければいけませんからね」
笑ったマックスがそう言いながら向かう先は、大きな岩が転がっているちょっと足場が悪そうな場所みたいだ。
「ええ、草原よりあんな大岩がある方が危なくないか?」
思わずそう尋ねると、目を細めて笑ったマックスがもう一回ワンと吠えた。
「先ほどの場所は、地面に砂が多いんですよ。なので、万一戦いになった際に踏ん張れなくて危険です。しかも、幾つか大きな穴が空いている箇所があってしかも脆くなっていました。多分もぐら達の仕業なんだと思いますが、我らの体重でうっかり穴を踏み抜いてしまうと危ないですからね」
「ああ、そういうのがあるんだ。成る程。そりゃあ危険だな」
マックスの説明に納得して頷く。
「あっちは地面が岩盤なので、足場はかなり安定していますからここよりは安全です。一応割れや地下水路がないかはスライム達が確認してくれますので、落ちる心配はしなくていいですよ」
ほぼ俺のトラウマと化している、あの地下迷宮での水路に足元を踏み抜いて落っこちた事件を思い出して遠い目になる。
まあ、今となっては笑い話なんだけど、あの時は冗談抜きで死ぬかと思ったもんなあ……。
「そうだな。よろしく頼むよ。さすがに二回も水路に落っこちるのは勘弁してほしいからな」
苦笑いした俺の言葉に、目を細めたマックスがもう一回ワンと鳴いた。
「なんだよそれ。犬みたいだぞ」
笑いながら腕を伸ばしてマックスを撫でてやる。
マックスはもう一回嬉しそうにワンと鳴くと、周りを取り囲んでくれているオオカミ達までが、何やら嬉しそうに一緒になって犬っぽく鳴き始めた。
その様子がなんだか妙に面白くて、手綱を握りしめたまま笑いが止まらない俺だったよ。
しばらくする事もなくて、そんな感じでのんびりと鞍上で寛いでいたら、不意にベリーの念話が頭の中に響いて俺とハスフェル達は飛び上がった。
『良さそうなのを二匹見つけました! ちょっと弱らせてから追い込みますね!』
その直後に、遠くの林の木々がもの凄い勢いでガサガサと揺れ始めた。
のんびりとしていた雰囲気が一気に引き締まる。
ムジカ君とシェルタン君は、それぞれの騎獣に乗ったままめっちゃ緊張した顔で揺れ動く林をガン見している。
うん、緊張するのは分かるけど、瞬きはしような。目が乾くよ。
こっそり脳内で突っ込んでいると、林の中から猫族軍団が塊になって転がり出てきた。
おお、確かに見慣れないサーバルが二匹いるぞ。
ただし、俺のソレイユよりかなり大きなその姿に、割と本気で驚いた俺だったよ。
ええ、あんなデカいの新人さん達にテイム出来るかな?