従魔達との遊び方
「ほ〜ら、噴水攻撃だぞ〜〜!」
交差するようにして握り合わせた掌の間に水を入れて思いっきり握る。すると親指の付け根あたりから勢いよく水が吹き出してマックスの顔を直撃した。
いわゆる手でする水鉄砲だ。
嬉しそうにワンと吠えたマックスが、吹き出す水に構わずスライムカヌーに飛びかかってくる。
「どわあ〜〜お前は自分の体の大きさを考えろって!」
マックスに飛びかかられて勢い余ってひっくり返ったスライムカヌーが一瞬で復活して、当たり前のように落っこちて流されかけた俺を確保してくれる。
自力復活&救出機能付きスライムカヌー。なんて素晴らしい。
スライムカヌーに救出されて復活した俺は、すぐ側にいるマックスに今度は川から直接水をすくってバシャバシャとマックスにかけまくってやった。
またしても大喜びで飛びかかって来たマックスだったけど、今回はスライムカヌーの方が学習してくれていて、ぶち当たる直前にするっと移動して逃げてくれたよ。
当然大喜びでスライムカヌーを追いかけるマックス、そしてそれを見て嬉々として川に飛び込んで追いかけ始めるビアンカと狼コンビ。セーブルまで一緒に参加して追いかけてきたもんだから、逃げるスライムカヌーはあっという間に川下に向かって流されていく。
「離れちゃったから、皆のいる場所へ戻りま〜〜す!」
ベースキャンプの場所から離れてどんどん流されていくのを見て慌てた俺が何か言うより先に、のんびりしたアクアの声が聞こえる。
だけど川上からはマックス達が豪快に水飛沫を跳ね上げながらこっちへ走ってきているので、川の流れを逆走して上がるほどの場所はない。
どうするのかと思っていたら、なんと俺を乗せたままスライムカヌーがいきなり横に曲がって陸地に上陸したよ。
「では、逃げま〜〜す!」
張り切った声でそう言ったスライムカヌーは、ニュルンと動いて俺の下半身をしっかりと確保したまま直径2メートルくらいのやや平べったい球体に変化して、以前もやったスライムタクシー状態になった。
地面を確認するみたいにボヨンボヨンと数度飛び跳ねた後にもの凄い勢いで走り出した。いや、これは滑り出したと言う方が正しいか?
何しろ、上に乗っているというか確保されている俺にはほとんど衝撃が伝わってこないもんだから、案外乗り心地がいいんだよな。
それを見て、あちこちから吹き出す音と大爆笑する声が聞こえてくる。
「行け〜〜〜!」
そして、大張り切りで叫ぶアーケル君達やハスフェル達の掛け声と笑い声。
どうやらあいつらも、スライムカヌーからスライムタクシーに変わったみたいだ。
当然、それを見て慌てて川から上がって俺を追いかけ始めるマックス達、そして、退屈そうに草地に寝転がって寛いでいた猫族軍団をはじめとする他の従魔達も、いきなり歓声を上げてこっちへ向かって走り出した。
「きゃあ〜〜〜!」
妙に嬉しそうな悲鳴を上げて、即座に方向転換して逃げ出すスライムタクシー。
「ほらほら、追いかけてこ〜〜い!」
ただ乗って逃げているのも退屈なので、収納していた大きなダチョウの羽根を右手に持って思いっきり振り回してやる。
一応これは高く売れる装飾用の素材なんだけど、大量にあるから一本や二本くらいおもちゃ用にしても構わないだろう。
それを見て、もうキラッキラに目を輝かせて俺を追いかけてくる猫族軍団。特にダチョウの羽根を初めて見るマニの興奮っぷりが半端ない。
下手に追いつかれたら命の危険を感じるレベルだ。ううん、これはちょっと刺激が強すぎたか?
「だ、大丈夫か?」
若干不安になって思わずそう呟く。
「大丈夫で〜〜す! お任せくださ〜〜〜い!」
得意げなアクアの声が聞こえてさらに速度が上がる。
本気で走っているマックス達に追いつかれないって、もしかして早駆け祭りにスライムで出たら最強なんじゃね?
乗り心地の良いスライムタクシーに乗ったまま、割と本気でそんな事を考えた俺だったよ。
まあ、マックスが拗ねて泣くだろうから俺はやらないけどね。
「アクア〜〜! ご主人をこっちへ〜〜〜!」
楽しそうなアワユキ達の声が聞こえて慌てて振り返ると、今乗っているスライムタクシーと同じくらいの大きさになった真っ白なスライムタクシーとメタルカラーのスライムタクシー、それからレインボースライム達が並んでこっちへ向かってすごい勢いで滑ってくる途中だった。
「はあい、お任せしま〜〜す!」
追いついた真っ白なスライムタクシーがポヨンと跳ねてアクアとサクラが合体したスライムタクシーにくっつく。そのまま勝手に移動した俺は、真っ白なスライムタクシーに確保されたよ。
俺を解放したアクアとサクラのスライムタクシーに、レインボースライム達が追いついて一瞬で合体してスライムタクシーになる。
もちろんその間も、すごい勢いで滑り続けている。
「では逃げま〜〜す!」
嬉しそうな声でそう言った真っ白なスライムタクシーがまたしても方向を変えて逃げ出し、目を輝かせて迫り来る猫族軍団から逃げていく。
「待つのにゃ〜〜〜!」
どうやら興奮したら赤ちゃん言葉に帰るらしいマニが大きな声でそう叫び、いきなりすごいジャンプで飛びかかってきた。
「きゃあ、追いつかれちゃった〜〜〜!」
これまた嬉しそうなアワユキ達の声の直後、飛びかかってきたマニはスライムタクシーに一瞬で取り込まれた。
驚いた俺が何か言うよりも早く、そのまま後方からペって感じに吐き出されるマニ。
よっぽど驚いたんだろう、完全に硬直したマニがそのまま転がるのを見て堪えきれずに大きく吹き出す俺。
「ご、ごちゅじん、笑うにゃんてひどいのにゃ〜〜〜!」
ようやく復活したマニがそう叫んで、また勢いよく追いかけてくる。
「ほらほら頑張れ〜〜〜!」
手にしていたダチョウの羽根を思いっきり振り回してやると、いきなり横からティグが飛びかかってきた。
「うおお! どこから来たんだよ!」
完全に死角からの攻撃だったので全く対処出来ず、一瞬でダチョウの羽根を取られてしまった。
しかし、逃げる事なくダチョウの羽根を咥えたまま、俺の乗る真っ白なスライムタクシーと並走して走り出すティグ。
当然目を輝かせてそれを追いかけるマニ達。
ダチョウの羽根を咥えてドヤ顔で俺を見上げるティグと目が合い、堪える間も無く吹き出した俺だったよ。