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平和な船旅

 ぺしぺしぺし……。

 ぺしぺしぺし……。

「うん、おはよう……」

 珍しくシャムエル様だけのモーニングぺしぺしに目を覚ました俺は、久し振りに枕を使って仰向けに寝たまま返事をして、上を向いたまま大きな欠伸をした。

 それから強張った身体を解すように思いっきり大きく伸びをしようとしたが、腕も足も全く動かなかった。ええと、防具は全部脱いでいるのに、いつも以上に身体中が痛いのも気のせいじゃ無いみたいだ。久し振りのベッドで身体を伸ばして寝た筈なのに、いつもより身体が痛いってドユコト?



 ええと、これはどう言う状況だ?



 自分の置かれた状況が分からず、目を閉じて昨夜を思い出した。

 ああそうだ。寝る時にバルコニーへ挨拶に行ったら、そのまま一緒に寝室に押しかけて来たのは、厩舎にいろと言われた大型のマックスとニニ、それからニニの首輪が定位置のセルパン以外のほぼ全員だった。

 首を少しだけ起こして、自分の身体の状態を見る。


 改めてベッドにいる面々を見て、俺は小さく吹き出した。

「そりゃあ、これだけいれば身体も痛くなるか。全くお前ら……」

 苦笑いして、大きなため息を吐いた。


 ファルコとプティラは、ベッドサイドの椅子の背もたれに仲良く並んで留まっているが、それ以外は全員俺のベッドの上にいる。はっきり言ってキングサイズのベッドの筈なのに、一晩中寝返りも殆ど打てなかったと言う笑えない状況だ。

 何しろ俺の両脇には、ケット・シーのタロンとカーバンクルのフランマの幻獣コンビが並んで潜り込み、反対側はレッドグラスサーバルキャットのソレイユと、レッドクロージャガーのフォールがこちらも並んで潜り込んでそれぞれ左右の腕を確保していた。タロンとソレイユに至っては、俺の脇の部分に乗り上がるようにして完全に顎を乗せて爆睡している。おい、タロン……よだれ垂れてるぞ。

 おい、両腕の感覚が無いぞ……。


 そして上を向いて寝ている俺の両足の間には、中型犬サイズに巨大化したラパンとコニーのウサギコンビが薄い毛布の上から並んで足の隙間に収まっていて、こちらもそれぞれ、俺の左右の太腿に顎をのせて熟睡している。

 そしてちゃっかり空いている枕の両横には、アクアとサクラのスライムコンビとモモンガのアヴィまでもが、俺の肩にもたれかかるようにして一緒になって寝ているのだ。

 いつものマックスとニニがいないだけで、こんなにもカオスな状況になるのかよ。


「おい、皆。起きるから退いてくれ」

 足を動かそうとしてちょっと困った。うん、足も痺れて感覚が遠いぞ。

「あはは、従魔達に張り付けにされてる〜」

 仰向けの胸元に現れたシャムエル様が、俺を見て大笑いしている。俺も堪えきれずに一緒になって笑い出したら止まらなくなった。

 結局、笑い声が聞こえるのに出てこない俺を心配したクーヘンが起こしに来てくれるまで、俺は起きてくれない従魔達に張り付けにされたまま、笑い続けていたのだった。



「全く、お前は朝から何をやっているんだ」

 扉から覗き込んだ呆れたようなハスフェルの言葉に、ようやく手足の感覚が戻って来た俺は、従魔達にくっつかれたままベッドに転がってまだ笑っていた。

 そりゃあいくら小さくなったと言ってもこれだけの数の従魔全部に一晩中くっつかれたら、手足も痺れるよ。

 結局、クーヘンとハスフェルに手伝ってもらって従魔達をベッドから降ろしてくれたが、俺が手足のしびれが治って起きられるようになったのは、それから30分は経ってからの事だった。


