二日続けて寝落ちした朝
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
「おおい、生きてるか〜〜〜?」
いつものシャムエル様とカリディアの小さな手で額を叩かれるのを感じて、プカリと意識が覚醒する。
その直後に、笑ったハスフェルの声が聞こえて彼の大きな手で頬を軽く叩かれる。
「痛いって……起きてるよ……」
まだ目は開かないものの、呻き声を上げながらそう言ってハスフェルの腕を叩き返す。
「おお、生きていたな」
「吹っ飛ばされてそのまま沈黙するから、本気で死んだかと思ったぞ」
「まあ、従魔達がそれほど慌てておらなんだから、俺は心配はしていなかったけれどなあ」
ハスフェルとギイの笑った声に、オンハルトの爺さんの声が重なる。
「お前ら〜〜またやってくれたな〜〜〜〜!」
ようやく状況を理解して、俺も笑うしかない。
どうやら思いっきり噛まれた後に鳩尾に一撃くらって吹っ飛ばされて、そのまま気絶したみたいだ。
笑いながら、とりあえず一番近くにいたネージュとファルコを両手を広げてまとめて捕まえてやる。
「捕まったよ〜〜〜」
「うわあ、誰か助けて〜〜」
完全に棒読みな二羽の悲鳴に、従魔達が揃って笑っている。
「はあ、ニニとはまた違ったふわふわだなあ。ううん、これも良きかな……」
羽毛特有のふわふわに顔を埋めた俺は、そのまままた眠りの海へ墜落しそうになったところを、強引に襟首を引っ掴んで引き戻された。
「ぐぇ! 苦しいって!」
慌てて捕まえていたネージュとファルコを離し、窒息しないように襟元を引っ張り返す。
「だから、いい加減に起きろって。もう昼近いぞ」
俺の襟を引っ張って起こしたのはハスフェルだったらしく、今度は頭を軽く叩かれてそう言われた。
「うん、だから起きてるって言ってるのに」
笑いながら何とか目を開けて起き上がり、思いっきり腕を上げて伸びをする。
「あはは、昨日に引き続きまた全員揃って寝落ちかよ」
部屋を見回して笑った俺の言葉通り、全員起きてはいるもののリナさん一家とランドルさんとボルヴィスさんはまだスライムベッドの上でお寛ぎ中だ。
「ケンさ〜〜ん、腹減りました〜〜〜!」
笑って手を振るアーケル君の言葉に、あちこちから同意する声が聞こえる。
「おう、確かに俺も腹が減ってるなあ。ええと、昨日はお粥と雑炊と味噌汁だったんだよな。じゃあ今朝は……うどんでも作るか。屋台で買ったおあげさんがあるからたっぷりのお出汁できつねうどんを作って、あとは玉子とワカメくらいあれば、多分何とかなるだろう。あいつらなら、天ぷらじゃあなくてトンカツでもうどんに入れそうだけどさ」
小さく笑ってそう呟き、リビングと続きになったキッチンを見てからアーケル君達を振り返る。
「今朝はうどんを作るよ。温めるだけだから、すぐに出来るからちょっと待っててくれよな」
手を上げてそう言い、跳ね飛んできてくれたスライム達と一緒にキッチンに向かった。
「あいつらなら、これくらいは必要だろうなあ」
サクラに取り出してもらった一番大きな寸胴鍋に入っているのは、屋台でまとめて買ったうどん用のお出汁だ。
これは、煮物なんかにも使えるし、うどんは鍋の締めにも使えるから、かなりまとめて買ったんだよ。なのでまだまだ在庫はあるので遠慮なく使う。まあ、無くなったらその時は自分で出汁を取って一から作るよ。
並べた、一番大きな土鍋にお玉でお出汁を取り分けて火にかける。
「十一人いるんだからうどんは二十玉あれば……絶対に足りないな。三十玉にしよう」
サクラが出してくれたうどん玉が並んだ木箱を見て、少し考えて三十玉分を取り、六個並べた土鍋に、各五玉ずつのうどんを少しほぐしながら落としていく。
これはコシのあるしっかりした美味しい手打ちうどんなんだけど、先に一度茹でてから水洗いまでしてくれてあるので、煮立ったお出汁にそのまま入れて軽く温めればいいだけだから簡単簡単。
生の手打ちうどんもうどんの屋台で沢山買ってあるけど、こっちは10分以上茹でてからしっかり水洗いしないといけないから、大人数分を用意するのは結構大変なんだよ。
「じゃあ、きつねうどんはこっちの土鍋二個で作って、こっちの二個はワカメと溶き卵。あとは……あ、牛肉を甘辛く煮たのがあるから、これで肉うどんも出来るな。よし、じゃあ残り二個はそれでいこう。サクラ、刻んだネギも出しておいてくれるか」
「はあい、これだね」
鞄に入ったサクラが、作り置きしてある大量の刻みネギの入った大きなお椀を取り出してくれる。
「これ、完全に業務用サイズだよなあ」
バイトしていたトンカツ屋と定食屋の厨房にあった、金属製の刻みネギが入った蓋付きの器を思い出しつつ小さくそう呟く。
「そうだ。今度、カデリーの街の業務用スーパーに行ったらガーナさんに聞いてみよう。あそこなら似た道具が何かありそうだもんな」
もふもふ従魔達に揉みくちゃにされて歓喜の叫びを上げていた業務用スーパーの店員であるガーナさんの顔を思い出して、笑いながらそう呟く。
「おっと、土鍋が煮えたぎってるぞ〜〜」
慌ててコンロの火を止めて一旦蓋をしてから自分で収納しておく。
「じゃあ戻ろうか。腹減り小僧達が暴れ出す前にさ」
スライム達が入った鞄を手にリビングへ戻る。
「お待たせ〜〜〜出すぞ〜〜〜!」
拍手で迎えられてドヤ顔でそう言い、順番に土鍋を取り出していく。
ちなみに熱々の鍋なんかを取り出す時は、取り出したミトンタイプの鍋つかみを先に手にはめてから鞄に手を突っ込んでるよ。そりゃあ、さすがに素手で煮えたぎっていた鍋を掴む勇気は俺にはないって。
足りるだろうと思って全部で三十玉用意したうどん各種だったけど、瞬殺だった事は言うまでもない。
お前ら、二日酔いなんじゃあなかったのか? うん、次は四十玉作ろう……。