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豪華な夕食

 夕日の見える橋の上を西アポンまで一気に駆け抜けた俺達は、そのまま坂になった道を通ってまずは冒険者ギルドへ向かった。

 俺とクーヘンのジェムの買い取り明細を貰うためだ。


 到着したギルドの建物の中に入ると、またしても物凄いどよめきが起こった。

 まあ、そうなるよな。だけど気にしない、気にしない……。

「なあ、鞍が乗ってて首輪と手綱が付いてるって事は、あれに乗るのかよ。凄えな」

「郊外でも、あれに乗ってたら怖いもの無しだよな。凄えな」

 冒険者達の感心したような声が聞こえるのは、先ほどの東アポンのギルドと一緒だ。

「ああ来たね。じゃあそこに座ってくれ」

 レオンさんが俺達に気付き、奥から出てきてデネブを見て仰け反った。

「おいおい、これはまた凄いのをテイムしたんだな。お前の事は信用しているが、街中では従魔の管理はしっかりやってくれよ」

「さっき、ディアマントにも殆ど同じ事を言われたよ」

 苦笑いするギイに、レオンさんも笑っている。

「それでこれが、二人の買い取り金額の振込明細だよ。こっちが詳しい内訳だ」

 渡された明細の金額は、これまたとんでもない金額になっていた。

 高値が付きすぎて、庶民の俺は何だか怖いです。


 お礼を言ってギルドを出た俺達は、夕食を食べる事にした。

「ってか、こいつらを連れて入れる店なんて限られているだろう? どうする? 東アポンに戻ったら金券は使えないしな」

 しかし、俺の心配をよそに、ハスフェルとギイは当然のようにどこかへ向かって行く。

「どうやら心当たりの店があるみたいですね。とにかくついて行ってみましょう」

 クーヘンにそう言われて、俺も頷いて二人の後を追った。



 すっかり日の暮れた街を、俺達はのんびりと歩いている。

 それぞれの従魔の横を、手綱を手に持って安全アピールも忘れない。

 まあ、俺達の周りには、相変わらずぽっかりと空間が開いているんだけどね。



「ほら、ここだよ」

 二人の案内で到着したのは、何やら大きな建物だった。

 しかも、入り口の巨大な扉の所には、衛兵みたいな格好をして槍を持った人が左右に二人、直立しているのだ。

 五つ星ホテルみたいなその建物に二人は平然と向かい、その衛兵らしき人に何か話し掛けた。

「あ、敬礼したぞ。しかも案内してくれるらしい」

 完全に観客気分の俺とクーヘンは、少し下がったところから二人の様子を伺っていた。


 門を開けて衛兵さんが中に向かって何か言うと、これまたきっちりとした、まるでタキシードのような服を着た人が、すぐに複数出て来た。

 ハスフェルとギイに向かってにこやかに話し掛けた後、なんと従魔達の手綱を受け取ったのだ。

 呆然と見ている俺達にもその人達はやって来て、にこやかに話し掛けて来た。

「ようこそお越しくださいました。中へご案内いたしますので、恐れ入りますが従魔達はこちらでお預かりさせて頂きます。彼らに、何かお世話は必要でしょうか?」

 ええと、これはどうすればいいんだ? 固まっていると、ハスフェルの声が聞こえた。

「大丈夫だよケン。ここは信用して良い」

 俺はクーヘンと顔を見合わせて頷き合い、黙ってマックスとチョコの手綱を渡した。

「じゃあ、飯食ってくるから、この人達について行ってくれるか」

「分かりました。皆一緒だったら我慢します」

 もう一度、順番にマックスとニニの首をしっかりと抱き締めてやり、ファルコはどうしようか考えてしまった。

「こちらをお使いください」

 別の男性が差し出したのは、大きなスタンド式になったとまり木で、頷いた俺とクーヘンは、そこにファルコとミニラプトル二匹を並べて留まらせてやった。

 草食チームとスライム達は、マックスとニニの背中に乗っているから問題無いだろう。

「特に世話は必要ありません。それじゃあ、よろしくお願いします」

 タキシードの人達は、従魔達に何か話し掛けた後、順番に大きく開いた扉の中に連れて行った。

 俺達はまた別の人に案内されて中に入り、広い豪華な廊下を通って奥にある大きな部屋に通された。


 おお、間違いなく個室だよ。これってどう言う店なんだ?


 広い部屋の真ん中には大きな机と椅子が並んでいて、順番にそこに案内されて座った。

「ここは俺の友人が経営している店でな。まあ、味は悪く無い。せっかくだから、クーヘンの送別会を兼ねて豪華に行こうと思ってな」

 ハスフェルにそう言われて、思わず俺は豪華な天井を見上げて叫んだ。

「ええ貰った金券を使うつもりだったのに、この店は、金券なんて絶対に使えないだろう?」

「言っただろう。あの金券は今すぐ使わなくても構わないんだから、また別の機会に使うと良い」

「いやまあ、そうだけど……」

 俺達めっちゃ普段着だけど、こう言う店ってドレスコードとかあったりするんじゃないのか? 第一、ハスフェルの友達って事は、また神様繋がりなのか?

