新作おやつは大好評!
「よし、これで最後だ。ううん、このディニッシュパンで作ったフレンチトーストも絶対美味しいやつだよな」
フライ返しを使って最後の一つをひっくり返しながら、ツヤツヤに焼けた面を見て思わずそう呟く。
キッチンはもう甘い香りが充満している。一応、換気用の窓は開けているんだけど、風が無いのかあまり効果はないみたいだ。
「ご主人、お皿をどうぞ〜〜」
そろそろいい感じに焼けてきたところで、タイミングよくサクラが新しいお皿を取り出して渡してくれる。
いつもながらグッジョブだよ。
「おう、ありがとうな。さてと、そろそろあいつらを呼んでやるか」
焼き上がった最後の一つをお皿に盛り付けてサクラに預けた俺は、小さくそう呟いて念話でハスフェル達を呼んだ。
『おおい、そろそろ準備出来たけど、そっちはどんな感じだ?』
『悪い! 今模擬戦中だ!』
ハスフェルの半ば叫ぶような返事に驚いていると、それだけ言って一方的に断ち切られた。
電話ならガチャ切り状態。
「あはは、模擬戦中だったか。そりゃあ申し訳ない事したな。でもまあ、この念話は携帯の電話と同じで、かける時の相手の様子までは分からないから仕方ないって」
苦笑いしながらそう呟き、もうすっかり綺麗になっているキッチンを見回してからこっちを見ているドヤ顔のスライム達を順番に撫でてやり、とりあえずリビングへ出る。
俺の後についてきたスライム達を順番におにぎりにしてやりながら、とりあえず空いたソファーに座る。
しばらくスライム達をモミモミして和んでいると、不意に頭の中にトークルームが全開になるのが分かった。
『さっきは悪かったな』
苦笑いするハスフェルの声が届いて、俺も苦笑いしながら首を振る。
『気にしないでいいよ。それで模擬戦はもう終わったのか?』
『おう、ギイと手合わせした後にアーケルと木剣で対決していたんだ。今はオンハルトがアーケル達に、俺のような体の大きいやつに小柄な彼らが襲われた際の具体的な防御の仕方を実技を交えながら伝授しているところだ』
確かに、人間の十代前半の子供くらいの身長と体格しかない彼らが人間の成人男性に襲われたら、普通なら一方的に襲われて終わりだろう。
まあ、彼らの場合は術が使えるから大柄な相手であってもそうそう一方的に蹂躙されるような事態にはならないだろうけど、不意打ちなんかで咄嗟に術で対抗出来ない可能性だってあるから、なんであれ知っておくに越した事はないよな。
『成る程、そりゃあ大事な事だな。じゃあ、おやつの準備は出来ているから、そっちが一段落したらリビング集合でよろしく!』
『おう了解だ』
『楽しみにしてるよ』
笑ったハスフェルとギイの声が聞こえた後、トークルームが閉じて静かになる。
「さてと、それじゃああとは何をしておくかなあ……」
無言になった俺は、不意に思いついてにんまりと笑っていそいそとキッチンへ戻った。
「やっぱりフレンチトーストに添えるならこれだよな。これも店長が賄いでよく作ってくれたやつだ。サクラ、バナナってまだあったっけ?」
「あるよ〜〜どれにしますか?」
即座に跳ね飛んできてくれたサクラが、バナナを房ごといくつか取り出してくれる。
「よく熟れていそうな……これにするか」
全体に黒っぽくなった一番熟れていそうなバナナをまとめて手に取り、まずはスライム達にお願いして全部皮を剥いて筋も取ってもらう。
「全部こんなふうにスライスしてくれるか」
一本だけ取り、輪切りではなく縦に五ミリくらいに薄くスライスして見せて、あとはやってもらう。
一番大きなフライパンを二つ並べて火にかけ、たっぷりのバターを落として焦がさないように溶かす。
「じゃあ、ここに切ったバナナを並べていくぞ」
小さくそう呟いて、薄切りにしてもらった細長いバナナを並べていく。
そして軽く両面を焼いたところで全体に砂糖を振りかけていく。バナナの水分のせいですぐに砂糖が溶けて、フライパンに落ちた砂糖がパチパチと焦げ始める。
「ここでもう一回ひっ繰り返して、こっち側にもお砂糖っと」
もう一度お砂糖をふりかけ、あとは弱火で砂糖が溶けるまで焼いていく。
最後にもう一度ひっくり返して全体を満遍なく焼けば、焼きバナナのキャラメリゼの完成だ!
焦茶色に焦げた柔らかくなったバナナを、フライ返しを使ってお皿に適当に取り分ける。
一応自分用とシャムエル様用には先に確保しておく。
その時、タイミングよく足音がして皆がリビングに入ってきた。
「うわあ、なんか甘い匂いがする〜〜!」
「本当だ。何を作ってくださったんですか〜〜?」
目を輝かせたアーケル君達が、そう言いながらキッチンを覗き込んでくる。
「おう、きっと喜んでもらえると思うぞ。頑張ってたくさん作ったからしっかり食べてくれよな」
ドヤ顔でそう言ってやると、全員揃っての拍手大喝采になったよ。
って事でそのまま一緒にリビングへ戻ると、一緒についてきていた従魔達は、また部屋の隅で巨大なもふ塊になっていたよ。
あそこに飛び込みたい気持ちをグッと我慢して、まずはドリンクを取り出す。ホットコーヒーと牛乳、激うまジュースをはじめとしたジュース色々。
「じゃあ説明するぞ〜〜!」
席について目を輝かせてこっちを見ている全員に笑顔で頷き、まずは普通のフレンチトーストを一皿取り出す。
これだけでも、四枚切りサイズの食パン二枚分は余裕であるよ。
当然のようにそれを見て満面の笑みで拍手する一同。小学生か!
「これはフレンチトーストって言って、甘くてふわふわなお菓子です。パンの種類があって、普通の食パンとディニッシュ食パン、それから胡桃入りのパンとレーズンパンの四種類だよ。柔らかくて崩れやすいので、一皿単位で取ってください。蜂蜜をかけるともっと美味しくなります。それからこっちは一緒に添えて食べると美味しい、キャラメリゼしたバナナ。要するにお砂糖と一緒にバナナを焼いたものだよ。これも柔らかいから、取る時は崩さないように気をつけてな。アイスクリームもあるので一緒に欲しい人はどうぞ! 以上! では、あとは好きに食え!」
説明しながら在庫分をありったけ種類別に取り出して並べる。焼きたての熱々なのも良いけど、冷めても美味しいのがフレンチトーストなんだよな。
先に自分用とシャムエル様用は確保しておき、笑顔で言った俺の最後の一言と同時に全員が返事をして立ち上がり、嬉々として当然のように全種類のお皿を取っていく一同。
キャラメリゼしたバナナも、少し残っていたアイスも一瞬で駆逐されたよ。
もしかしてこれでも足りなかったかも……次に作るなら卵百個レベルだな……。