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レシピゲットしました!

「如何でしたか? お口にあいましたか?」

 帰ろうとしたところで、奥から白い服を来たこれまた大柄な男性が出て来た。

「おお、相変わらず最高だったよ。ご馳走さん」

 ハスフェルの言葉に、その人は嬉しそうな笑顔になった。

「ああケン、紹介しよう。今日の料理を作ってくれた俺の友人のマギラスだよ。マギラス、彼は俺の古い知り合いを通じて仲間になったケン。腕の良い魔獣使いで、俺やギイの騎獣もテイムしてもらったんだ」

「はじめまして、マギラスです。ハスフェル達の友人ならいつでも大歓迎ですよ。どうぞ気軽に立ち寄ってやってください」

「凄く美味しかったです。是非また来させてもらいます」

 しっかりと握手を交わして、マギラスさんは笑顔で俺を見た。

「皆が大騒ぎしていましたよ。すごい魔獣使いが来たってね。噂で、ヘルハウンドの亜種の魔獣や、レッドリンクスの亜種の魔獣だけでなく。恐竜を複数テイムしてるって聞いて、何の冗談だと思っていたのに、まさか、その噂のご本人が来てくれるなんてな」

「まあ、あちこちで怖がられたり、武器を向けられたりしてますけど、今の所、一応何とか穏便に済んでますよ」

 誤魔化すようにそう言うと、マギラスさんは苦笑いしながら何度も頷いていた。

「まあ、恐竜をテイムしている時点で、もう普通じゃ無い事は確定だな」

 笑いながらそう言われて、俺も思わず笑ってしまう。

「ええ、俺は普通のつもりなんだけどなあ」

「お前がそれを言うか?」

 横からハスフェルにそう言われたので、振り返った俺は思いっきり肩を竦めた。

「ええ、俺なんかより、ハスフェルやギイの方が色々とんでもないと思うんですけどお」

 態とらしくそう言ってやると、全員がほぼ同時に吹き出してその場は大爆笑になった。



「言うなあ。成る程。良い旅の仲間のようだな」

 ひとしきり笑い合った後、マギラスさんは少し寂しそうにそう言って俺の側に来た。

「なあケンさん。旅をやめた今だから言える事だ。ちょっと俺の話を聞いてくれるか?」

 小さな声でそう言われて、俺は二人に目配せをしてちょっとだけ離れた。


「ハスフェルもギイも、旅の仲間としては本当に頼りになる最高の奴らだよ。だけど……なんて言ったら良いか……上手く言えないけど、彼らには、俺には踏み込めない部分が数多くあった。それを寂しく思った事もあるが、今なら分かるよ。多分、俺じゃあ駄目だったんだろうな。だけど、お前さんは何と言うか、彼らに近い感じがする。俺が言うような事じゃないかもしれないけど、どうか彼らを大事にしてやってくれ。二人とも、ああ見えて案外寂しがり屋なんだよ」

「いやあ、俺も思い切り彼らに頼ってる自覚があるんで、そのお気持ちはものすごく分かりますよ。それに彼らが寂しがりって言うのは、ちょっと意外な気もするけど、まあ納得ですね」

「だろ? まあ上手くやってくれ。俺で役に立つことがあれば何でも聞いてくれて良いぞ」

 それを聞いた俺は、思わず目を輝かせて彼の腕を掴んだ。

「あの! あの、めっちゃ美味かったローストビーフの作り方と、ソースの作り方を是非とも教えてください!」

 叫んだ俺を見たマギラスさんは、もう一度吹き出してからしゃがみ込んで大笑いしていた。

 ええ、そんなに笑うような事か?


「いやすまん。ちょっと意表を突かれたよ」

 笑い過ぎで出た涙を拭いながら立ち上がったマギラスさんは、こっちを見ているハスフェル達に合図をすると、俺の背中を叩いてそのまま別の部屋へ引っ張って行った。

 事務所のようなその部屋の戸棚から、大きなノートを取り出して来る。

「何か書くものはあるか?」

「教えて下さるんですか?」

 目を輝かせる俺を見て、マギラスさんはまた笑っている。

「あの、携帯コンロに被せるオーブンを手に入れたんですが、これでも作れますか?」

 確か、ローストビーフってオーブンが必要だったはずだ。心配になってそう聞くと、マギラスさんは頷いてノートをパラパラとめくってあるページを開いた。

「じゃあ、フライパンで焼くやり方と、オーブンの両方教えておいてやるよ。基本的には簡単だ。コツは火を通し過ぎない事」

 そう言いながら取り出した紙に、さらさらとレシピを書いていく。

「こっちがフライパンで出来る簡単レシピで、こっちは携帯コンロのオーブンでも作れるレシピだよ。それから、ソースもいくつか書いておいてやったから、あとは自分で工夫してくれ。店まで来てくれたら、いつでも相談には乗るよ」

