駆けっことテイムの開始
「へえ、本当に安定しているみたいだなあ」
俺達と並んで走っているピッピの走りは確かに安定していて、上に乗るシェルタン君も意外なくらいに平然としている。
感心していた俺だったが、ふとあることを思いついてにんまりと笑った。
こうなると、やっぱりどこまで速く走れるのか見てみたくなるよな。
「よし、あの背の高い木まで競争だ!」
はるか前方に見える一際高い針葉樹を指差して大きな声でそう叫ぶ。
「おう!」
ほぼ全員の声が揃い、一旦止まる。
今ここにはマーサさんもいるからね。
「では、私が合図しましょう!」
笑ったマーサさんの乗った小さい馬のノワールが少し離れたところへ走って行くのを見て、俺達は顔を見合わせて綺麗に一列に並び直した。
もちろんムジカ君とシェルタン君も、同じようにやる気満々でランドルさんの隣に並んでいる。
「ではいきますよ。構えて〜〜〜〜〜はい!」
思い切り手を打ち鳴らしたマーサさんの声と同時に、俺達は文字通り弾かれた矢のように走り出した。
止まっている間はそれぞれの肩や従魔達に降りてきて留まっていた鳥達が、驚いたように一斉に羽ばたいてまた空に舞い上がる。
「行け〜〜〜〜〜!」
俺の大声に応えるかのように吠えたマックスがさらに加速する。ほぼ遅れる事なく一列になって走る仲間達と違い、ムジカ君とシェルタン君は明らかに体一つ分どころではないくらいに遅れている。
「ああ〜〜〜なんて速さだよ!」
「こんなの絶対無理だって〜〜〜!」
情けない悲鳴と共に、さらに遅れる二人を置いて、俺達はほぼ同時に目標の針葉樹の横を走り抜けていった。
しばらく目標の針葉樹があった林ぞいの草原を流して走りようやく止まる。
「ああ、また同時ですね!」
笑ったランドルさんの声に、リナさん達やボルヴィスさんも声を上げて笑っている。
「で、誰が一番だったんだ?」
並足ぐらいになったところで、マックスの頭に座っていたシャムエル様にこっそり尋ねる。
「では順位を発表します! すごい勝負だったね! 一位はマックスとケン! 二位はなんとボルヴィスさんとセラス! 三位と四位が同着でアーケル君とコットンテイルとリナさんとララちゃん! 五位と六位も同着でハスフェルとシリウスとランドルさんとビスケット! 七位と八位も同着でギイとデネブとオンハルトとエラフィ! ……ええと、全部言う?」
「いや、もういいよ。ってか新人二人以外はほぼ同着だったって事だな」
笑った俺の言葉に、シャムエル様は苦笑いしながらうんうんと頷いていた。
「いやあ、皆さん凄すぎです。こんなの絶対勝てないよなあ」
「確かに、一緒に走れるならって思って参加したけど、これで五周も走るなんて絶対無理! 周回遅れになる自分が見えた気がしたよ」
ムジカ君の言葉にシェルタン君も苦笑いしつつそう言ってウサギのピッピを撫でているけど、当のピッピは、すごく悔しそうにしているから自分の順位に納得していないんだろう。
「ううん、迂闊に刺激してもっと覚醒されたら、それはそれで怖いかもなあ」
苦笑いしつつそう言い、目の前に広がる草原を見回す。
「ところで、この近くに何かジェムモンスターが出る場所ってあるのか?」
一応今日の第一の目的は、彼らに何かテイムさせてやり、シェルタン君を魔獣使いにしてやる事だ。
「一応、スライムの巣は近くにあるが、どうする?」
ハスフェルの言葉にちょっと考える。
シェルタン君は一応スライムのスイミーがいるから、出来ればここはスライム以外の方がいい気はするが、逆に魔獣使いのムジカ君の方はまだスライムをテイムしていないから、行ってもいい気がする。
「あの。それなら、まずはスライムの巣へ行かせていただけませんか? ムジカもスライムをテイムしたいって言っているし、俺も他の色のスライムがいれば集めてみたいですから」
俺達が相談している声が聞こえたらしいシェルタン君が、右手を軽く上げながらそう言ってムジカ君を振り返る。
ムジカ君も笑顔で頷き同じように右手を挙げる。
「お願いします。スライムが欲しいです」
その言葉に笑顔で頷き合った俺達は、ハスフェルとギイの案内でそのままゆっくりと移動していった。
「おお、これこれ。いかにもスライムがいそうな茂みだ」
到着したのは、二メートルくらいの広葉樹の根元にびっしりと絡みつく蔓草の茂みだった。
笑った俺の言葉に、皆も笑って頷いている。
「じゃあ、一応確認だけど、スライムのテイムの仕方は分かるか?」
そのあたりを説明していなかったのを思い出して慌ててそう尋ねる。
「ええと、弱らせて確保するんですよね。スライムを弱らせるって……どうするんだ?」
「俺がスイミーをテイムした時って、めっちゃ絡みつかれて大変だったんだよ。必死になって引き剥がして地面に叩きつけたんだっけ」
苦笑いするシェルタン君の言葉に、もう笑うしかない。
おとなしそうに見えたけど、実はシェルタン君ってバリバリの体育会系だった?
「無茶するなって。下手したら窒息死だぞ。スライムをテイムする時の一番楽なやり方は、こうやって剣の横の面の部分で殴って弱らせるのがいいぞ」
そう言ってバットでボールを打つ仕草を剣でして見せると、納得した二人はそれぞれの騎獣から降りて、少し離れたところに立って腰の剣を抜いて構えた。
「じゃあ、追い出すから頑張ってな」
マックスの背の上に乗ったまま、俺は地面に落ちていた小石を引き寄せると茂みに向かって思いっきり投げ込んだのだった。
さあ、二人とも頑張れ!