オオワシのテイムとシェルタン君の告白
「よし、じゃあまずはオオワシを地面に追い込んで落としてくれるか」
俺の大声に応えるように上空を旋回していたファルコが甲高い声で鳴き、他の子達もそれに続いて一声大きく鳴いた。
するとそれを合図にしたかのように、上空にいた子達が一斉に動き始めた。
リナさんやランドルさんが連れているイーグレット達が巨大化してさらに高度を増し、いってみればオオワシ達の頭上を確保する。
そしてローザやブランを筆頭にしたオウムとインコ部隊が巨大化して広がり。ファルコ達のやや下を大きく円を描くようにして飛び始めた。
これで標的となったオオワシ達は、上にも横にも逃げ場を塞がれてしまった状態になり、下に逃げるしかなくなってしまった。
一気にすり抜けるつもりなのだろう。急降下してきたオオワシ達だがそこにいたのは、同じく巨大化したファルコとプティラ、そしてクーヘンが連れているミニラプトルのピノが襲いかかった。
まず、巨大化したファルコが一羽の翼部分を脚で捕まえてそのまま地面へ叩き落とす。
ファルコほど飛ぶのが上手くないミニラプトル二匹も、左右からタイミングを合わせて一羽のオオワシに襲い掛かり、見事に確保して地面に叩き落とした。
即座に襲いかかって確保する猫族軍団。
出遅れて間に合わなかった犬族軍団が悔しそうにしているのを見て、俺達は思わず吹き出したよ。
「よし、もう抵抗していないから確保出来ているな。じゃあ頑張ってテイムしてみるといいぞ。でも、無理だと思ったら止めていいからな」
さっきほどではないが、明らかに一気に緊張するのが分かったシェルタン君の背中をそう言って軽く叩いてやる。
「は、はい。やってみます!」
若干声は緊張してはいるが、これなら大丈夫と見て一旦下がる。
皆も、何かあればすぐに助けに入れるよう軽く身構えたまま黙って見つめているだけで口出しはしてこない。
「じゃあ、俺はこっちの子を」
ごくりと唾を飲み込んだシェルタン君が、ファルコが落としてヤミーとマロンが確保しているオオワシを指差した。
「分かった。どうする? 先に俺がやった方がいいかな?」
「いや、今度は俺が先にやってみる」
やや緊張しつつもそう言って顔を上げたシェルタン君の言葉に、笑顔で頷いてムジカ君が下がる。
ゆっくりと目標のオオワシに近付き、片膝をついてしゃがむ。
それを見て、ヤミーが少し横にずれて場所を空けてくれた。
一つ息を吸い込んだシェルタン君は、右手で大鷲の頭を押さえつけた。
今のオオワシは、大型犬よりも大きいくらいのサイズで翼は広げた状態で地面に押さえつけられている。
なので頭の大きさも大型犬サイズで、シェルタン君の手がとても小さく見えてちょっと心配になる。
「俺の、俺の仲間になれ!」
明らかに力のこもった大きな声でそう言ってぐいっと押さえつける力を増す。
一瞬抵抗するかのように羽ばたきかけたオオワシを見て、ヤミーが即座に後ろ脚で翼を押さえつける。
しばしの沈黙の後、大鷲が甲高い声で鳴いてから答えた。
「はい、あなたに従います」と。
その言葉を聞いて、ヤミーとマロンがオオワシを解放して下がる。でも、何かあれば即座に飛びかかれる距離で止まった辺りはさすがだ。
「ありがとうな。お前の名前はアセロ、確か鋼って意味だ。その鋼のような強い翼で俺を守ってくれるか?」
「ありがとうございます! もちろん、喜んでお守りしますよ。それからいつでも命じていただけばこの背にご主人や仲間の従魔の皆様を乗せて差し上げますからね!」
ピカっと光ったアセロは、得意そうにそう言って一気に小さくなり、普段のファルコと同じくらいの大きさになった。
「では、普段はお邪魔にならぬようこれくらいの大きさでいますね」
嬉しそうにそう言って、軽く羽ばたいてシェルタン君の左肩に留まる。
「うん、うん……よろしく頼むよ。嬉しい、俺の従魔になってくれてありがとうな」
先程のような号泣ではないが、それでもポロポロと涙を流す彼を見てムジカ君がまた彼に抱きつく。
「うん、よくやった!」
「うん、ありがとうな。上手く出来たよ。じゃあ今度はお前の番だぞ」
まだ泣きながらも嬉しそうにそう言ったシェルタン君は、ムジカ君の腕を叩いて下がる。
「おう! じゃあそこで見ていてくれよな!」
笑ってそう言ったムジカ君の差し出した拳に、まだ泣きながらも笑顔になったシェルタン君が拳を打ち当てる。
もうそんな彼らの様子を見ている俺達は、ほぼ全員が保護者気分だ。
マーサさんは、もうこれ以上ないくらいに優しい眼差しで彼らを見つめているから、もしかしたら孫を見ているような気分かもしれない。
そして、こちらは簡単にオオワシをテイムしたムジカ君だったよ。
名前はジュジュ。シェルタン君のアセロは雄で、ムジカ君のジュジュは雌だったみたいだ。
嬉しそうにお互いの大鷲を撫であった二人は、改めて俺達に向き直って深々と頭を下げた。
「ありがとうございました! おかげで、素晴らしい子をテイム出来ました」
まだ少し赤い目をしたシェルタン君は、そう言って俺を見上げた。
「あの、俺の話を少しだけ聞いていただけますか。実は俺……辺境の村の出身なんですが、そこでその……ずっと……酷い虐待を受けていたんです。ずっと、役立たずだって言われて、父親代わりの男から殴られて、ろくに飯も食わせて貰えなくて……他の村の人から残飯を貰っていました。それで、家に入れて貰えなくて、厩舎で牛達と一緒に寝起きしていました」
突然の言葉に驚く俺達に、シェルタン君は泣きそうな顔でそれでも笑った。
「ある時村にやってきた行商人から、貴方の話を聞いたんです。それで、もしもテイマーになれたら村から逃げられると思って……」
「まさか、それでスライムをテイムしたって言うのか?」
驚く俺に、シェルタン君は少し恥ずかしそうに頷いた。
「夜明け前に行商人の荷馬車にこっそり潜り込んでそのまま村を出て、途中で荷馬車から飛び降りたんです。それで、森の中で見つけたスライムを棒で叩いて捕まえようとして、もう大格闘だったんです。最後は絡みつかれて必死になって引き剥がして地面に叩きつけたらテイム出来たみたいで……」
突然始まった重すぎるまさかの告白に、言葉もない俺達だったよ。