傾向と対策
「ううん、ちょっと予想外の展開になったけど……確かにそれも一案だなあ」
皆からの思ってもいなかった意見に、戸惑うようにそう呟いた俺はハスフェル達を振り返った。
「じゃあ質問なんだけど、具体的にどこから取り組むべきだと思う?」
真顔の俺の質問に、ハスフェルとギイ、それからオンハルトの爺さんも真顔で頷いてくれた。
「そうだなあ。例の、暴力野郎のテイマーへの対応は一旦おいておき、それ以外の新人テイマー達にまずは一度会ってみるべきだな。素直に俺達の話を聞いてくれるようなら、テイムの際に気をつける事や、セーブルやヤミー達の事について、テイムの上限数なんかについてをいつものように詳しく教えてやればいい」
「まあ、まだ早駆け祭り当日まではしばらく時間があるから、俺達も一緒に行ってやるから、郊外で実際にテイムをさせてみてもいいだろうな」
ハスフェルとギイの言葉に皆も真顔で頷いている。
「確かにそれが一番良さそうだな」
ため息と共にそう言った俺を見て、ランドルさんが手を挙げる。
「あの、ちょっといいですかね」
真顔のランドルさんが、そう言って側にいた彼の従魔達を撫でてやりながら俺を見た。
「新人テイマー達なら、例の暴力野郎の噂は間違いなく街の住民達や冒険者仲間達から聞いているはずですから、なんなら会った時に直接聞いてみればいいですよ。街で噂になっている暴力テイマーについてどう思うか、ってね。その答え次第で、本人が自分の従魔達をどう考えているかある程度分かるのではありませんか?」
「ああ、確かにそれはいい考えだな。従魔達を大事な仲間として扱っているか、自分より下の単なる愚かな獣として見ているか、間違いなく分かるだろうさ」
うんうんと頷くハスフェルの言葉にギイとオンハルトの爺さんだけでなく、リナさん一家とボルヴィスさんも真顔で頷いている。
その言葉に俺も頷き、無言になって今思いついた事を真剣に考える。
皆、黙って俺が口を開くのを待っていてくれる。
「成る程。確かに良い考えそうだな。じゃあ、そのランドルさんのアイデアは採用させてもらいますね。ええと、それじゃあまず、今日にでもマーサさんの事務所に連絡をして、新人テイマー達は個人指導をするからと伝えて、手の空いている人から順番にマーサさんが用意してくれたんだっていう別荘へ連れてきて貰えばいいな。それで、そこでその質問をして相手の為人を確認してから、一通りのテイムに関する講習会をすればいいな。まあ、質問の答え次第では、例の暴力野郎への対応の予行演習にもなるだろうけどさ」
にんまりと笑った俺の言葉に、全員が驚きに目を見開く。
「で、何をするつもりだ?」
「その予行演習の内容とやらを詳しく教えてくれよ」
身を乗り出すハスフェルやギイの言葉に、俺は思いついた反撃のやり方を詳しく説明した。これなら従魔達に危険はないだろうからさ。
「うむ、それは確かに効果的かもしれんな。まずはやってみよう。これは面白くなってきたぞ」
妙に嬉しそうなギイの呟きに、皆もなんだか嬉しそう……なんだけど、やっぱりリナさんの笑顔が一番怖いと思うのは俺だけなのか?
俺が間違っているのか?
アルデアさん。少し奥様について話し合いたいんですが、今ちょっとよろしいですか?
割と本気でそう言いそうになって、笑いを堪えてグッと我慢をした俺だったよ。
朝食を食べ終えて少し休憩した俺は、まずはマックスに乗って別荘地の入り口近くにあるマーサさんが管理する不動産屋さんの事務所へ顔を出し、さっき話した予定を書いた手紙をマーサさんに急ぎ渡してもらうようにお願いしておいた。
「了解しました。すぐに渡します」
「ええ、お願いしますね」
笑顔で請け負ってくれたスタッフさんに俺も笑顔でお礼を言ってから、事務所を後に一旦別荘へ戻る。
高低差もあるし歩けばかなりの距離だけど、マックスに乗っていればすぐだよ、楽ちん楽ちん。
「いつもありがとうな。それから、新人従魔達の指導は、お前らに任せるからよろしく頼むぞ」
別荘に到着したところでマックスの背から飛び降りた俺は、そう言いながら両手を広げてマックスの大きな首に力一杯抱きついた。
おお、このむくむく、やっぱり最高だな。
ニニとは全く違う、がっしりとした頼もしい体に全体重を預けてちょっと脱力する。小揺るぎもせずにそんな俺の体をしっかりと支えてくれるマックス。もう、頼もしさの塊みたいだよ。
「お任せください。バッチリ指導してあげますよ。一人でも不幸な子を減らしてくれれば、私も嬉しいです」
「そうだな。確かにどんな子でも大好きなご主人に甘える権利も、それからご主人が間違ったら怒ってやる権利もあるよな」
「はい、その通りです。もちろんご主人が何か間違いそうになった時には、私が絶対に教えて差し上げますからね!」
尻尾扇風機状態のドヤ顔になったマックスの言葉に、なんだか堪らなくなってもう一回力一杯マックスを抱きしめた俺だったよ。
うん、俺一人では間違いなく手に余る依頼だけど、俺には頼もしい仲間達が大勢いるんだから、ここは遠慮なく力を借りてもいいところだよな。
マックスのむくむくな額に俺の額を思いっきり擦り付けて一つ深呼吸をした俺は、顔を上げて一つため息を吐き、鞍を外したマックスを連れてリビングへ向かった。
リビングでは、張り切った仲間達による、さっき俺が提案した暴力野郎への報復の役割分担について、それはそれは真剣な話し合いが持たれていたのだった。
『あの、一応これは脅しであって実際に攻撃したりするわけじゃあないんだから、お手柔らかに願いますよ〜〜。
暴力反対〜〜〜!』
思わず念話で力一杯そう叫んだ俺は、間違っていないよな?