外へ出るぞ〜〜〜!
「さて、それじゃあとりあえず外へ出て、その東側の草地にあるっていう泉と小川へ行ってみるか」
朝食を終えて少し休憩した俺は、立ち上がって伸びをしながらそう言って皆を振り返った。
「やっと晴れましたからねえ。是非行きましょう!」
大張り切りのアーケル君の言葉に、皆も笑顔で立ち上がる。
机の上はもう、スライム達が綺麗さっぱり片付けてくれているので何もない。
「じゃあ、今日は従魔達も全員集合かな? お前らは……ああ、行くんだな。よし、じゃあ一緒に行こうな」
冬の間はほぼ留守番だったイグアナコンビをはじめとする寒がりな子達も、これだけ暖かくなればもう大丈夫だ。
全員揃って遊ぶ気満々になっている従魔達を見て、笑った俺は手を伸ばしてマニを捕まえて力一杯抱きついた。
「よし、じゃあ皆で一緒に行こう!」
「一緒に行くにゃ〜〜〜!」
何故か赤ちゃん言葉になっているご機嫌なマニの声にもう一度笑った俺は、床に置きっぱなしになっていた鞄を手に取り、従魔達を引き連れて部屋を出ていった。
「ううん、しかしなんとなくノリでバーベキューをしようって言ったけど、簡易コンロを使わないならどうやって火を起こすかねえ。それにバーベキューの台なんてさすがにないからなあ、まあ、いざとなったらいつもの簡易コンロに鉄板で焼き肉だな」
どうやったらバーベキューっぽくなるのかを考えて困ってしまった。廊下を歩きながら無言で考えていると、不意に誰かに肩を叩かれた。
「ん? どうかしたか?」
驚いて振り返ると、笑顔のハスフェルが何故かドヤ顔でサムズアップをしている。
「おう、なんだ?」
思わずサムズアップを返しながらそう尋ねると、ドヤ顔のギイもハスフェルの横で同じくサムズアップしている。
「任せろ。昨日ここの倉庫で良いものを見つけたんだよ」
「へえ、良いものってもしかしてバーベキューに使えそうな何かか?」
「ああ、大人数でするならあれはぴったりだと思うぞ。セッティングは任せてくれていい。だけど、すまんが食材の準備は頼むよ」
何やら自信ありげな二人の言葉に、俺も笑顔でもう一度サムズアップを返す。
「もちろんそっちは任せろ。じゃあセッティングは任せた!」
「おう、任された!」
笑った二人と笑顔で手を叩き合った。
「ええ、一体何の話ですか?」
興味津々なアーケル君の質問に振り返ると、後ろを歩いていたリナさん一家とランドルさんとボルヴィスさんも興味津々で俺達の話を聞いている。
「ああ、野外で食事をする時用の大きな専用道具をここの倉庫で見つけてな。だから今日の昼は、それを使って肉を焼くぞ」
「ええ、なんだか分かりませんけどじゃあ楽しみにしていますね。ああ、お手伝いしますから、なんでも遠慮なく言ってくださいね」
「おう、じゃあセッティングの時には皆にも手伝ってもらうよ」
笑ったハスフェルの言葉に、何故か拍手大喝采になった。皆、ノリがいいねえ。
「じゃあよろしくな。ああそうだ。せっかくだからちょっと庭をぐるっと一周走ってみようか」
マックスに鞍と手綱を取り付けていると、尻尾扇風機状態のマックスが何か言いたげに俺を見つめているので、笑いながら腕を伸ばしてマックスの首に抱きついてそう言うと、ご機嫌にワンと吠えて飛び跳ね始めた。
「待った待った。マックス、ステイ!」
即座に俺の横で良い子座りになるマックスを見て、ボルヴィスさんが驚きの声を上げている。
そして、ボルヴィスさんの横にいるセラスの尻尾が、俺の声が聞こえていたらしくいきなりすごい勢いで振り回され始めた。マックスの尻尾扇風機状態と全く同じだ。
ボルヴィスさんと一緒に走れるのがよほど嬉しいらしい。
ううん、犬科の子達の尻尾は、本当に嘘をつけないんだよなあ。
「よし、じゃあ行こうか」
なんとも可愛い従魔達の様子に和みつつ、お座りしていたマックスの手綱を軽く引いて立たせて一緒に外へ出ていく。
全員が外へ出たところでとりあえず扉は施錠しておき、そのままマックスに飛び乗る。
「ううん、良い天気だ」
見上げた真っ青な空は雲ひとつない快晴だ。
「じゃあ、最終目的地はその東側の小川沿いの草地だけど、そこへ行くまでのルートはマックスにお任せするよ。さあ、どこを回って行く? 一応お願いしておくけど、俺達を振り落とさないような安全なルートを取ってくれよな」
好きに走らせる際に重要なので、ここは念押ししておく。
さすがに俺達を乗せたままで、垂直の断崖絶壁を登られるのは勘弁してほしいからな。
「分かりました。では坂道を一旦下ってそれから西側の柵沿いにぐるっと走ってから坂道を駆け上がって、東側へ向かいましょう。そのルートなら多少の段差はありますが安全ですからね」
「お、おう。じゃあそれでお願いするよ。
「了解しました。じゃあ皆、行きますよ〜〜〜!」
「お〜〜〜〜〜!」
何故か犬族軍団だけでなく、猫族軍団やお空部隊ウサギ軍団、果てはイグアナ達までもが全員巨大化してめっちゃやる気になってるよ。
「ええ、お前達も駆けっこに参加するのか?」
驚く俺の言葉に、ハスフェル達も驚いてそれぞれ自分の獣魔であるイグアナ達を見ている。
「持久力がさほどないので我らは短距離限定ですが、せっかくなので途中まででも一緒に走らせてもらいますね。脱落したら、後から遅れて行きますので、どうぞ気にしないでください」
巨大化したイグアナ達の中から、プリクルがそう言ってまるで笑うかの様に目を細めて少し顔を上げる。
イグアナって凶暴な見た目だけど、実は驚くくらいに性格は温厚だし、あの見た目だけど完全なる草食なんだよな。
とにかく愛情全開で飛びかかってくる従魔達の中では、蛇のセルパンと同じくイグアナコンビはそれはそれは控えめで大人しいので、普段から過度な接触はほぼ無い。
だけど、見かけによらず一途ですっごく可愛いんだよな。
「そっか。無理はするなよ」
手を伸ばして背中のトゲトゲにそっと触れてやる。特に巨大化したら尻尾の先まで入れたら5メートル越えだから、改めて見るとなかなかの迫力だ。リアル恐竜っぽい。
まあ、うちには本物の恐竜もいるから別に珍しくはないんだけどね。
甘えるみたいにそっと俺の手を甘噛みしたプリクルは、そのまま仲間達のところへゆっくりと戻って行った。
「よし、それじゃあ出発だ!」
「おう!」
俺の号令一下、一気に走り出す従魔達。
「いけ〜〜〜マックス〜〜〜!」
笑った俺の大声にワンと吠えたマックスがさらに加速する。
あまりの速さに、乗っている俺達は周囲の景色なんて見る余裕は全くない。
ひたすら手綱にしがみついて体を伏せていたら、本当にあっという間に目的地まで到着したよ。
ううん、ちょっと納得出来ないのは俺だけか?