魔獣使いとしての誇り
「確かに、どうするかって話だよなあ」
全員読み終えて、手元に戻ってきたギルドマスターからの手紙を改めて読み直してから、顔を上げた俺はそう呟いて豪華な天井を見上げた。
ギルドマスターであるエルさんからの手紙に書かれていたのは、彼の予想以上に増えた新たな魔獣使いについての相談だった。
俺達がハンプールの街へ到着した時点で、先に到着していた魔獣使いはあのネージュの元飼い主の乱暴者達だけだった。
あいつら何て名前だったっけ……ああそうそう、マールだ。でもってマールに譲ってもらった黒い狼に乗っていた方が、リンピオ。
その彼ら以外に、俺達がこの別荘へ避難して以降にまた新たなテイマーが複数現れているらしい。
まず、真っ白なオオカミに乗ったテイマーの男性で、上位冒険者でもあるアルクスって人物。
騎獣であるオオカミ以外に、黄色の羽色のインコを一羽とスライムを一匹だけ連れているテイマーらしく、ソロで早駆け祭りに参加申し込みをしたんだって。
それは恐らく、俺達がハンプールへ来る途中に見かけた真っ白な狼に乗っていた人で間違いないだろう。
なんでもそのアルクスさんは、戦闘中に乱入してきたスライムを邪魔だからと槍の柄で叩き落として、偶然テイムした事でテイマーとなったらしい。
人懐っこく彼の後をついて来るスライムに最初は意味が分からず驚いたらしいが、冷静にその時の状況を思い出して、恐らく叩きのめして確保した事でテイム出来たのだろうと考え受け入れたらしい。
その後、試しにと近くにいたインコのジェムモンスターを捕まえてテイムしたところ上手くいって、自力でテイムの仕方を理解した人物らしい。
元々ソロの上位冒険者でかなり腕も立った彼は、その後に従魔達の協力もあってシンリンオオカミのジェムモンスターをテイムしたんだって。
だけどそのあとは何故か何度やっても上手くテイムが出来ず、結局従魔三匹だけを連れて今回の早駆け祭りに参加する為にハンプールへ来たらしい。
それでもって、エルさんに最強の魔獣使いと名高い俺を紹介して欲しいって頼んで来たんだって。
要するに、魔獣使いになるにはどうすればいいのか。もっと効率的にテイムする方法があるのなら、必要ならば対価を払うので是非ともご教授願いたいとの事らしい。
そして彼だけでなく、そんな感じで新たにテイマーとなった人が他にも複数いるらしく、エルさんに、出来ればテイマー達に新人教育をしてもらえないかと頼まれたんだよ。
ちなみに、今ではハンプールの街のギルド連合の役員もしているクーヘンも、俺と同じく新人テイマーの教育協力の声がかかっているらしく、それを相談する意味もあってクーヘンがこの手紙を届けにきたんだって。
「ええ、クーヘンがやってくれればいいのに」
笑った俺の言葉に、クーヘンは慌てたように顔の前で必死になって手を振っている。
「まさか、私ごときが新人に何を教えるって言うんですか。ここは、これだけ多くの弟子を持ち最強の魔獣使いと名高いケンさんがするべきでしょう?」
「大丈夫だって、クーヘンにも出来るよ。実際俺だって、教えたのは簡単なテイムのやり方くらいで、大した事はしていないよ。魔獣使いになれるように頑張ったのは皆の方なんだからさ」
笑った俺の言葉に、何故か全員が呆れたみたいに俺を見て揃って苦笑いしている。
「大した事はしていない? まあ……本人がそうおっしゃるのなら、きっとそうなんでしょうね」
苦笑いするボルヴィスさんの言葉に、ランドルさんも隣でうんうんと頷いている。
リナさんとアーケル君も同じく呆れたみたいに俺を見て、顔を見合わせてから二人揃って肩をすくめていた。
ええ? 俺、実際そんな大した事はしてないと思うんだけどなあ?
ちなみに、エルさんの手紙によると、他にはウサギのジェムモンスターとスライムを連れた、冒険者としてもテイマーとしても初心者のまだ十代の少年と、インコ系のジェムモンスターばかりを六羽とエミューのジェムモンスターを連れた魔獣使いの冒険者の同じく十代の少年もいるらしい。彼らは、それぞれウサギとエミューの従魔で早駆け祭りにチームで参加申し込みをしたらしい。
だけど、どちらもまだ従魔達との会話や意思の疎通が上手く出来ないらしく、彼らも、出来れば俺に教えを乞いたいと言ってくれているらしい。マジか。
それから、例の暴力主人のマールのところにあと一人、彼の友人らしいテイマーが来ているんだって。そいつはキツネとウサギ、それからトカゲのジェムモンスターを連れているらしい。
そいつはキツネの従魔に乗っていて、チーム戦には参加せずにソロで早駆け祭りに参加申し込みをしたんだって。
だけどそいつもマールと同じく自分の従魔に暴力的らしく、従魔を怒鳴りつけたり蹴飛ばしたり殴ったりしているのを街の人達に複数目撃されていて、冒険者ギルド内部でも密かな問題になっているらしい。
「まあ、確かに冒険者の中には暴力的な奴もいるのは否定しない。チーム仲間同士で意見が分かれて暴力沙汰になるよう事は珍しくない。それだけでなくソロで活動している奴の中には女子供に暴力を振るうような奴もいる。だから、ソロの迂闊な奴とよく知らずにチームを組んだりすると、酷い目にあう事もあるんだ」
嫌そうなハスフェルの言葉に、ギイとランドルさん達も困ったように頷き合っている。
「アーケル君とバイゼンの空樽亭のお店のご主人みたいに、双方納得の上での拳での語り合いや、仲間内で喧嘩するのなら好きにしろって感じだけど、明らかに力の差がある女性や子供に暴力を振るったり、ご主人の事が大好きで離れられない従魔に対して、一方的な暴力を振るうのは絶対に間違っているよ。それは絶対に許せない」
俺の呟きに、全員が真顔で頷く。
「今回は、新しい魔獣使いの存在意義をかけた戦いになりそうだな。何があろうと。あのマールって奴やその仲間達には絶対に負けられないぞ」
真顔のハスフェルの言葉に、全員が真顔で頷く。
よし、平和に参加出来そうな今回の早駆け祭りに目標が出来たぞ。
魔獣使いとしての誇りにかけて、初心者テイマーや初心者魔獣使い達への教育と、暴力テイマー共を叩きのめしてその性根を叩き直してやる!