 戸惑っていると、目の前の机にシャムエル様が現れた。

「気にしないで大丈夫だよ。ここは私もお気に入りの店だからね」

『って事は、やっぱりここにいるのも、シャムエル様の知り合いの神様なのか?』

 念の為、念話で話し掛けると、シャムエル様は笑って首を振った。

「彼はすっごい食通でね。この店にいれば、世界中の美味しいものが殆ど食べられるんだよ。色々と出て来るから、もしも口に合わないのがあったら言って良いからね。ケンなら作り方を教えて欲しくなるかもね」

『へえ、そうなんだ。じゃあ何が出るのか楽しみにしておくよ』

 そこまで言うのなら、まずは食べてみよう。



 最初にボトルで出されたのは綺麗な透明のお酒で、グラスに注がれたそれは、梅酒のような爽やかな香りがしている。

「じゃあ、我らの出会いと、クーヘンのこれからに乾杯!」

 ハスフェルの声に、俺達はグラスを上げて乾杯をした。


 次々と運ばれて来る大皿に乗った料理を、係りの人がお皿に取り分けてくれるスタイルだ。それにどうやらここは和洋折衷みたいな感じで、中華風の炒め物があるかと思えば、大きな肉で分厚いローストビーフみたいなのもあった、これは玉ねぎ風味のソースと合わせて盛り付けられている。うわあ、めちゃくちゃ美味しそう。



 そして何と、俺のところにはスプーンやフォークのカトラリーと一緒にお箸が置かれたのだ。

 どこから見ても木製で出来たその箸は。先の部分だけ金属になってる以外は、完全に俺の知る箸以外の何者でも無かった。

 嬉しそうにお箸を手に取ると、クーヘンが感心したようにこっちを見ている。

「それ、使えるんですか?」

「もちろん使えるぞ」

 そう言って俺は、出された綺麗なサラダを箸を使って食べてみた。

 うん、ちょっと使い心地が違うけど、まあ許容範囲だろう。丸いトマトみたいなのをそのまま箸で摘んだ俺を、クーヘンは驚きの目で見つめていた。

 しかも、他の三人の前にはパンが置かれたのに、俺のところだけご飯が置かれたのだ。これにはちょっとテンション上がったよ。


 出される料理はどれも美味しくて、もう俺は夢中になって食べたね。

 気になっていたローストビーフは、肉もソースも予想以上に美味しかったし、大きめの野菜と大きなソーセージが丸ごと入ったポトフみたいなのも最高だったね。

 そして、何より最高だったのが食事の合間に勧められたお酒で、俺が好きなんじゃないかと言われてお任せしたら、何と、米の酒が出たんだよ。

 飲んでみたらこれは間違い無く日本酒で、ちょっと本気で泣きそうになったのは内緒だ。

 ってか、これも絶対探そうリストに追加された。

 大吟醸とかあったら最高じゃん。


 デザートの杏仁豆腐っぽいのとお茶が出る頃には、この中では一番少食の俺はもう腹一杯になってました。


「ご馳走様。めっちゃ美味かったよ。それにお箸で飯が食えるなんて感激だったよ。これも、どこかの地方で使われてるのか?」

「ああ、カデリー平原の辺りでは、普通に使われているな」

「カデリー平原? あ、確か米が主食だって言ってた地方か。成る程、やっぱり米が主食の地域は箸が使われてるんだ」

 納得して、空になったお皿に置かれた箸を見た。


 あ、そうだ。味噌や醤油も探すって言ってて忘れてるぞ。

 まあ良いや。他でも何か見つかるかもしれないし、そのうちカデリー平原もへ行って、色々探してみよう。


「どう? お腹いっぱいになった?」

 また突然机に現れたシャムエル様が、何故だかドヤ顔で尋ねてくる。

『おう、もうこれ以上食えないくらいに腹一杯だよ。それより食事の間はどこへ行ってたんだ? どれもめちゃめちゃ美味かったのに』

「よかった。どうやら口に合ったみたいだね。マギラスの作る料理はどれも最高でしょう?」

『おう、最高だったよ。ええと、そのマギラス? その人がハスフェルの友達なのか? 料理人なんだ』

 なんとなく、店のオーナーがハスフェルの友人で、料理を作ってる人は別にいると思っていたのだが、どうやら違ったみたいだ。

「奥の厨房で、マギラスが作ってるのを見せてもらっていたんだ。時々味見もさせてもらったからね」

 目を細めて嬉しそうにそう言うシャムエル様を見て、俺は気になっていた事を質問した。

『ええと、そのマギラスって人は、どの神様なんだ?』

 しかし、目を瞬いたシャムエル様は、笑って首を振った。

「違うよ、マギラスは人間だよ。元冒険者で、ハスフェルやギイと一緒に旅をした事もあるね。彼には私は見えないけれど、それが普通だから気にしてないよ。私も彼を気に入ってるんだ」

『そうなのか。じゃあ何? 勝手に横から取って食べてたのか?』

 思わずジト目で見ながらそう尋ねると、シャムエル様は照れたように笑って嬉しそうに頷いた。

「出される直前のを、ちょこっともらうのが美味しいんだよ。別にいいでしょう?」

 まあ神様のする事だもんな。

『良いんじゃないか』

 大満足で残りのお茶を飲み干してから、小さくハスフェルの腕を突っついた。

「なあ、支払いってどうすれば良い?」

「ああ、ここは俺がご馳走するから気にするな」

「いや、ここって高そうだし……」

「まあ良いから気にするなって」

 笑ってそう言われてしまい、結局この豪華な夕食が幾らだったのか教えてもらえなかった。

「良いのか? じゃあここは奢られておくよ。ご馳走さん」

「気にするな。いつも美味い飯を食わせてもらっているからな」

 笑ったハスフェルにそう言われて、差し出された拳に、俺も拳で応えたのだった。


 ご馳走様でしたー!

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