 おお、まさかの料理人からのレシピを貰っちゃったよ。

 思わず改まって両手で受け取ったら、何故だかまた笑ってるし。



「何の内緒話だ?」

 事務所から出て来た俺達を、二人が心配そうに見ている。

「ローストビーフのレシピ、ゲットしました!」

 貰った紙を上げて見せると、二人は喜んで拍手をしていた。

「連れて来た甲斐があったな。あのローストビーフは、俺達も大好きなんだよ。頑張って作ってくれよな」

「期待してるぞ」

「あはは、失敗しない様に頑張るよ」

 笑って首を振ったが、二人の期待に満ちた目に見つめられて思わず貰った紙で顔を隠した。

「うわあ、二人からの期待がハンパないぞ! だけど俺だって、こんな本格的な料理はマジで作った事がないんだからな! 失敗したらごめんよ」

 叫んだ俺は、悪くないよな?




 マギラスさんとスタッフの人達に見送られて、何故だかご機嫌な従魔達を受け取った俺達は、店を出て大通りに戻っていた。

 何でも、待っている間は、広くて天井の高い厩舎みたいな所に連れて行かれて、そこで自由にしていたらしい。綺麗な水がいつでも飲めるようになっていたらしく、皆しっかりと水を飲ませて貰い、スライム達は水浴びまでさせて貰ったそうだ。何だよそれ、めっちゃ面倒見て貰ってたんじゃんか。

「良かったな。良い人達で」

 マックスの首元を掻いてやると、マックスは嬉しそうにワンと鳴いた。



「じゃあ宿に戻るか。今度こそ夜の橋を渡ってな」

 ニヤリと笑ったハスフェルにそう言われて、俺は目を輝かせた。

 そのまま大通りから角を曲がって橋へと続く道に出る。それぞれの従魔に跨り、ゆっくりと緩やかな坂を上って行った。


「おお、夜景が綺麗だ」

 目に飛び込んできた景色に声を上げる。隣ではクーヘンも目を輝かせていた。

 さすがに山の上から見るようなわけにはいかないが、橋の上から見る夜の街は、暗い部分と明るい部分がはっきりしていて、まるで宝石箱みたいでとても綺麗だった。


 しかも、かなり暑くなって来ている時期なのに、橋の上は超涼しい。まるでクーラーの風みたいだ。

「そう言えば、ここまでじゃないけど建物の中もかなり涼しかったよな。あれはどんな仕組みなんだ?」

「冷風扇と言うジェムで動く風の来る道具があるんだ。水に濡らした布の後ろから風を送れば、水で冷やされた冷たい風が来る仕組みさ」

「それもドワーフの技術?」

「ああ、この時期になると道具屋なんかで売っているぞ。最近はジェムの激減でこういった道具が殆ど使えなくて、皆苦労していたんだ。今年は皆喜んでいるだろうさ」

「へえ、いろんな道具があるんだな」

 俺達の前を別の馬に乗った団体がいたので、彼らの横をゆっくりと追い越す。

 それから一気に加速して、そのまま東アポンまで駆け抜けたよ。

 夜の橋、最高だったね。だけど冬場は絶対やめた方が良さそうだ。遮る物のない橋の上で、川からの風にまともに吹き付けたら、あっけなく吹っ飛ばされそうだ。




 そのまま東アポンまで一気に走った俺達は、速度を緩めてゆっくりと大通りを向けて、ギルドの宿泊所へ戻って来た。

「結局、テントの修理に行けなかったな。まあ、ハンプールにも腕の良い道具屋があるから、そこで頼むとしよう。楽しみにしていろよ。ハンプールの街も賑やかだぞ」

「おう、楽しみにしてるよ」

 まずは一旦各自の部屋に戻り、何となくまた全員が俺の部屋に集まった。

 そうだね。休む前に、今日の大量のジェムの確認と山分けをしておかないとね。


 ベリー達、めっちゃ張り切っていたけど、一体どれだけ集めて来たんだろう?

 報告を聞くのが怖いような、聞きたいような複雑な気持ちで、とりあえず俺は全員分のお茶を入れてやった。

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