彼の事情と俺達の考え
「大丈夫だ。大丈夫だよ」
ずっと言い聞かせるようにそう言って、シェルタン君の背中を撫で続けるムジカ君。
「ご主人、大丈夫ですか?」
「スイミーはここにいるよ?」
「ピンキーも一緒だからね」
「ピッピだっていますよ!」
うずくまったままムジカ君に支えられて号泣しているシェルタン君に、集まってきた彼の従魔達が心配そうにそう言って頬擦りしたり触手を伸ばして彼の腕や頬を何度も撫でて、なんとか彼を泣き止ませようと必死になって慰めている。
「うん、うん、あり、が、とう、な」
しゃくりあげながらも、そう言って腕を伸ばして従魔達をまとめて抱きしめるシェルタン君。
「ずっと、一緒だ。ずっと、ずっと一緒だ……」
小さな声でそう呟きながら、シェルタン君は従魔達を抱きしめてまた泣き出す。
俺達は何も聞かずに、彼が泣き止むのを黙って待っていたのだった。
「あの、大変失礼しました」
しばらくしてようやく泣き止んだシェルタン君は、少し恥ずかしそうにしつつもそう言って立ち上がり、俺達に向かって深々と頭を下げた。
「おう、じゃあもう一度スライムのテイムをやってみるか? それとも、場所を変えて他のジェムモンスターをテイムしてみるか?」
あえて何も聞かずに、平然とそう言ってやる。
俺の言葉を聞いて笑顔になったハスフェルとギイが、揃って顔を見合わせる。
「そうだな。この近くにオオワシのジェムモンスターの生息地がある。鳥のジェムモンスターは一匹はテイムしておくべきだぞ」
オオワシがいると聞いて、ムジカ君の目が輝く。
「え……あの……」
まだ真っ赤なままの目を俺に向け、戸惑うようにそう言ったきり俯くシェルタン君の肩を俺はそっと叩いた。
「何か事情があるんだな。もしも俺達に何か出来る事があるなら、なんでも喜んで協力するから遠慮なく頼ってくれていいよ。もちろん君が事情を聞いてほしいと思うのなら話してくれれば喜んで聞くよ。だけど、君の事情を、無理に根掘り葉掘り聞こうとは思わないから安心していい」
本当は問い詰めてでも聞いたほうが良いのかもしれないが、なんとなくこっちからは無理に聞かない方がいい気がしたんだよな。
俺の言葉に、揃って目を見開くシェルタン君とムジカ君。
「い、いいんですか?」
戸惑うようなその言葉に、俺は笑って頷いてみせた。
「もちろん、誰にでも言いたくない事情の一つや二つあるだろう? 俺だって話せないあんな事やこんな事がいっぱいあるんだからさ」
肩をすくめながらの俺の言葉に、ハスフェルとギイとオンハルトの爺さんが揃って吹き出す。俺の右肩ではシャムエル様も大爆笑している。
「あ、ありがとうございます。ちょっと落ち着いて考えてみます」
もう一度腕の中の従魔達を抱きしめたシェルタン君は、一つ深呼吸をしてから顔を上げた。
「俺も鳥をテイムしたいです。よければオオワシの出現場所へ連れていってください。お願いします」
決意を秘めたシェルタン君の言葉にムジカ君も笑顔になる。
「おう、俺の子達も協力させるから頑張ってテイムしようぜ。お前も鳥の可愛さを思い知るがいい!」
何故かドヤ顔でそう言ったムジカ君の目にも涙があるのを見て、俺達は顔を見合わせて無言で頷き合いそのままそれぞれの騎獣に乗って移動していったのだった。
「結局ムジカ君は、スライムは一匹しかテイムしなかったんだな。ピンククリアーはいらないのか?」
ややゆっくり走りながら近くにいたムジカ君に話しかける。
「せっかくなので、今日は一匹だけにします。また次回スライムの巣があれば、今度はピンククリアーと一緒にレインボーカラーの子がいれば捕まえてテイムしてみます」
笑ったその言葉に、ようやく元の顔に戻ったシェルタン君も笑顔で頷いている。
「俺も今日の目標はスライムを一匹テイムする事だったので、無事にテイム出来て良かったです」
シェルタン君の言葉に、彼の両肩に乗っているスイミーとピンキーは、ちょっと伸び上がって得意そうだ。
ちなみに、さっきのスライムの巣にいたのは黄色の子だったので、俺達は誰もテイムしていない。まあ黄色はあちこちにいるから、慌ててテイムする必要はないよ。
「あの、さっきは上手くテイム出来て、ちょっと安心して気が緩んだせいでみっともないところをお見せしました。正直言って、次も上手くテイム出来るのかちょっと不安ですが、頑張ってみますので、よろしくお願いします」
「おう、頑張れ。でも無理だと思ったら引く事も選択のうちだぞ。肩の力を抜いて、楽にしてな」
「はい、無理はしないようにします」
俺の言葉に、少し恥ずかしそうに笑って頷くシェルタン君は、なんというか本当に中学生か高校生くらいの少年って感じに見えて、ちょっと萌えってなったのは内緒だ。
今ちょっと、知らない新たな扉を開きそうになったぞ。
「おお、本当だ。あれはオオワシだなあ。へえ、ファルコよりも全体に大きくて翼が大きくて羽も長いんだな」
ハスフェル達が案内してくれたオオワシのジェムモンスターの生息地では、確かに上空を舞うオオワシの姿が複数確認出来た。上空であの大きさなら、かなり大きそうだ。
それに、猛禽類のシルエットなんてどれも同じようなものだと思っていたけど、こうして見ると明らかにファルコとは形が違う。
少し考えて、俺はここではテイムしない事にしたよ。
今は定位置に戻ってきているお空部隊の面々やファルコをチラッと見たけど、皆、特に何も言わなかったしさ。
それぞれの騎獣から降りたムジカ君とシェルタン君は、顔を寄せて何やら真剣な様子で相談していたが、しばらくして顔を見合わせて揃って頷いた。
「あの、追い込んであのオオワシを落としたいので、お助けいただけますか!」
二人の声が揃い、もちろん手伝う気満々だった俺達はそのお願いに揃って笑顔で頷き、それぞれの従魔から降りてそれぞれの従魔の鳥達を一斉に空に放った。もちろんネージュも、お空部隊の子達と一緒に俺の肩から飛び立っていったよ。
もちろん、俺達だけじゃあなくてランドルさん達やリナさん一家も連れていた子を空に放っている。
「ううん、改めてみると、翼を持つ子達だけでもこれだけいるのか。いやあ、すげえな」
上空で一気に巨大化した従魔達を見て、ちょっと苦笑いになる俺だったよ。
さて、じゃあまずは二人にオオワシをテイムさせてやらないとな!