新人魔獣使いと新人テイマー
「へえ、同じ名前だし同じ羽色だな。ほらおいで、メイプル」
笑った俺の言葉に、ビアンカの頭の上に揃って並んで留まっていたインコサイズのメイプルが飛んで来て、左肩の定位置にファルコと並んで留まる。
「ああ、本当だ! 同じ羽色ですね。うわあ、可愛い!」
語尾にハートマークがついていそうなくらいの勢いで目を輝かせてそう言ったムジカ君の視線は、メイプルに釘付けだ。
「ええと、あの、ちょっと質問なんですが、そんな強そうな猛禽類とインコを一緒にして大丈夫なんですか?」
メイプルと仲良くくっついて左肩にセットした止まり木に並んで留まっているファルコを見て、若干引き気味のムジカ君が質問してくる。
「これがもしも普通のオオタカとインコだったら大変だけど、この子達はちゃんと言葉が通じるジェムモンスターだから、もちろん大丈夫だよ。ほら、仲良しだぞ」
笑って手を伸ばして二匹まとめて撫でてやると、嬉しそうに甲高い声で鳴いたファルコが、遠慮がちにメイプルの羽を嘴で羽繕いを始めた。
可愛らしい声で鳴いたメイプルも、嬉しそうにファルコの目の横辺りをせっせと羽繕いし始める。
「ああ〜〜〜格好良いし可愛すぎる! やっぱり猛禽類の子も欲しいよ〜〜〜! もっと一緒にもふもふしたい!」
胸元に両手を握りしめたムジカ君の本音ダダ漏れの叫びに、全員揃って吹き出した俺達だったよ。
もう、このセリフを聞いただけで、この子が従魔を大切にしている信用に足る子だって確信が持てたね。
「何言ってるんだよ。これからもっとインコの色集めをするんだって息巻いていたくせに」
呆れたように笑った彼の後ろにいたもう一人の少年が、そう言いながら進み出てきてムジカ君の背中を叩く。
「はじめまして、シェルタンと申します! 貴方に、最強の魔獣使いに憧れてテイマーになりました! どうぞよろしくお願いします!」
俺に向き直ったシェルタン君は、一転して真面目な口調でそう言って深々と一礼する。でも、キラッキラに目を輝かせて俺を見てくれて、ちょと恥ずかしかったのは内緒だ。
「はじめまして。魔獣使いのケンだよ。俺に憧れてテイマーになってくれたなんて嬉しいし、ちょっと照れくさいな」
苦笑いしながらそう言うと、シェルタン君は唐突に真っ赤になった。
「きゅう〜〜〜〜〜!」
胸元を押さえて、何やら謎な呻き声をあげているけど、大丈夫か?
「ご主人、大丈夫?」
その時、アクアと同じ透明なスライムが彼の胸元から出てきて、細い触手を伸ばしてそっと彼の頬を撫でた。
「ああスイミー、出て来ちゃ駄目だって」
慌てたようにそう言って胸元にスライムを押し込む。
「ええ、出してあげればいいのに。どうして押し込むんだよ」
驚く俺の言葉に、シェルタン君は一気に涙目になった。
「だって……スライムなんてみっともない従魔を、人の目につくところに出すなって言われて……」
「はあ? スライムがみっともない? 誰がそんな事を言ったんだよ?」
まあ予想はつくが、一応確認の為にそう聞いてみる。
「この街へ来てすぐの頃に、冒険者ギルドへ行く途中に会った黒い鹿を連れた魔獣使いの人に言われたんです。それで、地面に転がり落ちたスイミーを踏み潰されそうになったんです。でも、すごく強そうな人だったから怖くて何も出来ずにいたら、偶然通りかかったムジカが咄嗟に彼の足を後ろから蹴飛ばしてくれて、何とかスイミーを助けられたんです。でも、その人がすっごく怒って追いかけてきたから、俺達必死で逃げたんです。そうしたら、街の人が匿って家の中へ入れてくれて……」
半泣きになりながらのその説明に、俺達の怒りのボルテージが一気に跳ね上がる。
「黒い鹿を連れていたって事は、魔獣使いのマールだな」
真顔のハスフェルの言葉に、俯いたまま何度も頷くシェルタン君。
「スイミーはすっごく可愛いし、狩りの時なんかにもジェムを拾ったり盾役になってくれたりして、すっごくすっごく役に立ってくれる子なのに……大好きなのに……みっともなくなんか、ないのに……」
胸元を抱きしめて、泣きながらも小さな声でそう呟く。
「大丈夫だよ。ご主人が大好きだって言ってくれれば、スイミーはそれだけで幸せだからね」
胸元からちょっとだけ顔を出したスイミーが、また触手を伸ばして彼の頬を何度も撫でるのを見て、もう俺まで泣きそうになったよ。
「ほら、顔をあげて。スイミーが心配してるぞ」
一つ深呼吸をした俺は、手を伸ばしてそっと俯くシェルタン君の肩を叩いた。
「そんな間違った考えは気にしなくていい。スライムは最高に役に立ってくれる有能な従魔だよ。それに何より可愛い!」
「そ、そうですよね! 可愛いですよね!」
真っ赤な目をしつつも、俺の言葉に顔を上げて嬉しそうに何度も頷く。
「ああ、だから遠慮なく出してあげていいんだぞ。ほら、俺に従魔達を紹介してくれよ」
笑った俺の言葉に、ぐいっと袖口で涙を拭いたシェルタン君は、改めて胸元からスライムを取り出した。
「俺の初めての従魔で、名前はスイミーです。こっちは、ホーンラビットのピッピです。この子と一緒に早駆け祭りに参加します」
右肩に座ったスライムを見て真っ赤な顔をしつつも得意そうに笑った彼は、足元にいた焦茶色に立ち耳一本角の小さなウサギも抱き上げて見せてくれる。
おお、この子はラパンと色も耳の形も同じだ。
「よろしくな。へえ、この子も俺の従魔と同じだな。名前は違うけどさ。ほら、おいでラパン」
俺の言葉に、マックスの背中のカゴに入っていたラパンが、一瞬で跳ね飛んできて俺の足元に座る。
「うわあ、本当に一緒だ! う、嬉しいです!」
目を輝かせたシェルタン君は、これまたキラッキラに目を輝かせてラパンを見つめていた。
うん、この子達は間違いなく信用出来る子達だね。
密かに安堵のため息を吐いた俺は、彼の従魔のピッピと鼻先をくっつけて挨拶をしているラパンをそっと撫でてやった。