創造主様の心の友とこの世界の事について!
「はあ、もう食べられない。新鮮な果物で腹一杯になるって、考えたらすごい贅沢だよなあ」
大きなため息を吐いてそう呟いた俺は、腕を上げて背筋を伸ばしながら肩をゆっくりと回して、そのまま仰向けに倒れた。
もちろんそれを見て即座に反応してくれたスライム達が、俺の足の膝から下をホールドして支えてくれていたアクアと一瞬で一体化してスライムベッドになってくれて、倒れてきた俺の体をしっかりと受け止めてくれたから危険なんて全くないよ。
ポヨンと軽い反動があって体が少しだけ浮き上がり、そのまま俺の体はもう一度スライムベッドに受け止められる。
「ありがとうな。はあ、いい天気だなあ……」
両手を広げて完全に脱力した俺は、まだまだ鈴なりにあるさくらんぼ越しに見えるよく晴れた空を見上げてそう呟いた。
「何してるんだよ。ほら、早く次のさくらんぼをください!」
俺の顔のすぐ横に現れたシャムエル様が、そう言って片足で器用にくるりくるりと回転しながら、俺の頬に時折もふもふ尻尾を叩きつけて素早いステップを踏む。
当然、それを見たカリディアがすっ飛んできて横に並び、スライムトランポリン特有の不規則な反動をものともせずに、見事なシンクロダンスを披露してくれた。
もちろん、俺の頬に当たるもふもふ尻尾はダブルになったよ。いいぞもっとやれ。
最後は揃って、ビシッとキメのポーズで止まる。
「お見事〜〜!」
拍手をしながらそう言って笑い、腹筋だけで起き上がってまたため息を吐いて上を見上げた。
当然心得ているアクア達スライムベッドがグイッと上に伸び上がって、座ったままの俺でも手の届くところまで持ち上げてくれる。
「はい、どうぞ。これはちょっと赤い色がついたさくらんぼだな」
品種は分からないけど、真っ赤なさくらんぼを数粒ちぎってシャムエル様とカリディアに渡してやる。
揃って嬉しそうに齧り始めたのを見て、ふと一つの疑問が浮かんだ。
「なあ、シャムエル様。ちょっと聞いてもいいか?」
「ん? どうしたの、改まって?」
さくらんぼを齧っていたのを止めたシャムエル様が、不思議そうにそう言って俺を見る。
ちなみに今のシャムエル様とカリディアは、スライムベッドに座った状態の俺の左右の膝の上に分かれて座っているよ。
「これだけ鈴なりに実っているんだから、別に俺が取らなくても好きにちぎって採って食べてくれていいんだぞ。シャムエル様だって、さくらんぼ狩りやイチゴ狩りをしたいだろう? それにカリディアだってさ」
俺がそう言って頭上のさくらんぼを指すと、納得したように頷いたシャムエル様もさくらんぼを見上げた。当然カリディアも食べていた手を止めてさくらんぼを見上げている。
「ええとね。じゃあちょっと詳しく説明するけど、まず郊外にある自然の果物の木と大きく違う点は、ここにあるものは全てケンが所有する屋敷の敷地内にある、人の手で管理された場所で、全て管理して育てられた果樹だって事だよね」
「まあ、確かにそうだな。ここは俺が買った別荘の敷地内で、このさくらんぼの木も、それからさっきのストロベリーポットも、全部俺が依頼して、植木職人さん達が留守の間に管理して育ててくれたものだな」
「そうなんだよね。これはケンの所有物になるから、だから私やカリディア、もちろんフランマやベリーも勝手にこれを採取しちゃいけないの!」
「ええ、俺がいいって言っても駄目なのか?」
驚いた俺がそう言うと、シャムエル様とカリディアは困ったように顔を見合わせた。
「そこなんだよね。本来であれば、創造主である私や幻獣であるカリディアやフランマ、ベリーだって人の世界とは基本的に直接関わらないからねえ」
