信頼と彼らのこれから
「「ええ〜〜〜なんですかその真っ白なスライムは!」」
見せてやったアワユキを前に、またしても見事なまでにシンクロするムジカ君とシェルタン君の叫ぶ声。
そして、伸び上がってドヤ顔になるアワユキ。
「おう、この子は超レアスライムの雪スライムだよ。雪スライムが出現するのは文字通り雪がある場所だけで、この子はバイゼンの郊外でテイムしたんだ。だけどそう簡単には捕まえられないくらいに、すっごく素早い子なんだ。ほら」
笑った俺の言葉に、心得ているアワユキが一瞬でムジカ君の肩に移動して彼の耳を触手で軽く叩き、また一瞬で今度はシェルタン君の肩に移動して、彼の頬を同じく伸ばした触手で軽く叩いてから俺の手の上へ戻ってきた。
この間、一秒未満。
よく見える有り難い目と、アワユキの行動を予測していた俺だからこそ分かった動きであって、当然だけどムジカ君とシェルタン君には全く見えていなかっただろう。
アワユキが俺の手の上に戻ってきてから、彼らが驚いたように揃って自分の肩を見る。それから呆然と耳と頬を撫でて顔を見合わせた。
「ええ? 今のって……?」
「今、誰が俺の頬を叩いたんだ?」
首を傾げてはてなマークを連発している二人に、俺は笑ってアワユキを見た。
「今、この子が君達の肩に移動して、耳と頬を叩いてから俺の手の上に戻って来たんだよ。な、捕まえられないって言った意味が分かった?」
俺の説明に、これまた見事にシンクロ状態で目を見開いて、アワユキを見つめる二人。
「やだ、恥ずかしいでしゅ……」
真顔の二人のガン見されて、妙に恥ずかしそうにそう言って若干小さくなるアワユキ。
「……つまり、とんでもなく素早く動くって事ですね。そんなスライムを一体どうやって捕まえてテイムしたんですか?」
揃って真顔になって顔を見合わせた二人は、しばし無言で考えてからムジカ君が口を開いた。
「うん、だからこの子を捕まえようと思ったら、まず最低でもさっき言ったクリアーとピンク、それからレインボーくらいは集めておかないと駄目なんだよな」
苦笑いする俺の説明に、またしても揃って首を傾げる二人。
「まあ、詳しくは言わないでおくから、まずは頑張ってスライム達を集めてみるといいよ。ちなみにレインボーカラーの子を全員集めようと思ったら、最低でも数箇所は回らないと駄目だから、ハンプール近郊だけだと集まらないよ」
俺の説明に、揃って笑顔になる二人。
「はい、俺達しばらくコンビを組もうって話をしているので、この早駆け祭が終わったら一緒に旅に出る予定なんです」
「せっかくなので、行った事がない川沿いの街を巡って、そのあとはどうしようかなって」
「じゃあ、レインボースライムを集める旅にするか!」
「いいなそれ。じゃあ目標が出来たな」
嬉しそうな二人の言葉に、俺達も笑顔になる。
「そりゃあいいね。仲間がいれば一緒に切磋琢磨出来るだろうからな」
それに魔獣使い同士でコンビを組めば、強い魔獣もお互いの従魔の協力があればかなり頑張れるだろう。
だけどまあ、まだ二人ともそれほど強い従魔はいないから、そこは今後に期待だな。
せっかくだからとアワユキを渡してやると、二人は順番にそれはそれは真剣な顔で挨拶をしてから、嬉しそうに撫でたり揉んだりし始めた。
アワユキも楽しそうにしているのを見て笑った俺は、少し考えてハスフェルを振り返った。
『なあ、せっかくだからシェルタン君が魔獣使いになるお手伝いをしてやってもいいかと思うんだけど、どうだ? 旅に出るのなら、出来ればもうちょっと強くて乗れる従魔が必要だと思うんだよな。まあムジカ君のエミューに乗せてもらうって手もあるだろうけどさ』
ランドルさんは、相棒のバッカスさんをずっと彼が乗っているダチョウのビスケットに一緒に乗せていた。
だけどあれは、バッカスさんがそもそも馬や騎獣に乗る事自体が苦手だったってのも大きいだろうし、それに引退が決定している彼に騎獣は必要ないとの判断だったのかもしれない。
それから俺の経験上言わせてもらえるなら、正直言ってウサギはあまり騎獣には向いていないと思うんだよな。
シェルタン君は、あのウサギのピッピに乗って早駆け祭りに参加するって言っているけど、多分途中で振り落とされるか、途中で気分が悪くなってリタイアする未来が見える気がするんだよな……。
しかし、俺の視線に気がついたらしいシェルタン君の足元にいたピッピは、なぜかドヤ顔になって胸を張った。
「ご心配には及びませんよ。ちゃんとご主人に負担なく走れるように考えていますから!」
ドヤ顔のピッピにそう言われて、驚きに目を見開いた俺だったよ。
「ええ、そうなんだ。じゃあ頑張ってご主人を乗せて走らないとな。なあシェルタン君、もしかして普段からこの子に乗って移動しているのか?」
腕を伸ばしてピッピを撫でながらそう尋ねると、なぜか横で大人しく聞いていたマーサさんとクーヘンが揃って吹き出した。
「ああそうか、二人はここまで彼らと一緒に来たんだもんな。ええ、笑ってるって事は、どういう意味だ?」
振り返った俺の呟きに、まだ笑っているクーヘンが何度も頷く。
「実を言うと、彼がそのピッピに乗って早駆け祭りに参加すると聞いた時、私も冗談抜きでエルさんに言ったんですよ。ウサギの従魔は乗るには適していないけど、大丈夫なのかって」
「だよなあ。俺も以前少しだけ乗せてもらった事があるけど、冗談抜きで乗るには適さないなって思ったぞ」
割と本気の俺の言葉に、ウサギトリオがガーンって感じにショックを受けて泣くふりを始めた。
「あはは、ごめんって。でも、お前らの可愛さは最高だからな」
慌ててそう言い手招きをしてやると、一気に機嫌を直したウサギトリオが、揃って小さなサイズのまま跳ね飛んできた。
笑って受け止めて、順番におにぎりにしてやる。
しかし、その後にラパンがピッピのところへ跳ね飛んで行き、顔を寄せて何やら真剣に相談を始めた。
「ああ、それはいいですね。では私もそれでやってみます!」
何故か目を輝かせたラパンがそう言ってうんうんと頷き、またしてもドヤ顔になるピッピ。
「ご主人! もし郊外へ出られるのでしたら、後でちょっと私に乗ってみてください! ねえ、マックス! 少しくらいなら良いでしょう?」
すっごく嬉しそうなラパンの言葉に、俺は驚いて背後を振り返り、いつの間にかマックスが俺の座るすぐ後ろへ来ていたのに気付いてもっと驚いたよ。
「まあ、郊外での遊びでしたら……少しくらいは……」
「そっか、ありがとうな。もちろん俺の一番の騎獣はお前なんだからな」
明らかにすっごく我慢した様子のマックスの言葉に吹き出した俺は、そう言いながら腕を伸ばしてマックスの大きな顔を力一杯抱きしめてやったのだった。
まさかの、俺達の方が何か教えてもらうと言うまさかの展開に、笑いが止まらない俺だったよ。