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ふかふかの新しい仲間

「はあ……疲れた」

 地面に転がった俺は、抜き身の剣を手にしたまま大きなため息を吐いた。

 ちょっと、マックス達が狩りに行ってる間の時間つぶしの筈だったのに……何でこんなハードな事になってるんだよ。


 うん、めっちゃ頑張ったよ、俺。誰か褒めて……。


「大袈裟だなあ。そこまで疲れるほど?」

 胸元に乗ったシャムエル様の呆れたような声に、思わず俺は腹筋だけで起き上がった。

「ちょっと! 急に起きないでよ!」

 吹っ飛びそうになったシャムエル様が、リスもどきのちっこい手で俺の襟元に捕まり、ぶら下がって文句を言ってる。


 はいはい、ちっこいと色々と不自由だね。


 右手で受け止めて膝に下ろしてやる。

 それから剣を腰の鞘に戻して、もう一度大きなため息を吐いた。

「言っておくけど、俺の今までの生活では、剣で戦うなんて事無かったんだからな!」

 目をパチクリと瞬いたシャムエル様は、しばらく考えた後、妙な顔をして首を傾げた。

「じゃあ、何で君はそんなに体を鍛えてたの? どう見ても戦士の身体だったから、平均より強い身体にしたのに、要らなかった?」

「いや、弱いより強い方がありがたいから、それは良いんだけどさ……」

「じゃあ、しっかり頑張ってね」

 にんまり笑うシャムエル様をジト目で見て、もう一度俺はため息を吐いて地面に転がった。


 目の前いっぱいに、まだ暮れるには早い空が広がってる。


「ここって、以前言ってた地脈の吹き出し口ってやつ?」

 俺の質問に、また胸元に登って来たシャムエル様が頷いて胸を張る。

「そうだよ。ここはほとんど知られてない場所だから、狩り放題だね」

「へえ……良いな、それ……」

 ぼんやりと空を見上げて考える。


 まあ、これから先、何をするにしても金がいるんだから、他の人が知らない狩り場を持つのは良いかもしれない。十日も宿を借りてるんだから、少なくとも時間がある時は、訓練を兼ねて頑張ってジェムモンスター狩りをして、集めたジェムで軍資金を稼ぐのも悪くは無いだろう。


 うん、よし、当分の間の方針が決まった。


 今度はゆっくり起き上がって、シャムエル様を肩に乗せてやる。

「ファルコは飯はまだだろう? もうちょっとここらで頑張るから、お前も狩りに行ってこいよ」

 砂を払いながら言うと、ファルコが嬉しそうに鳴いて、ゆっくりと飛び上がった。

「じゃあ行って来ます。場所を変えても分かりますので、別の場所に移動しても大丈夫ですよ」

 上空を旋回してから、森へ向かって飛んで行った。

「じゃあ、どうする? またここにいれば出てくるのか?」

 静かになった穴を見ながら言うと、肩から飛び降りたシャムエル様が穴を覗き込んで考えている。

「一気に狩ったからね。全回復するまでちょっと時間がかかりそう。じゃあ他にもあるから移動しようか」

 その言葉に、俺はマックスの背中に乗ろうとして手を止めた。

 穴から何か、小さいのが出て来たのだ。


「お? まだいたのか」

 剣を抜こうとしたが、出て来たのは先ほどとは比べものにならないくらいの、ちっこいブラウンホーンラビットだった。

 以前のニニより小さい。ツノなんて俺の指ぐらいしか無い。

 そいつはプルプル震えながら出てきて、俺たちがすぐ側にいるのに気付いて固まってしまった。

 そして、更に小さくなってもっと震えだした。


 ……これは、ちょっと……やっつけるのは可哀想だな。


 マックスから離れてそっと近寄ってみるが、逃げる様子が無い。

 手を伸ばして首根っこを掴んで持ち上げても、ほとんど無抵抗だ。

 ジェムモンスターが、どんな風に育つのか知らないが、こいつはどう見ても生まれたての子供っぽい。一匹だけ残すのは可哀想な気がしたんだけど、どうしたら良いんだろう。ごめんね、お仲間を全部やっつけちゃって。


「ああ、その子はまさに、今生まれたばかりの子だね。繋ぎの子だ」

「繋ぎの子? 何だそれ」

「巣穴が空になると他のモンスターが入って来たりするかもしれないから、ここを守るためにとりあえず数匹だけ先に出て来るんだよ。ああ、ほら二匹目が出て来た。へえ、この調子なら回復は早そうだね。一晩もすれば、また巣穴は仲間であふれる事になるね」

 言われて見ると、穴から、これも小さいのが顔を出してこっちを窺ってる。

「成る程。じゃあここにこいつらを置いて行ったらどうなる?」

「穴の中で、ほかの仲間が生まれるまで待つだけだよ。まあ、すぐにワラワラ湧いてくるから明日には仲間が大勢になるよ」

 俺は、掴んだままのちっこいウサギを見た。

「お前、俺の仲間になるか?」


 妙に可愛いこいつ、うん、気に入った。


「ありがとうございます!」

 妙に可愛い声でそいつはそう答えた。何と、まさかのこいつも雌でした!

