昼寝と添い寝と寝起きの様子
「ふああ〜〜なんだか眠くなってきたよ」
お腹いっぱいだし、日差しはポカポカだし、大満足の俺は座っていたスライムベッドに寝転がって大きな欠伸をした。
「いつも寝る時に使っている薄毛布を出してくれるか。ちょっと昼寝タイムだ」
スライムベッドを軽く叩いてそう言うと、にょろんと出てきた触手が横になった俺に薄毛布を広げて掛けてくれた。
「ありがとうな。ふあ〜〜」
お礼を言ってもう一回欠伸をした俺は、毛布を引き上げてそのまま気持ちよく目を閉じた。
次の瞬間、ふわんと柔らかい何かが俺の頬に当たって思わず目を開く。
「ご主人、抱き枕は必要ですか?」
開いた目に飛び込んできたのは、なぜか中型犬サイズになった真っ白なフクロウのネージュだった。
「あれ? マックス達と遊びに行ってたんじゃあないのか?」
腕を伸ばして、そのふわふわな羽毛を撫でてやりながらそう尋ねる。
「はい、あちこち見せていただいて遊んできましたよ。ご主人がどうしているか気になったので、ローザ達と一緒にちょっと様子を見にきたんです。そうしたらご主人がお昼寝するようだったので、皆がその……抱き枕役をしろと言って、置いて行かれてしまいました」
驚いて周りを見回したけど、もう頭上に広がる鈴なりのさくらんぼが実った枝には、どこにもローザ達の姿は見えなかった。
「あはは、そうだったのか。だけど嬉しいよ。実を言うとちょっともふもふがいなくて寂しかったからさ」
笑ってそう言い、両手を伸ばして昨日の朝目が覚めた時みたいにふわふわなネージュの体を抱きしめた。
「ううん、フランマやタロンみたいなもふもふの毛もいいけど、この柔らかな羽毛の抱き心地も最高だな……いい感じだ……」
ふわふわを抱きしめた俺は、目を閉じながら満足そうにそう呟く。
顎のあたりを甘噛みされて、小さく笑ってネージュの顔を捕まえてやった。
「くすぐったいぞ〜〜甘噛みするのはどこの誰だ〜〜〜?」
「はあい、それは私です」
嬉しそうに目を細めたネージュがそう言って、また俺の顎の辺りを甘噛みする。
笑ってもう一度ふわふわな丸い顔をおにぎりにしてやりながら、俺はあっという間に眠りの海へ落っこちていったのだった。ドボン。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
「うん……起きるよ……」
額と頬の辺りをぺしぺしされて、半ば無意識に返事をしつつ不意に違和感を覚えて慌てて起き上がる。
「ご主人、起きましたね」
腕の中にいたネージュが、嬉しそうにそう言って体を起こす。
俺が横向きになって力一杯抱きついていたせいで、ネージュのふわふわな羽毛があちこち絡まったみたいになっていて若干残念な状態になっているよ。
「あはは、ごめんごめん。寝癖みたいになったな」
笑いながらそう言って、手で撫で付けるみたいにして絡まった羽根を直してやった。
俺の髪は、柔らかい割にほとんど寝癖がつかない有難い髪なんだけど、以前働いていた会社で、頑固な寝癖で大変な状態になったまま、いつも諦めて会社に来ていた同僚がいて、皆にからかわれていたよ。
まあ彼は内勤だったから大丈夫だったけど、あれって営業だったら最悪だよな。寝癖を直すためだけに早起きするなんて、朝の弱い俺にしたらなんの拷問だよって言いたくなった覚えがある。
懐かしい記憶にちょっとだけ涙目になりつつ、空を見上げて思わず吹き出した。
確か寝た時にはまだ真っ青な空だったのに、すでに西の空は日が傾いて赤くなっている。
「おお、綺麗な夕焼けだなあ。そっか、ここは街よりもかなり高い場所にあるから空が綺麗に見えるんだな」
改めて見た綺麗な夕焼けに、なんだか嬉しくなった俺はスライムベッドに腰掛けたままのんびりと空を眺めていた。
「もう! やっと起きたと思ったのに、何してるんだよ。お腹が空いてきました〜〜〜〜!」
座った俺の膝の上に現れたシャムエル様が、そう言いながらステップを踏んでいる。
「お腹が空いたって、別にまだそんな時間じゃあないだろう? それにさくらんぼもイチゴもあるんだから、好きに取って食べればいいのに」
手を伸ばしてもふもふな尻尾を突っつきながらそう言ってやると、慌てて尻尾を取り返したシャムエル様が苦笑いしながら上を見た。
「だって、皆寝ちゃって誰もフルーツ狩りをしてくれないから、私達も取れなくなっちゃったんだもん!」
何故かドヤ顔のシャムエル様の言葉に驚いて振り返ると、ハスフェルとギイ、それから草原エルフ三兄弟の全員が、スライムベッドに横になって熟睡していたのだ。
「あはは、俺だけじゃあなくて全員昼寝タイムかよ。じゃあもしかしてあっちも?」
笑ってそう呟き温室の方を指さすと、シャムエル様が笑いながら頷く。
「あっちは温室の中で暖かかったみたいで、ケン達よりも先にお昼寝タイムになっていたよ。まあ、私もケンと一緒に寝させてもらったから別にいいんだけどさ。やっぱりお腹が空いてきたの!」
またしてもドヤ顔のシャムエル様の言葉に吹き出した俺は、腕を伸ばして思いっきり伸びをした。
「じゃあ、戻って夕食準備でもするか。おおい、起きろ〜〜〜〜」
スライムベッドから立ち上がった俺は、近くで寝ていたハスフェルとギイのスライムベッドに手をかけてゆさゆさと揺り動かしてやる。
「きゃあ〜〜揺れる〜〜〜〜」
スライム達の何やら嬉しそうな叫び声と同時に、揺らしてやったスライムベッドがそれ以上にわっさわっさと大きく揺れる。
「うわあ、何事だ?」
ほぼ同時にそう叫んだ二人が揃って腹筋だけで起き上がる。しかも、その右手に武器が握られているのを見て思わず吹き出す。
「おお、俺と違って素晴らしい反射神経だなあ。素晴らしい。なあ、気持ちよく寝ているところ悪いけど、もう日が暮れてきたし別荘へ戻ろう。シャムエル様が腹ペコなんだってさ」
俺の言葉に吹き出した二人は、揃って即座に武器を収納してから大きく伸びをした。
「もうそんな時間か。いやあゆっくりさせてもらったよ」
「確かに日が暮れてきているな。腹も減ってきている事だし、では戻るとするか」
笑った二人の言葉と同時に、スライムベッドがばらけて小さくなる。
「起きろ〜〜〜!」
「うわあ!」
俺達が揃って草原エルフ三兄弟の寝ているスライムベッドを揺すってやると、ほぼ同時にそう叫んだ三人もガバリと勢いよく起き上がった。
その手にそれぞれの武器が当然のように握られているのを見て、割と本気で感心した俺だったよ。
いや、この場合は俺の反応の方が駄目なのかな……?