ごちそうさまと午後の昼寝タイム!
「はあ、痛かったよ〜〜〜」
予想外の赤ワインソースの鼻への攻撃を受けて一人で悶絶していた俺は、なんとか復活したところでこっそり取り出した美味しい水を飲んでから、そう叫んだ。
「本当に何をやってるんですか。はいどうぞ! 焼けましたよ!」
またしてもアーケル君が持ってきてくれた山盛りのお肉をうっかり受け取ってしまった俺は、無言で半分以上をシャムエル様に取り分けてやり、それでもまだ残っている山盛りのお肉を見て、苦笑いしてため息を吐いてからこっそり収納しておいたよ。
気を遣って持ってきてくれるのは最高に嬉しいんだけど、もうマジで腹一杯なんだって。これ以上食べたら逆流してくるぞ。
「お前は相変わらず少食だなあ」
呆れたように笑ったハスフェルの言葉に、あちこちから同意の声と笑い声が聞こえる。
「いやいや、もう充分過ぎるくらいにいただいたって。俺に遠慮せず、まだ食える方はどうぞお好きなだけ食ってください! いや、だからもう無理だって言っているだろうが。お前らの食欲を基準にするなってば!」
まだ肉を寄越そうとするハスフェルとギイを見て、慌てて顔の前でばつ印を作って見せる。
「ええ、そんな事言ってたっけ? 聞いた覚えがないなあ」
笑ってそう言ったギイが、またしても焼けた分厚い肉にナイフを突き刺して豪快に齧り付いている。
ううん、ワイルド。
「それにしても、いつもと同じ肉を焼いて食べるだけなのに、良いお天気の郊外で食べると、いつも以上に美味しく感じるんだなあ。はあ、でももう冗談抜きで腹一杯だ。ごちそうさまでした! あ、そうだ。アクアとサクラ。もうちょっと全体に大きくなってベッドになってもらえるかな」
スライム椅子に仰向けに寝転がってのんびりとくつろぎながらそう呟いて手を合わせた俺は、ふと思いついてもうちょっと大きくなってベッドになってもらってもらい、足も伸ばして完全に横になった。
「はあ、風が気持ちいいぞ……お腹もいっぱいだし、後片付けの心配もしなくていいし、最高に幸せだよなあ……」
そう呟いて腕を空に向かって思いっきり伸ばしてストレッチをしてから横を見る。
どうやら、大食漢達もそろそろ満足したみたいで、塊肉は綺麗さっぱり平らげられて大きな金串だけになっているし、火を落としたバーベキュー台や汚れたバットやお皿やグラスは、スライム達が群がってお片づけという名のスライム達のお食事の真っ最中だ。
働き者のスライム達を見て和んでいると、何やら背後から賑やかな笑い声と足音が聞こえてきた。
「おう、おかえり。何だ、もう戻ってきたのか?」
横になったまま顔だけ振り返って、走って戻ってきた従魔達に声をかけてやる。
「そろそろお食事が終わってお昼寝の時間ではないかと思いまして、ひとまず戻ってきました。ご主人、添い寝役はどの子がいいですか?」
先頭にいたドヤ顔のマックスの言葉に、思わず吹き出す俺。他の従魔達もそれぞれのご主人に同じ事を言ったみたいで、同じくスライムソファーで寛いでいたあちこちから笑う声が聞こえてきた。
「あはは、お前ら最高だな。確かにちょっと眠くなっていたんだよ。さあ、どの子にしてもらおうかなあ?」
スライムベッドに手をついて起き上がって座った俺は、にんまりと笑って両手を顔の横でわぎわぎさせながらそう言って従魔達を見た。
「一緒に寝るのにゃ〜〜〜!」
すると、大きな声でそう叫んだマニが、俺の腹目掛けてすごいジャンプと共に飛び込んできた。
「ちょっと待った〜〜〜! 今そこは禁止〜〜〜!」
冗談抜きで、今マニに腹ダイブされたら色々と逆流してきて確実に大惨事になるよ。
慌てて横に転がって腹ダイブからは逃げたんだけど、勢い余ってスライムベッドから転がり落ちてしまう。
「ご主人、危ないよ〜〜〜」
気が抜けそうなくらいにのんびりした声が聞こえて、即座に伸びた触手に俺の体は地面に落ちる前に無事に受け止められた。
そして、それと同時にあちこちに転がっていた俺のスライム達が一気に跳ね飛んで集まってきて、アクアとサクラにくっつきいつもの巨大なスライムベッドになった。
「おいおい、後片付けは……ああ、もう済んだのか。相変わらずお前らは仕事が早いんだなあ」
ピッカピカになったバーベキュー台や大型の業務用コンロ。机の上に綺麗に大きさ別に並べられて重ねられている大小のお皿やグラスを見て思わず笑っちゃったよ。
そして、いそいそとスライムベッドに上がってくるニニとマックス、そしてウサギトリオ達。
「お前ら最高だな。ああニニ、お日様の匂いがする……」
いつものように横になってくれたニニの腹にマニと並んで潜り込むと、横にマックスが俺を挟んで横になり、背中側にウサギトリオがくっついてくる。
マニが俺の腕の中に鼻先を突っ込んできたので抱き返してやり、柔らかな頬毛に顔を埋めた。
「ああ、これを幸せと言わずして何と言うのだろう……」
大満足のため息を吐いてそう呟き、目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。マニが俺の顎の下あたりにくっついてきたので、顔を上げてもう一度抱きしめ直してやった。
「相変わらず、寝付きは抜群にいいんだよねえ。じゃあせっかくだから、私も一緒に昼寝させてもらおうかなあ」
うとうとして今にも眠りの海へ落っこちそうになっていた俺の耳元で、微かに聞こえる楽しそうなシャムエル様の声と誰かの笑う声。そして、俺の鼻先にくっついた最高にふわっふわな何か。
うん、これは間違い無くシャムエル様の尻尾だ。
多分、位置的に俺が抱きしめているマニの頭の上か鼻先に寝転がって俺にくっついていると見た!
起きろ俺! 今すぐに起きて、目の前に広がるこの最高に幸せなもふもふ空間を満喫するのだ!
脳内で拳を握りながらそう叫んだ俺だったけど、もう完全に眠り始めていた俺の体は全く反応出来ず、そのまま気持ちよく眠りの海へ墜落して行ったのだった。ぼちゃん……。