しみじみとそう言ったシャムエル様は、短い腕を組んでうんうんと頷いた。隣では、カリディアも同じように短い腕を組んで頷いている。
「だけど私はケンに姿を見せて、こうやってずっと一緒に旅をしているし、カリディアはケンに紐付けされているし、忠誠を誓ってもいる……実を言うと、これってものすごくイレギュラーな事なんだよね。だから決まりが無いんだ」
「決まりが無いって……ええとつまり、今のような時に、シャムエル様やカリディアがどうすればいいかの決まりがこの世界には無いって意味?」
「そうそう。やっぱりケンは、この世界の理について理解してくれているんだね。ちゃんと話が通じるし理解が早い。さすがは我が心の友だね!」
サムズアップしながらそう言われて、ちょっと吹き出した俺だったよ。
「いやいや。心の友であるのは否定しないけど、俺がこの世界の理を理解しているってのとはちょっと違うと思うぞ」
笑った俺の言葉にシャムエル様が、え? どうして? って感じに可愛らしく首を傾げてみせる。
なんだよそのあざと可愛さは! そのほっぺた突っつかせてもらってもいいですか? 思わず指を差し出して頬を突っつこうとしたら、嫌そうに軽く叩かれたよ。残念!
「ええ、心の友ならちょっとくらい突っつかせてくれてもいいのに」
「それは駄目です!」
顔の前でばつ印を作られて、苦笑いする俺だったよ。
「まあいいや。じゃあこうしよう。ここの家主である俺が許可するから、俺達がこうやってフルーツ狩りをしている時には、シャムエル様やカリディア達も一緒に好きに採って食べてくれよ。それにフランマやベリーだって俺の大切な仲間なんだから、ここの果物を食べる権利はあると思うぞ」
「いいの?」
目を輝かせたシャムエル様に、笑った俺は大きく頷いてみせた。
「もちろん、この後でクーヘン達やバッカスさん達にも遊んでもらおうと思っているから、全部一気に採取されちゃったら困るけどさ」
「そんな事しません! 嬉しいよケン。ありがとうね。実を言うとちょっとやってみたかったんだ」
嬉しそうに目を細めたシャムエル様は、一瞬で俺の膝の上から頭上の鈴なりになったさくらんぼのすぐ横に移動した。
「では、遠慮なく!」
雄々しく宣言して、真っ赤なさくらんぼを一粒両手で掴んで引っ張る。
「あれ、ちぎれない〜〜〜〜〜!」
グググ〜〜〜って感じに背中を反らせて大きく後ろに体重をかけたシャムエル様だったけど、残念ながら力が足りないみたいで、一向にさくらんぼはちぎれる気配がない。
横にすっ飛んでいったカリディアと二人がかりで引っ張ってようやくちぎれた。だけどその反動で、二人揃って後ろに転んでそのまま枝から落っこちたよ。
「どわあ〜〜〜危ねえ!」
咄嗟にそう叫んだ俺は、両手で落っこちてきたシャムエル様とカリディアを受け止めてやる。
「ああ、びっくりした。このさくらんぼはかなりしっかりくっついているみたいだねえ」
「びっくりしました。受け止めてくださってありがとうございます」
俺の手の上に並んで座ったシャムエル様とカリディアが俺を見上げて苦笑いしながらそう言って吹き出す。
「こっちの方がびっくりしたよ。俺の心臓が止まるかと思ったぞ。でもまあ、無事でよかったよ。イチゴ狩りはシャムエル様達でも出来そうだけど、さくらんぼ狩りは無理しないほうが良さそうだな」
苦笑いした俺はそう言って手を伸ばしてまたさくらんぼをちぎってやり、そのあとは自分はごくたまに数粒食べるくらいにして、シャムエル様とカリディアにせっせとさくらんぼをちぎっては渡してやったのだった。