バーベキューの準備開始だ!
「ええと、じゃあまずはメインの肉を準備するか。だけど、いつもみたいに肉は小さく切っていいのかな?」
バーベキューなら肉は大きい方がいいだろうか?
取り出した作業用の机の上に乗って俺を見つめているサクラを捕まえて、半ば無意識におにぎりにしながら考える。
「まあいいや。とりあえずいつも通りに準備しておいて、それ以外に大きめの肉も用意しておくか。それじゃあサクラ、とりあえずいつもの岩豚と、グラスランドブラウンブルとブラウンボアの熟成肉、赤鹿の肉もいいな。それからハイランドチキンとグラスランドチキンの肉も、全部いろいろと出してくれるか。あとは水鳥の肉も一通りお願いするよ」
うん、手持ちのジビエの肉だけでどれだけ種類があるんだよってな。
ガンガン取り出されていく目の前に積み上がる大量の各種肉の山を見て、乾いた笑いが出た俺だったよ。
よし、次に師匠に会ったら、ジビエ各種を以前よりももっとまとめて押し付けてこよう。
手分けしてスライム達に取り出したお肉を切ってもらいつつ、ふと思いついて少し離れたところで準備を始めていたハスフェル達を振り返った。
「おおい、今日は塊肉も焼くか? それなら、以前作った赤ワインの中にスパイスや蜂蜜を入れた特製ソースも作っておくけど?」
「おう、大型コンロも持って来ているからもちろん塊肉も焼くぞ。あのスパイスの効いた赤ワインソースは美味しかったから、是非沢山作っておいてくれ」
振り返ったギイが笑顔でそう言ったので、俺も笑顔で頷いて手持ちの赤ワインの大きな瓶を取り出した。
これは、料理用に使うからとまとめてもらった中の一本だ。一升瓶よりちょっと小さいくらいだから、めっちゃ入ってるよ。
「確か、これって俺の口にあったんだよな」
にんまりと笑った俺は、まずは近くにいたアルファにお願いして栓を抜いてもらい、取り出したグラスにたっぷりと注いだ。
「これは、スパイスやハチミツを入れるために減らしただけだからな」
そう言って右手に赤ワインの瓶を持って、立ったままぐいっと赤ワインを飲む。
「ううん、昼間っから外で飲む赤ワイン、美味いねえ」
半分ほど飲み干して満足のため息を吐いたら、何故か突然小石が飛んできて俺の胸当ての背中側に当たって小さな音を立てた。
驚いて振り返ると、笑ったハスフェルとギイが、もう一回こっちに向かって小石を投げるところだった。
「お前、何を一人でそんな良いもの飲んでいるんだよ。人が一生懸命準備しているっていうのに!」
「これは、スパイスやハチミツを入れるために減らしただけなんです〜〜!」
笑いながらの抗議の声に、赤ワインのグラスと瓶を持ったまま小石を避けた俺は、そう言い返しながら堪える間も無く吹き出したのだった。
「よし、じゃあこれは丸一日分時間経過をお願いするよ」
赤ワインの瓶に各種ハーブを配合したスパイスや軽く潰した黒胡椒と赤胡椒、それから蜂蜜もたっぷりと入れて軽く振ってかき混ぜてから、待ち構えていたアクアに渡して時間経過をしてもらうように頼む。
これは塊肉にふりかけながら焼く時用の専用ソースだ。ハーブとスパイスの効いたこのソースが染みた肉は最高に美味しいんだよ。
ちなみにこの肉は、岩豚みたいな脂たっぷりのジューシーな肉よりも、普通の牛肉のリブの部分や赤鹿のシンプルな赤身肉なんかの方が美味しいんだよな。
よし、今回はレッドエルクの赤身肉で作ってもらおう。
「これ、準備出来たからよろしくな」
塊肉は先に焼き始めておかないと、なかなか食べられないからな。
声をかけると満面の笑みのアーケル君が受け取りに来てくれて、塊肉各種と赤ワインソースの大瓶を収納袋に突っ込んで持っていったよ。
その後ろ姿を追いかけて見ていると、川の横の空いた場所に大型のコンロが三台も用意されていて、巨大な金串と焼く時の専用の台が並んでいる。
その並んだ焼き台の前に草原エルフ三兄弟が並んで座り、手分けして渡した塊肉をそれぞれ焼き始めた。
成る程、塊肉は前回と同じく彼らが担当してくれるのか。
そして三人が肉を焼いている奥側には、ドラム缶を横にしたみたいな半円形の巨大な焼き台が二台、ハスフェル達の手で設置されている真っ最中だった。
ランドルさんとボルヴィスさんは、あれにセットするのだろう大型のコンロの横でしゃがんで何かしているから、多分メンテ的な事をしてくれているのだろう。
「へえ、あのいかにもバーベキュー用ですって感じの焼き台は初めて見るなあ。いつもの鉄板焼きとは違うのかな?」
いつもなら業務用サイズの巨大なコンロの上に、金属製の台に乗せた鉄板をシンプルに置くんだけど、あれはそれとは違うんだろうか?
ちょっと気になったので、肉をせっせと準備してくれているスライム達を置いて様子を見に行ってみたよ。
「へえ、半分が鉄板で半分が網焼きなんだ。しかも鉄板側は蓋付きなんだ」
作業しているハスフェルの横から覗き込むようにして見て、よくできたその構造に感心して思わずそう呟く。
俺の知るドラム缶の倍サイズは余裕でありそうなそれは、まさにドラム缶を縦にバッサリとぶった斬ったみたいな、かまぼこをひっくり返したような半円形になっている。
その断面部分に、大きな鉄板と網が半分ずつ並べられていて、開閉式の丸い蓋が鉄板側にだけ取り付けられているのだ。
「おう、こっちの蓋付き鉄板なら分厚い肉なんかもうまく焼けるぞ。出来れば大きめの肉の準備も頼むよ」
右手で5センチくらいの厚みを作って見せたハスフェルの言葉に、俺はドヤ顔で頷く。
「おう、もちろん分厚い肉も沢山用意しているぞ」
サムズアップした俺の言葉に、飲み物の準備をしてくれていたリナさん達まで振り返って、全員揃って拍手大喝采になったのだった。
って事で急いで机に戻った俺は、あとは野菜の準備をしたり、食べる時用のつけダレ各種の準備をしたのだった。
「よし、準備出来たぞ〜〜〜そっちはどうだ?」
たっぷり用意した野菜を収納した俺が振り返ってそう言うと、満面の笑みのハスフェル達が揃ってドヤ顔になる。
「おう、こっちの準備も完了だ。じゃあ始めようか」
「おう、じゃあバーベキュー開始だな!」
にんまりと笑った俺の言葉に、またしても全員揃っての拍手大喝采になったのだった。
よし、河辺での楽しいバーベキューの開始だ!