向き不向きと最高の能力!
「そっか。俺が従魔達と触れ合っていつも感じている多幸感を、俺が撫でたり揉んだりする事で従魔達にも返せる、言ってみれば幸せのお裾分けが出来るみたいな能力なわけか。そりゃあ良い能力だな。ありがとうシャムエル様。癒しの術使いになったのかと思ってちょっと驚いたけど、俺的にはこっちの能力の方が最高に嬉しいよ」
改めて甘えてくるセーブルとマニを交互に撫でてやりながらそう言って笑うと、膝の上にいたシャムエル様は驚いたみたいに俺を見上げてから、にんまりと笑った。
「だから、欲しいって言ってくれれば、癒しの術習得の試練を一から全部詳しく教えてあげるのにさあ。どう? 癒しの術は、あれば便利な能力なんだけどなあ〜〜?」
「それは以前お断りしました! どう考えてもとんでもなく酷い目に合うとしか考えられない、そんな試練は、俺は絶対やりたくないです〜〜〜!」
必死になって顔の前でばつ印を作る俺を見て、横で聞いていたハスフェル達が全員揃って真顔になって、ものすごい勢いで頷いていた。
まあ、逆にあそこまで否定されるとちょっとどんなものなのか聞いてみたい気がしないでもないけど、間違いなく聞いたが最後そのままその試練に放り出されるのが確実な気がするので、無駄な好奇心は全部まとめて明後日の方向へ蹴り飛ばしておいたよ。
危ない危ない。うっかりシャムエル様の術中にハマるところだった。
「チッ、欲しいって言わなかったか。残念」
「ってかシャムエル様! 今、今チッて舌打ちしなかったか?」
「気のせいです!」
無駄にキリッとした顔で即答するシャムエル様を、俺は思いっきりジト目で見てやったよ。
「そうかなあ? 俺の気のせいか?」
「気のせいです!」
「まあ、良い事にしておくよ。でも冗談抜きでありがとうな。俺が撫でる事で俺も従魔達も幸せになれるなんて最高の能力だよ」
次々に甘えてくる従魔達を、遠慮なく撫でたり揉んだりしてやりながらそう言って笑う。
うん。改めて考えてみたら、これはまさに俺にぴったりの能力だよ。
「喜んでもらえたなら良かった。生まれる前の魂の状態なら、いくつかの質問や前世の行いの判定程度で簡単に術の付与や加護の付与が出来るんだけど、一度この世界に決まった姿と魂の形を持って生まれてしまうと、様々な術や加護の後付けでの付与って、実は結構難しいし大変な作業なんだよね」
何故かドヤ顔のシャムエル様の言葉に、思わず考える。
「へえ、そうなんだ。後付けでも、もっと簡単にくれるのかと思っていたよ」
実際、俺が氷の能力を貰った時って、拍子抜けするくらいに簡単だった気がするんだけどな。
「ううん、まあ、間違ってはいないんだけどちょっと微妙なんだよね。言ってみれば、世界に対する影響力が大きな術や加護ほど付与するのが大変なんだ。癒しの術がそのいい例だね。場合によっては人の命を左右するわけだからさ。生まれ持っての場合は大丈夫なんだけど、後付けで癒しの能力を付与しようと思ったら、本当に色々と大変なんだ。別に意地悪して無理難題を与えているわけじゃあないんだからね!」
「キリッとドヤ顔でそんな事言われても、俺は絶対に聞かないからな〜〜〜! あ〜〜あ〜〜聞こえないぞ〜〜〜!」
その無理難題とやらを勝手に話されたら大変なので、耳を塞いで聞こえないアピールをする。
「もう、さすがにそこまで無茶はしないよ。でも、癒しの術が欲しくなったらいつでも言ってね。張り切って試練を与えてあげるからね!」
「だから、そこでドヤるんじゃあねえよ。俺は絶対欲しいなんて言いませ〜〜ん」
必死の抵抗を見て諦めたのか、苦笑いしたシャムエル様は一つため息を吐いてから俺を見上げた。
「ええとね。後付けの場合って、その人自身が持つ適性が大きく左右するんだ。だから何らかの術が欲しくて試練を受けたとしても、適正的にその術がどうしても習得出来ない人だっているわけ」
「ええ、そんなの骨折り損のくたびれ儲けだよな。それはいくら創造主様とか神様でも酷すぎないか?」
「まあ、そんな時は事前に止めるよ。だけど、それでもって言って頑張っちゃう人がたまにいたりするんだよねえ。無下に断るのも可哀想だし、その場合は違う能力を勝手に付与したりする事もあるよ」
「ううん、それもどうかと思うけど。まあ、適性がないのに頑張るのは確かに無駄なんだろうけど、駄目だって言われたら更に頑張っちゃうってのも、分かる気はするよ」
苦笑いする俺の言葉に、シャムエル様は困ったみたいに笑っていた。
「ちなみになんだけど、ケンの場合は氷の術だけじゃあなくて、癒しや回復系の術にはかなり高い適正があるんだよね。だからこんなに勧めているわけ。でも、逆に火や風みたいな攻撃系の術は全くと言ってもいいくらいに適性が無いんだ。本当に、ちょっとびっくりするくらいに皆無なんだよね。まあ、ケンの性格を考えたら攻撃系に適性が無いってのは分かる気がするんだけどね」
まさかの攻撃系の術の適性皆無説に驚いてシャムエル様を見る。
「ええ、マジ?」
「マジマジ、私も今までいろんな人の子を数え切れないくらいに見てきたけど、ここまで攻撃系の術に適性がない子は初めてかもね」
「あはは、それってどうなんだって気がするけど、もしも俺が火の術を持っていたとしても、あの岩食いとの戦いでエリゴールがしていたみたいな、真正面からの戦い方が出来たかって聞かれたら……ちょっと自信ないなあ」
ちょっと遠い目になりつつ考える。結果としては、俺も氷を爆散させてある程度の攻撃は出来たけど、どちらかというとこっちへ来ないようにする牽制的な意味が強かった気がする。あの場での俺の重要な役目は、万一にも街の中に岩食い達が入らないように城門や扉を氷で封印する事だったからな。
「まあ、人には向き不向きってものが確実にあるからね」
「それでまとめられるのもどうかと思うけど、確かに向き不向きがあるのは否定しないなあ。そっか、俺には氷の術くらいがお似合いだったって事か〜」
でも、氷の術は料理をする俺的にはとても有り難い能力なので、そこはシャムエル様に感謝だよな。
「まあ、何であれ頂いた能力で頑張るのが正解って事だよな」
そう言いながら膝に座ったシャムエル様を捕まえて無意識におにぎりにしたところで、我に返って焦ったんだけど、何故かいつもなら空気に殴られて吹っ飛ばされるのに今は全くの無抵抗だ。
「あれ……? もしかして……」
手の中のシャムエル様は、うっとりととろけている。
これは確実に、俺がおにぎりにした事でシャムエル様まで幸せになって無抵抗になっているとみた!
「これは、最高の能力なのでは……?」
にんまりと笑って、最高にもふもふなシャムエル様を心置きなくおにぎりにした俺だったよ。
シャムエル様、グッジョブだ!