「おはよう。いやあ、朝から酷い目にあったよ」

 身支度を整えて、すっかり高くなった朝日を見ながら誤魔化すようにリビングに出ると三人がそれぞれ笑いながら挨拶を返してくれた。

「まあ従魔達なりに心配していたんだろうさ。懐かれて良いじゃないか」

「じゃあ飯に行くか」

 ギイが笑って立ち上がり、俺達は揃って食事に向かった。




「じゃあ、良い天気だしデッキで食うか」

 そう言ってハスフェルとギイが向かったのは、一般デッキの一段上の特別デッキに設けられたカフェで、ここは一等船室の客しか使えないカフェらしい。なんとも贅沢な話だ。

 これで良いだろうと、深く考えずにモーニングセットってのを頼んでみたら、出て来たのはなんと、果物と真っ白なクリームで綺麗に飾られた3段重ねのパンケーキとぶどうのジュース、それにジャムと刻んだナッツが入ったヨーグルトと言う、女子か!っと突っ込みたくなるような、なんとも華やかなメニューだった。


「駄目だよこれ。絶対、おっさん四人で食うメニューじゃないぞ」

「だな。これは駄目だ。なんか色々とすまん、って気がする」

 ナイフとフォークを持ったまま、俺の呟きに同意するようにそう言ったハスフェルと、その隣に座ったギイも必死で笑いを堪えている。

 クーヘンは逆に、自分の前に運ばれてきたパンケーキを目を輝かせてみつめている。

「良いじゃありませんか。ではいただきます」

 嬉しそうにパンケーキを平気で食べ始めるクーヘンを見て、ため息を吐いた俺達も、苦笑いしてナイフとフォークを手にした。


「うわ、柔けー」

 ナイフを入れたパンケーキは、実体が無いのかってくらいに簡単に切ることが出来た。添えられていたクリームを付けて食べてみると、あまりの柔らかさに声が出た。

 うん、ちょっとびっくりするレベルに美味いよ、これ。

 半分程食べた所で、ふと思った。

 俺はこれでも充分だけど、絶対にあとの三人はこれじゃあ足りないだろう。部屋に戻ったら何か出してやらないとな。


 そんな事を考えながら自分のパンケーキを食べていると、ハスフェルが真顔で俺を見ているのに気付いた。

「ん?どうした?」

 何となく言いたい事は分かっていたが、知らん顔で聞いてやる。

「なあ、ケンはこれで足りるか?」

「まあ、別に充分だと思うけど……ハスフェル達は絶対足りないだろう」

 笑いを堪えてそう聞いてやると、小さく笑ってうなずいた彼は、他の二人も順に見た。

「お前らは? これで足りるか?」

「いやあ、これはこれで美味しいですがちょっと……」

「だよな。俺は正直言ってもう一人前食っても足りないと思うぞ」

 うなずいたハスフェルは当然のように合図をしてスタッフを呼び、出してもらったメニューを見ながら追加の注文を始めた

「あ、それなら俺はコーヒーが欲しい」

 別に追加の料理はいらないが、コーヒーは出来れば飲みたい。

「了解だ」

 まとめて注文したハスフェルに一礼したスタッフさんが奥へ下り、しばらくすると、四人分のコーヒーと一緒に、大きなパテを二枚も挟んだ大きなバーガーが三つ運ばれてきた。俺の前にはシンプルタマゴサンドが置かれた。

 横を見ると、シャムエル様がお皿を叩いて自己主張している。

「良いのかよ。ペットは店には立ち入り禁止だぞ」

「大丈夫。今の私は皆には見えないようにしているからね」

 平然とそう言われて小さく吹き出した俺は、さっきのナイフでタマゴサンドの真ん中部分を小さく切って横に置いてやった。

 大きな口を開けてバーガーにかぶりつく三人を横目に、俺はシャムエル様と一緒にタマゴサンドを美味しくいただきました。



 午前中はバルコニーの椅子に座ってのんびりと景色を眺めて過ごし、昼食の後はハスフェルが持っていたカードでゲームをして過ごした。

 柄も含めて、ほぼ俺の知るトランプと同じで、最初にやったのは、7から順番に手持ちの札を並べていく、まさしく七並べだった。

 おっさん四人で七並べ……と思ったんだが、これがもうめっちゃ白熱して、大いに盛り上がった。

 童心に帰って、本気で遊んじまったよ。


 今度はレストランでしっかりと昼食を食べた後、俺はバルコニーの寝椅子でもうちょっとだけ昼寝をさせてもらい、他の三人も、好きに寛いで過ごしていた。

 ようやく訪れた優雅な船旅を、それぞれに満喫したのだった。



 そして、夕焼けが綺麗に見え始めた頃、ようやく目的地のハンプールに到着したのだった。


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