フレンチトーストを作るぞ〜〜〜!
「さて、どれくらい作ればいいんだろうね?」
小さくため息を吐き、俺がお願いした道具と材料をせっせと取り出すサクラを見ながら小さくそう呟く。
「全部で十一人だもんなあ。卵は一人五個は多いかな?」
今から作る量を考えつつ少し考えて、まあいいかと呟く。
「牛乳も足すんだから五十個くらいあればいくらなんでも足りるだろう。じゃあ、誰かここに卵を五十個割って溶いておいてくれるか」
「はあい、やりま〜〜す!」
即座に返事をして小鉢を取り出したアルファとベータとゼータが、嬉々として卵を割り始める。
「それから、こっちの食パン二本と、ディニッシュ食パンを二本、こっちのレーズンパンと胡桃パンも全部、それぞれ、これくらいの一口サイズに切ってくれるか」
そう言いながら全種類少しだけ切って見本を見せて、あとは嬉々として集まってきたスライム達に任せる。
ちなみに食パンとディニッシュ食パンはそれぞれ一本が三斤分だから、これだけでもかなりの量だ。
レーズンパンと胡桃パンもそれぞれ同じくらい用意したから、いくらなんでも足りるだろう……多分。
「じゃあ、俺はたまご液を作るか」
アルファ達が作ってくれた卵五十個分入った一番大きなボウルを受け取り、手にしたのは砂糖と蜂蜜だ。
そう。今から作るのは、ずばりフレンチトースト。
食パンが余った時なんかには自分でも作っていたし、たまに定食屋の店長が賄いで作ってくれたんだよ。
「あの店長が作ってくれたフレンチトーストは、俺の適当に作ったのと違って本当に美味しかったんだよな。で、お願いして作り方を教えてもらったんだっけ」
小さく笑ってそう呟き、まずは砂糖をガンガン入れていく。カロリー計算をしてはいけない。これは十一人分なんだから!
まあ、十一分の一の量でも相当だと思うけどそこは突っ込んではいけないところだ。
「美味しければそれでいいって!」
自分に言い聞かせるようにしてさらに蜂蜜をたっぷりと追加する。
大きめのスプーンでせっせと混ぜて、砂糖と蜂蜜を溶かしていく。
「よし、味は……うん、もうちょい砂糖と蜂蜜だな」
かなり入れたつもりだったんだけど、案外甘くなくて更に追加してからかき混ぜ、ここで用意していた牛乳をたまご液にガンガンと加えながら泡立て器でかき混ぜる。
「もうちょい牛乳を入れて、とろみはこれくらいでよし。味は……うん、薄くなったからさらに砂糖と蜂蜜だな」
もう一度味見をして無言になった俺は、少し考えてから更に砂糖と蜂蜜を追加する。
カロリー計算をしてはいけない! これはおやつだから、美味しければいいんだ!
「でもまあ、油分がほとんど無いから、パウンドケーキよりはマシだよな」
小さく笑ってそう呟き、一応納得した事にしておく。
なんとなく比較対象が間違っている気もするが、美味しければまあいいかと突っ込みを放棄したよ。
甘いたまご液が大量に出来たところで、大きなバットにさっき切ってもらったパン各種をバットごとに分けて並べ、たまご液をオタマですくいながら回しかけていく。半分くらいたまご液が残ったけど、一旦そのまま置いておく。
「じゃあこれ、とりあえず半日くらい時間経過をお願い出来るか」
カットしたパンとたっぷりのたまご液の入ったバットをスライム達に渡し、手分けして時間経過をしてもらう。
「あれ? ねえご主人、まだ途中だけどたまご液が全部無くなっちゃったよ?」
アルファの困ったような声に振り返った俺は残っているたまご液の入ったボウルを手にした。
「おう、やっぱりちょっと足りなかったか。じゃあたまご液を追加するから一旦出してくれるか」
「はあい。じゃあ、お願いします」
アルファがそう言って収納していたバットを取り出すのを見て、時間経過を担当していた他の子達も次々にたまご液の無くなったバットを取り出して並べる。
「じゃあ、入れていきま〜〜す」
お玉を片手に笑ってそう言った俺は、並んだバットにせっせとたまご液を回しかけていったのだった。
「よし、じゃあ焼いていくか」
ありったけのたまご液を入れ終えて、残り時間分の経過を再開したスライム達を見て、俺はキッチンにある三つのコンロに一番大きなサイズのフライパンを並べた。
「まずはここにバターを一塊入れて溶かすぞ」
時間経過はもう少しかかるみたいなので、その間に焼く準備をしておく。
バターは焦がさない方がいいので、順番に一つずつ中火くらいで溶かしていくよ。
「ご主人、そろそろ出来上がりま〜す」
ちょうど最後の一つを火にかけているところで、アルファの声が聞こえて笑顔になる。
「はいどうぞ!」
渡されたパンは、中までたまご液がしっかり染みていい感じだ。
「よし、タイミングバッチリだな。じゃあ順番に焼いていくから出してくれるか」
焼くのだけはスライム達には頼めない。俺がしないと駄目なので、順番に準備が出来たバットを受け取ってはフライパンに種類別に並べて火にかけていく。
まずは中火くらいで焼いていき、パチパチいい始めたら弱火にして蓋をしてじっくり蒸し焼きにしていく。
ここで焦ってパンを突っつくと柔らかくなっているパンはすぐに崩れてぐちゃぐちゃになってしまうから、我慢だ。
「そろそろかな?」
蓋を開けていい感じになってきたパンをフライ返しとお箸を使ってひっくり返す。
「おお、いい感じに焼けてきたな。じゃあ残りも返していくぞ」
ここで失敗して崩してしまっては元も子もない。
弱火にして焦がさないように気を付けながら、せっせとひっくり返していく。
もう一度蓋をしてまたじっくり火を通し、両面がしっかり焼けたところでお皿に取り分けていく。
「さすがに全部は多いとは思うけど、とりあえずありったけ焼いておくか。あいつらなら絶対あるだけ食いそうだもんな」
レーズンパンバージョンを焼きながら、笑って小さくそう呟く。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜っじみ! ジャカジャカジャン!」
久々の正統派味見ダンスなシャムエル様は、両手で大きなお皿を持って高速ステップを踏んでいる。
そして当然のように、同じようにお皿を手にして完コピで踊り始めるカリディア。ええと、そのお皿はどこから持ってきたんだ?
内心で突っ込みつつ、笑ってスルーしておく。
うん、シャムエル様のカロリー消費の為にも、もうちょっと踊らせておくか。
小さく笑って、次のレーズンパンをそっとひっくり返した俺だったよ。