まずは自己紹介から!
「さてと、何時ごろ来るんだろうな。マーサさんにその辺りの予定を詳しく聞いておけばよかったな」
しっかりと朝食を食べた俺は、食後のコーヒーを飲みながらなんとなくそう呟いた。
一応、シャムエル様の事前情報によると、今日来る人達はどちらも信頼出来る人のようだから安心だしな。
「ええとね、もう街の冒険者ギルドに集合して、マーサさんとクーヘンも一緒にこっちへ向かっているところだよ。まあ、どんな人達かは実際に会って確認してね」
すっかり片付いたテーブルの上に座ってせっせと尻尾のお手入れをするシャムエル様の言葉に、俺は飲み干したばかりのカップを下ろして、驚いてシャムエル様を見た。
「信用出来る人達なんだよな?」
一応小さな声でそう尋ねると、にっこり笑ったシャムエル様は尻尾のお手入れをしていた手を止めて俺を見ながら大きく頷いた。
「うん、そこは大丈夫だから安心していいよ。だけど、実際の彼らの為人までは私には分からないからさ」
「あれ? そうなんだ」
ちょっと意外な言葉だったので思わずそう言うと、照れたみたいに笑ったシャムエル様は、ちらっと俺を見てからまた尻尾のお手入れを始めた。
「当たり前だよ。一応、この世界に何らかの大きな問題や不具合が起こりそうな場合を除いて、基本的にこの世界の個々の事象にまで、私が直接手出しをしないって決めているからね。だから何か問題があれば、ケンが頑張って解決してください!」
「おう、了解だ。じゃあ飯も食ったし後は待つだけだな」
笑ってそう言った俺は、すっかり綺麗になったテーブルの上を見てスライム達を順番に撫でたり揉んだりして遊び始めた。
ううん、いつ揉んでもいい柔らかさだねえ……。
「何かしていれば時間が過ぎるのなんてあっという間な気がするんだけど、こういう、ただ待つだけの時間ってなかなか過ぎませんねえ」
俺と同じく何となくスライム達を揉んでいるアーケル君の言葉に、同じ事を考えていたらしいリナさん達やランドルさん達も揃って苦笑いしつつうんうんと頷いている。
ちなみに今は、何故か全員がそれぞれの自分の従魔であるスライム達を交互に撫でたり揉んだりしている。
まあ、当のスライム達は皆すっごく嬉しそうなので別にいいか。と、アルファを揉みながら悟りの境地に達していると、聞き慣れないチャイムの音が聞こえて俺は慌てて立ち上がった。
「おお、もう来たっぽいな。どうする? せっかくだから全員でお出迎えするか?」
振り返ってにんまりと笑った俺の言葉に、あちこちから笑いが起こりほぼ全員が同時に立ち上がった。
当然、もふ塊になって寛いでいたそれぞれの従魔達も、目を輝かせて一斉に起き上がってそれぞれのご主人の元に集合した。
「じゃあ、お出迎えといきますか」
側に来てくれたマックスとニニを交互に撫でてやり、ハスフェル達と顔を見合わせて真顔で頷いた俺達は、全員揃って玄関へ急いだ。
心得ている従魔達も、即座にそれぞれのご主人のところへ戻り、いつもの定番の大きさになって嬉々として広い廊下を歩き始めた。
「おはようございます。ちょっと早かったですかねえ」
玄関の扉を開けると、まだポニーみたいな小さな馬に乗ったままだったマーサさんが、そう言いながら笑っていた。
「おはようございます。皆朝から待っていましたから大歓迎ですよ」
マーサさんの背後に立っているどう見ても高校生みたいな見かけの少年二人を見る。
「はじめまして。魔獣使いのケンです」
一応、最初の挨拶くらいはちゃんとしておくべきだろう。
そう考えて、少し改まった口調でそう言って笑顔で右手を差し出す。
「ふおお〜〜〜! 本物のハンプールの英雄だ〜〜〜!」
「しかも背後にいるのって、早駆け祭り二連覇のヘルハウンドの亜種の魔獣のマックスだよな!」
俺とマックスを見るなり、目を輝かせてそう叫んだ二人は、慌てたように口を押さえてから顔を見合わせ、進み出てきたやや背の低い方の子と、まずは握手をした。
「はじめまして! ムジカと申します!」
興奮のあまり頬を真っ赤にした一人目のムジカと名乗った黒髪の子は、間違いなく十代だと思われるまだニキビが額や頬に見受けられる小柄な見かけをしている。
多分、身長は160センチも無いと思うくらいに低い。一応人間みたいだけど、もしかしたら違うのかもしれない。
「ええと、俺のひいばあちゃんが草原エルフだったって聞いてます。そのせいか、家族の中で俺だけすっごく背が低いんですよ。でも、耳は普通なんです。一応、風の術と水の術は上位まで使えます!」
自分の耳を引っ張りながらの言葉に、リナさん達が驚いたみたいに揃って目を見開いている。
だけど俺の目は、そっちよりも彼の両肩と頭に二匹ずつ並んで留まっている、色とりどりのインコ達に釘付けになっていたよ。
早駆け祭りに参加するエミューは、彼の背後で、彼と同じくらいの大きさになって興味津々でこっちを窺っている。
「あの、こいつが俺を乗せてくれるエミューのジェムモンスターで、俺はミューって呼んでます。それでこっちがオカメインコのジェムモンスターのジュジュとぺぺ。こっちがセキセイインコのジェムモンスターでメイプルとシロップ。こっちはマメルリハのジェムモンスターのポポとピピです!」
色々と彼のネーミングセンスに突っ込みたくなる俺だったけど、俺のメイプルとセキセイインコって種類だけでなく、緑の羽色まで全く同じで名前が一緒なのに気がつき、思わず吹き出したよ。
ううん、ここでも名前のバッティングだ。まあ、大丈夫……かな?