おやすみといつもの朝のひと時
「ごちそうさまでした。もう腹一杯だよ」
一応、明日二日酔いにでもなったら大変なので、俺は最初に白ビールを一本飲んだだけで、あとは大人しく麦茶を飲んでいる。
ハスフェル達やリナさん一家、それからランドルさん達は、俺とは違って平然といつものようにワインを飲んでいるんだけどさ。
まあ、この中では間違いなく俺が一番アルコールに弱いのは分かっているので、張り合うのは諦めておく。
その後、デザートの激うまリンゴとブドウを食べてから少しゆっくりして今夜はもう解散となった。
それぞれの部屋へ入っていく皆を見送り、頭の中で明日の段取りを考えつつ俺も自分用に決めた部屋に向かった。で、せっかくなのでお風呂に入る事にした。
と言ってもここの風呂は、別荘のお風呂と違って足湯兼サウナみたいなこの世界仕様の浅い風呂なので、ほぼ寝湯状態だ。
いつものように用意したいろんなボールで遊ぶスライム達を眺めつつ、のんびりと湯に浸かって寛いだ俺だったよ。
はあ、やっぱり湯につかるのって良いよなあ……。
「よし、湯冷めしないうちにもう寝るか!」
湯から上がって部屋着兼寝巻きに着替えた俺は、広い部屋を見て小さく笑った。
何故か、俺が使っているのはおそらく当主の部屋と思われる一番広い部屋だ。まあ、一番従魔が大勢いるのは俺なんだから、広い部屋を使えと言われたら反論の余地はないんだけど、さすがにこの部屋は広すぎると思う。
何しろこのメインの部屋だけでもちょっとした宴会場レベルだ。多分、バイゼンのお城の俺の部屋に匹敵する広さだ。だけど、やっぱり部屋は質素と言いたくなるくらいの簡単な装飾だけで、逆に俺的にはこれくらいの方がくつろげてありがたいくらいだ。
それにしても広い、広過ぎだよ。
そもそも、さっき使った部屋付きの湯室が、すでにちょっとした旅館の大浴場くらいの広さがあるんだからさ。
そして当然のように広いキッチンが併設されているし、おそらくメイドさんや執事さん達が使うのだろうかなり質素な部屋が全部で八個もある。まあ、これも十畳くらいは余裕でありそうな部屋だ。
そして、広いベッドルームに置かれたこれまた巨大なキングサイズのベッドの上では、マックスとニニがすでに準備万端で待ち構えていた。
「じゃあ、今夜もよろしく〜〜〜!」
すでに寝る準備万端なニニとマックスの間にそう言って飛び込む。
「おお、いつもながら素晴らしきもふもふとむくむくだな」
最高に素晴らしいもふもふに顔を埋めて深呼吸をする。
「明日は、お前らも頑張ってくれよな」
笑って手を伸ばしてニニを撫でてやり、勢いよく腕の中に突っ込んできたマニも撫でてやる。
背中側にはいつものウサギ達が中型犬サイズになってくっつき、スライム達が毛布をかけてくれる。
「ありがとうな。じゃあおやすみ……」
一つ小さな欠伸をした俺は、マニを抱きしめながら小さな声でそう言って目を閉じた。
そしてそのまま、気持ちよく眠りの海へ落っこちて行ったのだった。ドボン。
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
しょりしょりしょり……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きてる……」
翌朝、いつもの従魔達総出のモーニングコールに起こされた俺は、眠い目を擦りつつなんとかそれだけを言って当然のごとく二度寝の海へ落っこちていった。ぼちゃん。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
しょりしょりしょりしょり……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きてるってば……ふああ〜〜〜」
ふわふわなマニを抱きしめながら、小さくそう呟いて大きな欠伸をする。
「ご主人、そろそろ起きた方が良いかと思いますよ」
耳元で聞こえたのは、大真面目なネージュの声だ。
「まだ眠いから良いんです〜〜」
目は開かないものの、頭の中は目が覚めている俺は、笑ってそう言いながら腕を伸ばしてネージュも捕まえてやる。
今のネージュはいつものサイズだから、それほど大きくない。
マニとセットで抱きしめると、二匹の笑う声が聞こえてなんだか嬉しくなった俺も一緒になって笑った。
「ご、しゅ、じ、ん」
「お、き、て!」
「起、き、な、い、と」
「大変な事になるわよ〜〜〜!」
ネージュのもふもふを満喫していると、耳元で妙に嬉しそうなお空部隊の面々の声が聞こえて慌てる。
なんとか起きようとした次の瞬間、ネージュがするりと俺の腕から抜け出し、それと同時に耳たぶと瞼、それから額の生え際部分をちょっとだけつねられて、あまりの激痛に悲鳴を上げる俺。
そしてそれと同時に俺の脇腹を二箇所、思いっきりペンチで捻られてもう一回絶叫したよ。こっちはファルコとネージュだな。
「うぎゃあ〜〜〜〜〜!」
そして俺の悲鳴と同時に、思いっきり俺の腹を蹴っ飛ばして逃げていくマニ。
これもいつも思うけど絶対にわざとだろう!
そのまま勢い余ってベッドから転がり落ちたけど、床に激突する前にスライムベッドが受け止めてくれた。
「ご主人確保〜〜〜!」
「おお、ありがとうな」
まだ噛まれたところは痛いけど、なんとかそう言って顔をあげる。
「からの〜〜〜返却〜〜〜!」
「どわあ! 返さなくっていいって!」
慌ててそう叫んだが一瞬遅く、宙を舞う俺の体。
そのままニニの腹の上に見事に着地して、もう一回転がり落ちる。
まあ、今回はベッドに落ちたところで止まったんだけどさ。
「起きた起きた! だからもう起こさなくていいって!」
俺の周りに羽ばたく音が聞こえて、慌てたようにそう言って腹筋だけで起き上がると、お空部隊の子達が次々に俺の肩や足に飛んで来て留まった。
「ええ、もう起きたの?」
「もっと起こしてあげようと思ってたのに〜〜〜」
「そんな簡単に起きちゃあ駄目です〜〜」
軽く羽ばたきながらそんな事を言われて、笑った俺は鳥達を順番におにぎりにしてやった。
「起こされて起きたのに、文句を言われる筋合いはないぞ〜〜〜」
「きゃあ〜〜捕まっちゃった〜〜〜!」
嬉しそうなブランの叫び声に、笑ってもう一回力一杯おにぎりにしてやった俺だったよ。