焼肉パーティーだ!
「ええと、焼くのはいいけど、何の肉を焼くかねえ」
リビングに併設されているキッチンへ向かった俺は、やる気満々で作業台に飛び乗ってきたサクラを見た。
一応、ボルヴィスさん達もすぐ横のリビングにいるので、出し入れするのを見られないように床に置いた木箱の中にサクラには入ってもらい、少し考えてそう呟く。
「おおい、なんの肉を焼く? 希望はあるか?」
開いたままの扉を見て、リビングに集合して従魔達と戯れていたハスフェル達に声をかけると、リナさん達やランドルさん達も揃ってこっちを振り返った。
「俺は岩豚が食いたいなあ」
「いいなあ、だけど、レッドエルクの赤身の肉もいいぞ。あれを分厚く切って焼いたのも最高だからな」
「それなら俺は、グラスランドブルの熟成肉が食いたいなあ」
ハスフェルとギイの声に、笑ったオンハルトの爺さんの言葉が重なる。
「どれもいいねえ。じゃあ、ステーキじゃなくてコンロを並べて色々好きに焼くスタイルにするか? それなら好きな肉を好きなだけ食べられるよな」
全員分のリクエストを聞いていると、焼くのが大変そうだから笑ってそう提案する。
「それがいいです!」
目を輝かせるアーケル君の叫びに、リナさん一家とランドルさん達も嬉しそうに歓声を上げて拍手をした。
「じゃあ、焼肉パーティーにしようか。肉の用意をするから準備は任せた!」
「おう、任せろ!」
「手伝いしま〜〜す!」
笑って立ち上がったハスフェルの言葉に、アーケル君達の声が重なり大爆笑になったよ。
「じゃあ、肉の準備するか」
集まって嬉々として相談を始めた彼らを見て、俺はキッチンへ戻る。
やる気満々なスライム達が、全員揃って俺を見ている。今はレース模様のクロッシェは出てきていない。
「じゃあ、レッドエルクといつもの岩豚、それからグラスランドブルの熟成肉あたりを色々、それからハイランドチキンとグラスランドチキンもいつもと同じくらい出して、全部焼肉用に切っておいてくれるか。ええと後は、塊のベーコンとクーヘンがくれたソーセージ。まあ、これだけあれば大丈夫だろう。野菜は……キャベツと玉ねぎ、それからナスとトウモロコシ、下茹でした温野菜も出しておこう、これは岩豚の油で焼くとめっちゃ美味いんだよな」
野菜は主に俺が食いたいので準備しておく。
俺の指示を受けて、手分けしてスライム達が一斉に肉や野菜を飲み込んでモゴモゴとし始める。もう、これは指示だけしておけば全部やってくれるから楽ちんだよ。
雪スライム達も、今ではすっかり仕事を覚えて手分けして手伝ってくれている。
俺は空のバットを並べて、準備が済んだ肉や野菜をそこに受け取っては収納するのを繰り返していた。
「おおい、こっちの準備は完了だぞ。何か手伝える事とかあるか?」
軽いノックの音がして、開いたままだった扉からハスフェルが顔を覗かせる。
「おう、もうこれで準備完了だよ」
追加で思い出して切ってもらった、さつまいものスライスをお皿に並べていた俺は、そう答えてお皿を収納した。
「お手伝いご苦労さん。じゃあ行くから全員集合〜〜!」
笑った俺の言葉に、床にバレーボールサイズになって転がっていたスライム達が次々に俺の鞄に飛び込んでいく。
中で小さくなって、一瞬で合体しているんだよな。
小さく笑って、スライム達が入った鞄を持ってリビングへ戻る。
「おお、すっげえ!」
ドヤ顔のハスフェル達と、準備万端整った部屋を見て思わずそう呟く。
何しろ、いつも使っていた豪華な彫刻が施されていた巨大なテーブルは一旦片付けられていて、もっと実用的なシンプルな木製のテーブルがずらっと並んでいる。
今回は塊肉用の業務用巨大コンロはなく、代わりに中サイズの大きなコンロがいくつも並んでいる。これは俺が普段使っている携帯用のコンロではなく、いわゆる家庭用のやや大きめのコンロだ。
当然コンロの上には大きな鉄板がそれぞれ載せられていて、人数分以上あるので好きに焼いてもらえるみたいだ。
壁面には、俺が作って渡してあった氷が入った木桶が並んでいて、ビール各種や吟醸酒、それから白ワインなんかが大量に冷やされていた。一応って感じで、麦茶が入った瓶も冷やされているのを見て思わず吹き出した俺だったよ。
「おお、準備万端で素晴らしいな。では肉を出すぞ〜〜〜! まずは言わずと知れた岩豚〜〜〜! どんな焼き方をしても美味いに決まってる〜〜〜〜!」
期待に満ち満ちた目で見つめられて笑った俺は、そう言いながらまずは岩豚が山盛りになった大きなバットを取り出して見せた。
当然のように沸き起こる拍手大喝采。
「次はこれ〜〜レッドエルクの赤身肉〜〜〜岩塩とバターでシンプルに焼くのがおすすめ〜〜〜」
「はあ〜〜〜い!」
笑ったアーケル君達の返事が聞こえてまた大爆笑になる。
「次はこれ〜〜〜! グラスランドブラウンブルの熟成肉だぞ〜〜〜! これはこのスパイスをたっぷり振りかけて、ステーキ風に脂身と一緒に焼くのがおすすめ〜〜〜」
そう言いながら、真っ白な脂身の塊もいくつも出しておく。これもとろとろになるまで焼いたら美味いんだよなあ……あ、いかんよだれが……。
「それからこっちは、ハイランドチキンとグラスランドチキン、こっちが胸肉でこっちがもも肉〜〜! クーヘン達が作ってくれたソーセージと、美味しいベーコンもどうぞ〜〜! それから野菜もな!」
次々に肉を取り出すたびに拍手が起こったのに、最後の野菜だけ笑いながらのブーイングになる。
「お前ら、好きに肉食っていいから野菜も食え! 言っておくけど焼いた時に出る岩豚の脂で野菜を焼くと最高に甘くて美味しくなるんだからな。塩味だけで無限に食えるぞ。これを食わないなんて、絶対に人生損してるぞ〜〜〜!」
俺の宣言にまた大爆笑になり、そんなに美味いなら野菜も食べますって声が全員から聞こえて、笑った俺もドヤ顔になったのだった。
よし、準備は出来た。後は好きに食え!