ギルドマスターからの手紙
「じゃあ、俺は全種類一口ずついただくから、あとは全部どうぞ」
そう言って、全種類取ったケーキのお皿から、先の方をそれぞれ5センチずつくらい切って別のお皿に並べた俺は、お皿を手にして高速ステップを踏んでいるシャムエル様の前に置いた。
一瞬で持っていたお皿が消える。
「ふおお〜〜こんなにもらって良いの?」
キラッキラに目を輝かせたシャムエル様の言葉に、苦笑いして頷く俺。
「じゃあ……これあげるね。ケンは栗が大好きだもんね」
そう言ったシャムエル様が、何と栗のタルトからちょうど断面に見えていた栗の甘露煮を丸ごと一粒引っ張り出してきて、俺のお皿に置いてくれた。
「いいのか?」
「もちろん! じゃあこれも一つね」
そう言って、イチゴのタルトからも半分サイズにカットされたイチゴを一つ持ってきて甘露煮の横に並べてくれた。
「ありがとうな。じゃあ遠慮なくいただきます」
これが本当の神様からのお裾分けだな。
小さく笑ってシャムエル様のもふもふ尻尾をこっそりと撫でた俺は、手にしたフォークでまずはいただいた甘露煮を突き刺して口に入れた。
「おお、大粒の栗ってどうしてこんなに美味しいんだろうなあ」
うっとりとそう呟き、栗のタルトも続いて食べてみる。
「ううん、これまた美味しい。これはちょっとどこのお店か聞いて、買い置き用に買ってきてもらってもいいかも」
口の中に広がる濃厚な栗の甘味とバターの香りを味わいながら、俺は思わずそう呟く。
「是非、買い置きをお願いします!」
チョコレートのタルトを食べている、いつもの三倍尻尾になったシャムエル様の言葉に笑って頷く。
「確かにこれは、どれもまとめ買いしておきたいレベルだな。あとでクーヘンに頼んでおくよ」
チョコレートケーキも一口食べてその美味しさに感激した俺は、もう一回シャムエル様のもふもふ尻尾をこっそりと撫でつつ紅茶をゆっくりと飲んだ。
「ううん、高級ケーキと紅茶ってのもいい組み合わせだなあ」
久々の紅茶の香りも楽しみつつ、のんびりと差し入れのケーキを美味しくいただいたよ。
ちなみに、全員が全種類取って余った残りは、誰がどれを取るかがかなり重要な問題だったらしく、相談の結果俺以外の全員参加であみだくじを作って引き、一番から順番に好きなのを一つずつ取るって事で解決したみたいだ。
ここにいる仲間達は皆、お酒が好きだけど甘いものも大好きなんだよなあ。
酒飲みって辛党の人が多いから、なんとなく甘いものは苦手な人が多いイメージなんだけど、こっちの人はお酒も甘いものも好きって人が多いみたいだ。
「で、込み入った話って何なんだ?」
皆ケーキを食べ終えて、おかわりの紅茶をギイが淹れてくれたところで、俺は気になっていた事をクーヘンに質問した。
「はい、ギルドマスターから預かってきましたので、お渡ししますね。まずこれを読んでください」
クーヘンがそう言って、収納袋から一通の手紙を取り出して差し出した。
「改まって何事だ?」
ギルドの紋章入りの立派なそれを受け取り、蝋で封印された封筒を見て少し考えて、取り出したナイフで封を切って手紙を取り出した。
流暢な文字で書かれたその内容を黙読した俺は、読み終えたところで大きなため息を吐いた。
「そうきたか! 成る程、確かに俺的にはかなり大変かも」
心配そうにこっちを見ていたハスフェルと目が合って苦笑いした俺は、そう呟いて手にしていた手紙を差し出した。
「どうぞ。読んでくれていいぞ。でもって皆の意見を聞きたい」
「あ、ああ。じゃあ読ませてもらうよ」
一瞬驚いたような顔をしたハスフェルが手紙を受け取り、左右からギイとオンハルトの爺さんも身を乗り出すみたいにして手紙を覗き込んで一緒に読み始めた。
無言で手紙を読んでいるハスフェル達を横目に見ながら大きなため息を吐く。
「一体何事ですか? 俺達にお手伝い出来る事があれば、どうぞ遠慮なく言ってください」
真顔のランドルさんの言葉に、リナさん一家とボルヴィスさんも揃って真顔で俺を見つめている。
皆が俺を心配してくれているのが分かって、思わず笑顔になる。
「うん、ありがとうな。ハスフェル達が読み終わったら、皆さんも読んでください。でもって意見を聞かせてほしい。特に魔獣使いの皆さんに!」
その時、手紙を読み終えたハスフェル達が顔を上げて手紙を一番近くに座っていたアルデアさんに渡した。受け取ったアルデアさんが隣に座っていたリナさんに手紙を渡す。
リナさんは受け取った手紙をテーブルの上に広げて置き、アーケル君達は立ち上がってリナさんとアルデアさんの左右に立って手紙を覗き込んだ。そしてランドルさんとボルヴィスさんも立ち上がってリナさん達の背後から手紙を覗き込んだ。
成る程。こうすれば小柄な草原エルフ一家と大柄なランドルさんとボルヴィスさんなら、一度に皆で一緒に手紙を読めるわけか。
密かに感心していると、苦笑いしたハスフェル達が俺を見てから部屋の隅にもふ塊になって寝ている従魔達を見た。
「確かに、これはケンに相談したくなる案件だなあ。どうする?」
「もちろん力になるよ。まあ、俺に何が出来るかなんて分からないけどさあ」
即座に答えると、ハスフェル達は顔を見合わせてから揃って俺を見た。
「いや、お前がそう言うのは当然分かっていたさ。もちろん俺達も力になる。ランドル達だってリナさん達だって同じ気持ちだろうさ。で、具体的にどうするのかって話だよ」
「ああ、そっちか」
俺のする事に、当たり前のように協力してくれると言ってくれた彼らに感謝しつつリナさん達を見ると、どうやら全員読み終わっていたらしく、こっちを見た全員が今度は笑顔で揃って頷いてくれた。
「もちろん、なんでも協力しますよ。我々は皆、世界最強の魔獣使いである貴方に助けてもらった弟子ですからね」
笑顔のリナさんの言葉に、俺も笑顔で頷く。
「はい、よろしくお願いします! じゃあ早駆け祭りの前にまず、全員講師役になってもらって、ここで魔獣使い養成講座でも開くか」
困ったような俺の言葉に、全員揃って吹き出したのだった。
いや、マジでこの相談内容を解決しようとしたら、嫌でもそうなる気がするんだけどなあ……。