今後の予定と俺の決心!
「よし、新たな目標が決まったのはいいけど、やっぱり、じゃあ具体的に何からするんだって話になるんだよな」
腕を組んだ俺の言葉に、ハスフェルとギイが苦笑いしつつ頷く。
「そうだなあ。やっぱりこうなると、まずはエルから頼まれた新人テイマー達の教育、だな」
「おう、俺もそう思うけど、具体的に何からすべきかって話だよなあ……ああそうか。別にいつもと同じでいいんだよな。一通りのテイムのやり方を説明した後は、テイマーや魔獣使いとして絶対に知っておいて欲しい、一日のテイム数の上限や、ご主人から捨てられた従魔がどうなるかって話。それから、テイムされた従魔達がどれだけ自分のご主人の事を好きかって話なんかをしてやればいいんだよな。それに、まだ祭り当日まで日数があるから、場合によっては新人達を引き連れて郊外へ行って、実際にテイムさせてみるのもいいかもな」
「ああ、それは良いかもしれんな。飛び地やカルーシュ山脈の奥地、地下洞窟のような特別な場所でなくても、ある程度の強さのジェムモンスターが出る場所ならハンプールの近郊には複数あるからな」
「さすがにそんな無茶はしないって。いきなり飛び地やカルーシュ山脈の奥地、地下洞窟には連れて行かないよ」
笑って顔の前で手を振った俺だったけど、しばし無言で考える。
あれ? ちょっと待てよ?
俺ってこの世界へ来て最初の頃に、ハスフェルにいきなり樹海へ連れて行かれてシリウスをテイムしたし、その後も割と実力以上に危険な目にばっかりあっている気がするんだけど……?
考え始めたらちょっと悲しい事になりそうだったので、とりあえず全部ふん縛って明後日の方向へ全力でぶん投げておいた。よし!
「あの、ケンさん……盛り上がっているところを悪いんだけど、話はそう簡単じゃあないんだよ」
それまで黙っていたマーサさんが、遠慮がちに右手を挙げて小さな声でそう言って俺を見た。
「ええ? 何が違うんですか? 要するに、まだテイマーな新人達を魔獣使いになれるように教育をするって話でしょう?」
首を傾げる俺を見たマーサさんとクーヘンが困ったように顔を見合わせる。
「まあ、それはそうなんだけどね。例の、従魔達に暴力を振るっているっていうマールの友人のテイマーがね……他のテイマー達が貴方から直接指導を受けるらしいって話をどこからか聞きつけたらしく、それなら自分も一緒に受けたいと、自分だけ仲間外れにするなと言い出したらしいんですよ」
「ええ、友達が魔獣使いなんだから、聞くならそっちに聞けよな」
思わずそう言った俺だったけど、その後不意にある事を思いついて無言になる。
「もしかして……あのマールやリンピオって野郎達から何か言われて、知っているのにわざと習いに来る可能性がある?」
「可能性がある、じゃあなくて間違いなくそうだろうね。もしかしたらケンさんの授業の邪魔をする気なのかもしれないよ」
嫌そうなマーサさんの言葉に絶句する。
「うわあ、マジかよ。またしても、災難の匂いがプンプンするんだけど……だけどこれって、どう考えても断れない案件だよな?」
若干ドン引きしつつハスフェル達を見ながらそう言うと、彼らだけでなくリナさん達やランドルさん達まで揃って苦笑いしながら頷いてる。ちょっと布団被って泣いてきてもいい?
「まあまあ、我々も協力しますから、そこまで問題にはならないと……思っておきましょう」
笑ったクーヘンの言葉に、これ以上ないくらいの大きなため息を吐いた俺だったよ。
「で、具体的にはいつから始めればいいんだ? エルさんの手紙には、その辺の事は全く書いていなかったよな?」
せっかく庭でバーベキューをしようって言っていたのに、いきなり明日からとか言われたら悲しいよな。
なんとなくそんな事を考えながらクーヘンにそう尋ねると、小さく頷いたクーヘンは俺を見て笑って首を振った。
「エルからは、とりあえず今日のところは、まずはケンさんや皆さんの返事を聞いてきて欲しいと言われました。協力いただけるのなら、ギルドが全面的にバックアップしますとの事なので、まあ、ああは言いましたがそれほど酷い事にはならないと思いますよ」
「そうか〜〜? どう考えても俺には揉め事が起こる未来しか見えないんだけどなあ」
もう完全に疑心暗鬼になっている俺の言葉に、クーヘンとマーサさんは困ったように苦笑いしている。
「しかもその問題の暴力野郎も参加するとなると、そもそもその講習をどこで開催するかって問題もあるよなあ。正直言ってその暴力野郎は、ここの屋敷にも庭にも絶対に入れたくないよ、俺」
真顔の俺の言葉に、全員が真顔で頷く。それを見て、同じく真顔のマーサさんが口を開いた。
「それは当然です。どれほど広くてもここはケンさんの自宅ですからそこまでしていただく必要はありませんよ。私の店が管理している街外れにある広い庭付きの空いた屋敷を一つ、ギルド名義で祭りまでの期間中貸し出す契約をしました。ですので、新人達への教育はそこでしていただく事になりますね。屋敷に泊まっていただく事も出来ますので、どうぞ好きに使ってください。ちなみに広い庭には水源となる泉が複数あります。そこから流れ出た水は、庭の端を小川になって流れて川へと繋がっていますから、クーヘンによると、従魔達がきっと喜ぶだろうとの事ですよ」
「おお、庭に泉が複数あって、川まで流れていっているんですか。そりゃあ確かに従魔達が喜びそうだ」
小さく拍手をした俺は、少し考えてマックス達を振り返った。
「ええと。主人である人間の指導というか……魔獣使いの心得的なのを教えるのは俺達がするから、その間に、そいつらが連れている従魔達にいろいろと教えてやってくれるか?」
俺の言葉に、寛ぎすぎてもふ塊になって固まっていた従魔達が一斉に起き上がった。
「もちろんです! どうぞお任せを!」
尻尾扇風機状態なマックスの言葉に、俺は笑って両手を広げてマックスに抱きついたのだった。
こんなにも愛しい、こんなにも全力で愛してくれる存在に暴力を振るうなんて絶対に許さない。
何があっても、その腐った性根を絶対に叩き直してやる!
もう一度力いっぱいマックスを抱きしめながら、割と本気でそう誓った俺だったよ。