真面目な話
「じゃあ、ちょっと少し真面目な話をしようか」
改まった口調の俺の言葉に、笑っていた二人が慌てたように座り直して居住まいを正す。
「今から俺が話すのは、言ってみれば、テイマーや魔獣使いとして絶対に守ってもらわなければならない基礎的な事や、従魔達と過ごす上でとても大事な事だ」
「「はい、心して聞かせていただきます!」」
見事に二人の声が揃う。おお、またしても見事にシンクロしてるぞ。
なんだかおかしくなって、小さく笑った俺は首を振る。
「まあ、そんなに身構えなくてもいいって。もうちょっと気楽に聞いてくれていいからな」
俺は笑いながらそう言って、まずはテイムする際に一日の上限がある事を話した。
「そうか。郊外なんかへ行ってたくさんテイムする事も場合によっては可能なんですね。一日にどれくらいまでなら大丈夫なんですか?」
ムジカ君の質問に、ちょっと考える。
『なあ、この子達の能力ってどれくらいなんだ?』
ここはシャムエル様にこっそりと念話で確認しておく。
だって、俺の勝手な判断で一日の上限は十匹とかって教えておいて、万一、彼らのテイマーや魔獣使いとしての能力が低かったりしたら大惨事だもんな。
「そうだねえ。二人ともそれなりの能力は充分あるみたいだから、上限としては一日十匹くらいだねえ。だけどそっちの鳥を連れている方の子はかなり強い力があるみたいだけど、こっちのテイマーの子の方は、まだ能力の一部が完全に開花していないみたいだから、いきなり十匹テイムするのはやめた方がいいと思うな。まずは魔獣使いになるのを目標にして、一日数匹程度で訓練させるべきだね」
腕を組んだシャムエル様の言葉に小さく頷く。
って事でとりあえず一日の上限は十匹程度までにするようにと伝え、シェルタン君にはまだいきなり大量テイムは難しいだろうから、まずは魔獣使いになるのを目標にするように勧めた。
真顔で何度も頷いた彼らは、早駆け祭りが終わればどこへ従魔を探しに行くかを真剣な様子で相談し始めていた。
一通り相談が済んだらしく、うんうんと頷き合っているのを見て、俺は黙って振り返って背後でもふ塊になっている従魔達の中にいたセーブルとヤミーを見た。
何も言わなくても二匹が起き上がって、ゆっくりとソファーを回って俺のところへ来てくれる。
俺の膝に顎を乗せてご機嫌なセーブルを、俺は両手でおにぎりにしてやった。
そして、彼らに絶対に知っておいて欲しい事。つまり、もしもご主人に捨てられたら、従魔がその後にどんな悲惨な末路を辿るかをゆっくりと話して聞かせた。
そしてセーブルの過去と、ヤミーをテイムした時の事も詳しく話して聞かせた。
それだけじゃなく、俺は予定していなかったんだけど、進み出たリナさんがご自身の辛かった過去の話までしてくれた。
しかもその際に、もしも貴方達が従魔を誰かに譲るような事があれば、その際には絶対に相手を見てから譲って欲しい事。出来れば、従魔を売るような事はしないで欲しいと真顔で伝えてくれたもんだから、聞いていた二人は、途中からはもう泣きそうになるのを必死で堪えていたよ。
「ええ、まさかそんな……」
「そんな、悲しい事が……」
二人は、俺とリナさんが全部話し終えた途端に、半泣きになりながらそう言ってお互いの顔を見た。
それから、二人はほぼ同時に同じ事をした。
つまり、彼らの側にいた自分の従魔達をしっかりと抱きしめたのだ。
「約束する。絶対離さない。ずっと、ずっと死ぬまで一緒だ」
「俺も約束するよ。ずっと一緒だからな。大好きだよ」
揃って鼻を啜りながら、それでもしっかりと言葉にしてくれた。
俺とリナさんは、顔を見合わせて揃って安堵のため息を吐いたのだった。
じゃあせっかくだから、一度郊外へ一緒に出て何かテイムしてみようかと誘おうとした時、いきなり顔を上げたムジカ君がまだ赤い目を隠そうともせずに俺を見た。
「あの、ケンさんに一つ質問がありますが、よろしいでしょうか!」
真剣な様子で身を乗り出す彼の言葉に、立ち上がりかけていた俺は慌てて座り直した。
「おう、俺が教えられる事だったら、なんでも教えてあげるよ」
真剣にそう答えると、彼は広い部屋の中を見回してから困ったように俺を見た。
「あの、街で聞いてきたんですが……マールって魔獣使いが捨てたフクロウをケンさんが保護なさったって……それで、あの子はどうなったんでしょうか? あいつに殴られて羽が折れていたって聞いたので、もしかして、まさか……」
すっごく心配そうなその言葉に、何事かと身構えていた俺は密かに安堵のため息を吐いたよ。
ムジカ君を見てにっこり笑った俺は、一つ頷いてから振り返ってネージュを探した。
少し離れた場所に置かれた椅子の背に留まっていたネージュが、俺の視線に気が付いて軽く羽ばたいて自己主張してから俺のところへ飛んできてくれる。
「うわあ、真っ白なフクロウですね。格好良い!」
ムジカ君、やっぱり鳥好きみたいでネージュを見る目がキラキラになってる。
「この子がそうだよ」
平然と笑った俺の言葉に、ムジカ君が目を見開く。
「ええ? まさか。それは違いますよね? だって、放逐されたのは焦茶色のフクロウだったって聞きましたよ。その子はどう見ても白フクロウですよね?」
すっごく不審そうなその言葉に、俺は笑ってネージュを撫でてやった。
「ジェムモンスターは、ジェム自体が無事なら怪我はすぐに治るんだ。まあ、あの時に折れた羽は、俺が万能薬を使ってすぐに治したんだけどね。だけど、その後ずっと放心状態で割と本気で心配したんだけど……お空部隊、ああ、俺は自分の従魔達の中でも翼を持つ子達をまとめてそう呼んでいるんだ。そのお空部隊の子達が頑張って説得してくれたんだ。俺がテイムしても良いかってね。それで翌朝、目が覚めたらなんと羽色が変わっていたんだよ。焦茶色から真っ白にね」
それを聞いた時の二人の驚きの表情は、ちょっと笑えるくらいだったよ。
そしてその直後に、これまた同時に完璧なシンクロで叫んだのだった。
「「ええ〜〜まさか創造神様の交換ですか!」」ってね。
その言葉を聞いて、唐突に俺の膝の上に現れたシャムエル様がドヤ顔になってるのを見て、俺は堪える間も無く吹き出したのだった。