別荘へ戻るぞ〜〜!
「まあいいや。とりあえず戻ろう」
色々と脱線しそうになった思考を、全部まとめてふんじばってとりあえず明後日の方向へ全力でぶん投げておく。
「寝ている間にちょっと冷えてきたな。さすがに春とは言っても、日が暮れるとまだまだ寒いんだなあ」
地平線に隠れようとする真っ赤な夕陽を眺めてそう呟き、とりあえず移動して温室にいるリナさん達と合流したよ。
あっちもまさに今起きたばかりだったみたいで、顔を見合わせて苦笑いしていた。
ちなみに、俺達が行ったタイミングでちょうど起きたみたいで、こっちチームにいたアーケル君と、貴重な寝起きのリナさんは、二人揃ってふわふわな髪がツンツン跳ねまくっていて、お互いの頭を見て大笑いしていたよ。
「ええと、ちょっと寒いし鍋でもするか? それとも肉を焼く方が良いかな?」
昼は鉱夫飯のアレンジ弁当だったし、どちらも大した手間じゃあないから肉を焼く時だけ手伝ってもらえたらすぐに出来るよ。そう思って言ったんだけど、何故か全員が慌てている。
「鍋は手間がかかるんじゃあないですか? それなら俺、肉が食いたいです! 焼くのなら手伝えますから!」
ドヤ顔のアーケル君の言葉で、今夜はステーキに決定した!
「おおい! 俺達は別荘に戻るからな〜〜〜適当に戻ってこいよ〜〜〜〜!」
マックス達は戻ってきていないみたいだったので、大きな声で思いっきりそう言っておく。まあ、こう言っておけば耳の良い従魔達なら誰かが聞いていてくれるだろう。
直後に甲高い鳴き声が響いて空を見上げると、はるか上空にファルコの姿が見えて思わず目を凝らす。
「ええ、どれだけ高い位置にいるんだよ。全然距離感が掴めないぞ」
だけど笑って手を振ってやると、応えるみたいにもう一回甲高い声で鳴いたファルコは別荘の川側の断崖絶壁へ向かって飛んでいった。
「あいつらやっぱりあそこへ行っていたのか。マジで怪我なんてしてないよな?」
心配になって思わず小さくそう呟いた俺に、足元に転がっていたスライム達が次々に跳ね飛んでくっついてきた。
「大丈夫だよ〜〜〜!」
「皆、楽しかったって!」
「全然危なくないから心配しないでね〜〜!」
ご機嫌なスライム達の言葉に安堵のため息を吐いた俺は、スライム達を捕まえておにぎりにしてやりながらハスフェル達と並んでのんびりと家の玄関まで歩いて行ったのだった。
ううん、玄関まで遠いぞ〜〜〜!
ちなみに、来た時は気が付かなかったんだけど、裏庭側を中心に、明らかに同じ木が固まって植っている箇所がいくつもあって、見るとそれらの木には名札のついていたよ。
それで「リンゴの木」とか「梨の木」「栗の木」等々の木の名前と共に、おそらく品種名なのだろう妙に可愛い名前と番号が書かれていて、もう一枚、管理担当者らしき人の名前の書かれた木札まであってちょっと感心した。
「へえ、この白い花ってのがリンゴの花なんだ。これも綺麗だなあ……」
多分、満開のリンゴの花を見るのは初めてだと思う。桜よりも白い綺麗な花を見て、思わず足を止めた俺達だったよ。
「ああ、もう真っ暗だ。アクア、ランタン出してくれるか」
のんびり景色を見ながら歩いていたら、あっという間に日が暮れて真っ暗になってしまった。
慌ててアクアにそう頼んでランタンをいくつか出してもらい、火を入れてとりあえず灯りを確保する。
別荘の中に入れば、オール電化みたく玄関の配電盤みたいなやつで家の中の照明は全て管理出来るからいいんだけどさ。
とにかく別荘に駆け込んで家中の灯りをつけたところで、ご機嫌なマックス達がタイミングよく走って戻ってきた。
「おかえり〜〜〜楽しかったか?」
玄関を入ったところで突っ込んでくるマニを両手を広げて抱きしめてやり、直後に飛びかかってきたマックスとニニに揃って押し倒される俺。
「ご主人危ないよ〜〜〜」
気が抜けるようなのんびりした声と共に、一気にスライムベッドが広がって背中から倒れた俺とマニ、それからマックスとニニをまとめて受け止めてくれる。
「あはは、いつもありがとうな。おいおい、お前ら葉っぱと砂だらけじゃないか。ほら、綺麗にしてもらえ」
起き上がってマニを見ると、短いマニの毛でさえちぎれた葉っぱや枯れ枝みたいなのがあちこちに絡まっている。
あの粒々は盗人草と見た!
そう、迂闊に草むらに入ると服とか髪にくっつてくる、いわゆるひっつき虫系の草というか種だよ。
「マニがこれって事は、もしかして……!」
慌ててニニを振り返ると、ニニの長い毛にも豪快にいろんなものが絡まっている。
「まあ、楽しかったんだって事はよくわかったよ。従魔の皆を綺麗にしてやってくれるか」
「はあい、綺麗にするね〜〜〜!」
ご機嫌なサクラの返事の後。次々にスライム達がスライムベッドから離れて従魔達を包み込んで綺麗にしてくれる。
俺の座っているスライムの椅子は無色透明になったから、どうやら椅子役はアクアが担当してくれているみたいだ。
「よし、綺麗になったな。じゃあ、リビングへ行って肉を焼くぞ〜〜〜!」
従魔達がくっつけて来た、床に散らばっていた砂や枯葉も全部スライム達が綺麗にしてくれ、ピカピカになった従魔達を見て、顔を見合わせて笑顔で頷き合った俺達は、そのまま全員揃ってリビングへ向かったのだった。