イチゴとさくらんぼ!
「到着〜〜〜〜! ありがとうな。それじゃあ好きなだけ遊びに行ってきていいぞ。だけど怪我には絶対に気をつける事! 特に子猫達! いいな。約束だぞ!」
試験管ブラシみたいになった尻尾を揃って空に向かって突き上げてるように立てている子猫達を見て、俺は慌てて駆け寄りマニの顔を両手でしっかりと掴んで額を合わせ、大きな声で言い聞かせるように目を見て話しかけた。
「心配性なご主人だにゃあ。大丈夫です!」
ご機嫌で喉を鳴らすマニを抱きしめてやり、ニニやカッツェを振り返った。
「心配性なご主人ね。ちゃんと見ているから大丈夫よ」
「何があろうとちゃんと守りますから、ご安心を!」
ニニとカッツェが得意そうに言って、これまた大きな音で喉を鳴らしてくれる。
「頼りにしてるよ。お願いだから間違いなく大はしゃぎする子猫達を守ってやってくれよな」
苦笑いしてそう言い、改めて側に来た子猫達を見る。こうして並ぶとミニヨンやカリーノは、もうニニより少し小さいくらいでもうほぼ大人と言ってもいいくらいだ。特にミニヨンの筋肉の付き具合は半端ない。
まだ生後半年にならないのに、こんなに大きくなるなんて反則だよ。
健やかな成長は嬉しい事なんだけど、子猫達のあまりの成長の速さに俺の認識の方がついていけない。
まあ、俺的にはいつまでも可愛い子猫のままでいて欲しいって気持ちもあるんだろうけどさ。
「こうしてみると、マニは小さくて可愛いなあ。ずっとこれくらいでいてくれていいんだからな」
ミニヨンやカリーノに比べると、正直言ってマニはかなり小さい。脚も短いし体も細めだ。
もしも野生下で生まれていたなら、間違いなく無事に育ったのはミニヨンとカリーノの二匹だけだろう。ってかまあ、マニは産まれた時点で息をしていなかったんだから、間違いなくその時点でアウトだよな。
もう一回マニを抱きしめてやりながらそう言って、あの時の大騒ぎを思い出してしまいちょっと遠い目になった俺だったよ。
マックスとシリウスを先頭にしてご機嫌で走り去る従魔達を見送った俺達は、そのままゆっくりと建物沿いに歩いて裏庭側へ向かった。
「へえ、以前ここを出た時と違って、庭にも花がたくさん咲いているよ。ここも手入れしてくれているんだな」
途中、広い庭を眺める少し高くなった場所に立つ、東屋って言うんだっけ? 柱と屋根だけの休憩スペースみたいなところの横も通って裏庭に出た。
「うおお〜〜〜! これは凄い!」
俺とアーケル君の叫ぶ声が綺麗に重なった。
何しろ、そこにあったのはいわゆる総ガラス製の大きな温室で、中には50センチくらいの土台の上に乗せられた高さ1メートルくらいの素焼き製の巨大なストロベリーポットが二列。ずらっと奥まで並んでいたのだ。
一つの素焼きの壺の周囲にはいくつか大きく張り出した土台のようなものがあり、そこに一株ずつイチゴの苗が植えられている。成る程、ああしておけば、実って垂れ下がったイチゴが土に付かないわけか。
しかも、そのストロベリーポットのほぼ全ての苗から、こぼれんばかりに鈴なりのイチゴが実っていたのだ。
温室から少し離れた南側には、見慣れた桜の木が何本も植っていて、意外に大きく枝を広げている。
これって去年俺が頼んで移植してもらった木のはずなのに、もうこれだけ成長しているんだ。凄え!
その枝先には、佐藤錦みたいな小粒で薄いピンク色のさくらんぼが、これまた鈴なりに実っていたのだ。マーサさんが言っていた早生のさくらんぼってのがこれなのだろう。
それ以外にも、その奥に葉桜になったしょぼしょぼの桜の木もまだまだ何本もあるから、どうやら違う種類のさくらんぼもあるみたいだ。
もう、それを見た全員のテンションが爆上がりしたよ。
「ああ、留守の間に追加でマーサさんに頼んでいたっていう果樹か。確か、戻ってきてマーサさんに最初に会った時にもそんな事を言っていたな。すっかり忘れていたよ。へえ、これは凄いな」
感心したようなハスフェルの呟きに、俺はもう笑いが止まらない。
「取り放題にしたら、すぐに無くなるくらいかと思っていたけど、これなら全員で遊んでも充分すぎるくらいにあるな。どうする? どっちがいいですか?」
「もちろん両方お願いします!」
目を輝かせたアーケル君達草原エルフ三兄弟の綺麗に揃った叫び声に、ほぼ全員揃って吹き出す。
「じゃあ、午後からはフルーツ狩りタイムって事にしよう。ええと、じゃあ今は収納は無しで、採った分はちゃんと自分で食べる事! あ、脚立はここに立てかけてあるのを使っていいみたいだな……数はあるな。よし。以上! ではお好きな方をどうぞ!」
笑った俺の言葉に、速攻脚立を確保しに走るリナさんとアルデアさん。その後をランドルさんとボルヴィスさんが追いかけていった。
そんな彼らを見て、草原エルフ三兄弟はそのまま歓声を上げて温室の中へ駆け込んでいった。
「待て〜〜〜! 俺もイチゴ狩りする〜〜〜〜!」
笑った俺もハスフェルとギイと並んで、歓声をあげながら温室へ駆け込んで行ったよ。