 すると、小さかったそいつは俺が手を離すと地面に降り立ち、光った後一気に大きくなり……以前のマックスよりも大きいぐらいになった。

 おお……これって一番最初に出て来た、あのボスウサギとおんなじぐらいの大きさじゃん……。


「ああ、良いのをテイムしたね。それはブラウンホーンラビットの亜種で、強くなるよ」

 ドヤ顔のシャムエル様を横目で見て、足元に座って嬉しそうに俺を見る角付きウサギを見下ろした。

「へえ、お前強いのか。じゃあよろしくな。あ、紋章はどこに付ける?」

「額に!額にお願いします!」

 足をダンダンと踏み鳴らしながら、首を伸ばしてこっちへ向ける。


 はいはい、ここね。


 右手袋を外した俺は、角の下の狭い額に手を置いた。

「お前の名前はラパンだ、よろしくな。ラパン」

 まんまウサギって意味だ。良いよな可愛い響きだし。俺が名前を言うと、手の下でもう一度光った。

「ありがとうございます。どうかよろしくご主人」

 可愛い声でそう言うラパンを、俺は手を伸ばして撫でてやった。

 ……ナニコレ、超ふわふわじゃん。

 ニニとはまた違う、すっごい柔らかいふわふわの毛に、俺はノックアウトされた。

「待って……何これ……この毛……最高過ぎる……」

 抱きついてラパンの背中に顔を埋める俺に、またしてもシャムエル様が冷たい目で見ていたらしい。

 構うもんか! このふわふわは俺の元気の素なんだよ!


 ……ああ、癒される。




 その後、マックスの背中に乗せてもらって、シャムエル様の案内で別の場所へ向った。

 水場が近くにあるそこに出て来たのは、ワニっぽいジェムモンスターだった。

 待て待て、あの口はヤバイだろう。噛み付かれたら足ぐらい簡単に持っていかれそう。

 本気で怖がる俺だったが、当然のようにその意見は無視され、気がついたら戦闘が始まっていた。

 水場だが、地面は岩があり案外足場はしっかりしてる。

 のそのそと岩の上に上がってくる、案外動きの鈍いそいつらを、ガンガン剣で上から突き刺してやっつけました。

 思ったより怖くないと思って安心していたら、超デカいボスワニ出ましたー!


 ヤバイって! あれはマジでヤバイって! 体長5メートル近くあるだろうが!


 本気でビビる俺を無視して、マックスとラパンが大張り切りしてた。

 マックスが飛び掛かって頭を押さえ付け、動きを封じたところでラパンが後ろ足でものすごい一撃を放ったのだ。

 勢いよく吹っ飛ぶボスワニ……。おお、ご愁傷様です。

 地面に叩きつけられて、呆気なく巨大なジェムになって転がったよ。


 呆然と見ていた俺に、振り返ったラパンとマックスが揃ってドヤ顔だった。

 ラパン……お前のその額にある巨大な角は、武器なんじゃ無いのかよ。


 その後も、次々と出てくるワニもどきをやっつけて、ようやく出てこなくなった時には、もうまたしてもヘトヘトに疲れきってました。

「もう帰ろう……本気で疲れました……」

 地面に転がってそう言う俺を、またしても胸元に来たシャムエル様が眺めている。

「基礎体力はあるんだけど、持久力が案外無いんだね。まあこれは訓練すれば大丈夫でしょう。よしよし、上手くいってるね」

「何が! 何が上手くいってるってんだよ!」

 またしても腹筋だけで起き上がった俺と、吹っ飛ばされそうになって、俺の顎の下側を掴むシャムエル様。

「痛い痛い! 顎、顎掴むのやめて!」

 そのちっこい手で、薄い皮膚をちょびっと掴まれると、マジで痛いですって!


 起き上がって叫ぶ俺を見て、膝に降りたシャムエル様は照れたように笑った。

「だって、ここまで細かく個人を設定して作るのは初めてだったからさあ。上手くいってるか確認しておかないとね」

「何それ、つまり俺って……試作品か何か?」

「試作品じゃ無いけど……まあ、私にとっては記念すべきオリジナル第一号ってとこかな?」

 遠い目になる俺を見て、シャムエル様が俺の膝を叩いた。

「でも、ニニちゃんやマックスも上手く再生できたし、君だって上手く出来たからね。うんうん、本当に地脈が整って、色んな事が見事に再生したよ。良かった。せっかく作ったんだから、やっぱり長持ちして欲しいもんね」


 顔を覆った俺は、今日何度目か数える気もないため息を吐いた。

 もう、この話は終わり。俺が考えても答えは無いんだからさ!


「で、あんたはまだしばらく、側にいてくれるのか?」

 起き上がってそう言う俺に、シャムエル様は嬉しそうに笑った。

「君が迷惑でなければ、いるよ。まあ何か用事がある時はいなくなるけど、気にしないでね」

 まあ、これでも一応神様らしいから、俺には分からないけど、何か色々と仕事があるんだろう……多分。

「了解、じゃあ、まあ改めてこれからもよろしくな」

 指を差し出すと、また嬉しそうに先を握って笑う。指を上下してやると、何がおかしいのか、また朝と同じように声を上げて笑っていた。


「あ、おかえり。お腹いっぱいになったか?」

 ニニとファルコが次々と戻って来て全員揃ったので、一旦街へ戻る事にした。

 結局ワニもどき狩りでは、大小合わせて、全部で72個のジェムが手に入っていた。スライム達、ジェム拾いご苦労さん。

 さっきの2回分のウサギの乱獲と合わせると、200個超えのジェムが今日一日で手に入った事になる。


 うん、宿泊所へ戻って整理して、置いておく分と売る分を分けよう。

 それで、ギルドへ行って買い取ってもらおう。


 果たして全部合わせるといくらで売れるのか、へへ、楽しみだな。

 ギルドの買取金額を考えて、ちょっと嬉しくなる俺だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もふもふものが好きで読みはじめました。 [気になる点] 神とやらがいつまでもそばにいるのを不自然に感じます。 それに、神の言う通りに行動しているのでは自由とはいえません。 それでは神の犬で…
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