懐かしい味
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜っじみ! ジャカジャカジャン!」
確保してあったキャラメリゼした焼きバナナの横で、またしても味見ダンスを踊り始めるシャムエル様。
当然ながら手には大きなお皿があって、隣にすっ飛んできたカリディアもお皿を手に完コピで踊り始めている。
時折正反対の動きをしたりしながら、最後は完璧に同じポーズでのキメポーズだ。
「お見事〜〜〜」
笑って拍手をしてやりつつ、カリディア、君には神聖なダンスに見えているのかもしれないけど、それは単に食欲にまみれた自己主張ダンス以外の何者でもないんだぞ。と、脳内で力一杯突っ込んでおく。
それをうっかり口に出さないようにグッと飲み込んでから、カリディアにはいつもの激うまブドウを一粒渡してやる。
「もう、どれがいるかとは聞かないよ。どうせ全種類欲しいんだろう?」
呆れたような俺の言葉に、首がもげそうな勢いで何度も頷くシャムエル様。
「はいはい、ちょっと待ってくれよな」
予想通りの反応に苦笑いした俺は、四種類のフレンチトーストのお皿を並べてから、キャラメリゼした焼きバナナを適当にお箸で取って盛り付けてやる。
アイスは参加する間もなく駆逐されてしまったので、少し考えて作り置きの生クリームを取り出してスプーンですくって横に一塊ずつ落としてやる。
それに気付いたアーケル君達が目を輝かせてこっちを見ているのに気がついた俺は、無言でスプーンごと生クリームの入ったボウルを渡したよ。まあ、生クリームはまだたくさん買ってあるから、あとでまた作り置きしておこう。
スライム達が用意してくれたいつもの簡易祭壇に焼きバナナと生クリーム添えのフレンチトーストのお皿全種類を並べ、マイカップにはコーヒーを入れ、もう一つ取り出したマグカップには冷やしたミルクも入れておく。
フレンチトーストの時って、なぜかミルクが飲みたくなるんだよな。
「ええ、お待たせいたしました。新作お菓子のフレンチトーストです。食パンとディニッシュ食パン、それから胡桃パンとレーズンパンの四種類で作ってみました。甘くてふわふわなので、きっとシルヴァ達は大好きだと思うよ。少しですがどうぞ」
手を合わせて目を閉じて、小さな声でそう呟く。
これって、側で見ていたら真剣に祈っているみたいに見えるんだろうな。
なんて事を考えているといつもの頭を撫でられる感触があったので目を開くと、現れた収めの手が俺を何度も撫でてくれてから、そりゃあもう嬉々としてフレンチトーストと焼きバナナを撫で回してから順番にお皿を持ち上げていき、最後にコーヒーとミルクの入ったカップを撫でてから持ち上げて消えていった。
「めちゃ喜んでいたね」
笑ったシャムエル様の声が聞こえて、全く同じ考えだった俺も笑いながら頷いたのだった。
「そうだな。確かにめっちゃ喜んでいたっぽい。じゃあ、俺の分を先に取るからちょっと待ってくれよな」
シャムエル様が振り回していた大きめのお皿を受け取った俺は、そこにフレンチトースト四種類をそれぞれ二切れずつ取り、キャラメリゼした焼きバナナも一切れだけ取り分ける。
「俺はこれだけあれば充分だから、あとは全部進呈しますのでどうぞ。あ、飲み物はどうする?」
「両方ともください!」
当然のように二つ出てきた蕎麦ちょこに、コーヒーとミルクを入れてやる。
うん、半分以下になったから、食べる前にもう一回先に入れてこよう。
苦笑いして席を立ち、改めてコーヒーとミルクを入れてから席に戻ると、シャムエル様が食べずに待っていてくれた。
「ああ、ごめんごめん。ではどうぞ」
慌ててそう言ってやると、笑って頷いたシャムエル様はおもむろに立ち上がった。
「では、いっただっきま〜〜〜〜す!」
宣言と同時に、並んだお皿の一番手前側にあったディニッシュ食パンのフレンチトーストに頭から突っ込んでいった。
相変わらず豪快だねえ。
「ふおお〜〜〜〜〜! なにこれ、なにこれ! ふわふわで甘い! フレンチトースト最高〜〜〜!」
興奮のあまり尻尾三倍サイズになったシャムエル様が、ちっこい両手……じゃなくて両前脚で掴んだそれをものすごい勢いで齧り始める。
「気に入ってくれたみたいだな」
歓喜のシャムエル様の様子を見て笑いながら小さな声でそう呟いた俺は、もふもふの尻尾をこっそりと突いたり撫でたりしながら、のんびりと、記憶にあるのと同じ懐かしい味を楽しんだのだった。