午後からの予定
「はあ、ごちそうさまでした。いつもながら最高に美味しかったです!」
口々にごちそうさまを言ってくれる皆を見て、俺も笑顔でごちそうさまを言ったよ。
「はい、お粗末様でした。さて、少し休憩したら従魔達は庭で遊ばせてやって、俺達は裏庭へ行こうと思うんだけど、どうだ?」
「裏庭?」
「何があるんだ?」
俺の言葉に、ハスフェルとギイが不思議そうに首を傾げている。逆にマックスやニニ達はそれを聞いて一斉に俺を振り返った。目がキラッキラに輝いているぞ。
マックス達の気持ちは分かる。何しろここの庭はバイゼンのお城の庭ほど広くはないが、バイゼンのお城の庭とは違って高低差がかなりあり起伏に富んでいる。
正直言って、俺達人には行くのが困難なくらいに危険な箇所がたくさんあるんだよ。主に川側の断崖絶壁の部分辺りとかさ。
だけど運動神経抜群な従魔達にとっては、あの程度の断崖絶壁は楽しく遊べる場所の一つに過ぎず、前回、ここを買ってすぐの時には危ない箇所がないか一通り確認しておきます! とか言って、毎日ご機嫌で走り回っていたんだよな。
なので多分、噂を聞いた子猫達も行きたくてうずうずしているだろう。
俺の言葉を聞いて、マニ達をはじめ、バイゼンでテイムしたのでここの庭を知らない子達が揃って目を輝かせる。
「あはは、やっぱりそうだったか。庭でもっと遊びたいんだろう?」
「うん、すっごく楽しい場所がたくさんあるって聞いたにゃ!」
興奮のあまり若干赤ちゃん言葉になったマニが、そう言って何度も飛び跳ねる。
「ああ、じゃあ午後からは皆と一緒に行って遊んでおいで。だけど怪我には絶対に気をつける事。自分の家の庭の崖で、俺の従魔が怪我しました! なんて冗談にもならないからな」
「もちろん、ちゃんと見ているから安心してね。心配性のご主人」
笑ったニニがそう言って、俺に戯れつくマニの背中を舐めた。
おいおい、思いっきり逆毛になってるぞ。背骨沿いの毛が二二に舐められて逆毛になっているのを見て思わず吹き出した俺だったよ。
そうなんだよな。ニニはいつも誰かを舐める時、毛の流れガン無視で自分の都合のいい方向に舐めるから、たまにカッツェやマニ達の毛が思いっきり逆毛になったり謎のアートみたいにツンツンになっている時があるんだよな。
もちろんカッツェは気配りの出来る良い男だから、ニニを舐める時はちゃんと毛の流れに沿って綺麗に舐めてくれるので、ニニもマニもいつも艶々の毛並みになっているよ。
ちなみにマニは、自分を舐めるのは何故かまだまだ下手でよく倒れたり転けたりしているんだけど、誰か他の子を舐めるのは上手いみたいで、ニニやカッツェをはじめ、他の従魔達をよく舐めているのを見る。
しかもカッツェがしっかりと教えているので、ちゃんと毛の流れを見てから舐めてあげる気配りっぷり。
以前、舐め方に関しては我が道を行くニニが主に舐めるカッツェの頭頂部が、完全に七三分けになっているのを見た時には、さすがに我慢出来なくて濡れた布と小さなブラシで直してやったくらいだ。
「ニニ、ちゃんと毛の流れを見て舐めてやれよな。マニの背中が怒った時みたいにツンツンになっちゃったじゃないか」
手を伸ばして言い聞かせるようにしながらニニの大きな顔をおにぎりにしてやり、もふもふな頬毛を思い切り楽しんだのだった。
はあ、やっぱりニニを撫でていると癒されるよ……。
「ああ、いかんいかん! もうちょっとで寝るところだった」
ニニにくっついていたらこのまま吸い込まれるみたいに寝てしまいそうになって、気がついてそう呟きながら慌てて顔を上げる。
「だけど、ここで放置されたら俺達が別荘に帰れないな。じゃあ、申し訳ないけど一旦一緒に別荘まで戻ってもらえるか。それで俺達を置いてから皆で一緒にどこへでも好きなところへ遊びに行っておくれ。だけど。敷地から外には出ちゃ駄目だぞ」
側に来たマックスを捕まえてそう言ってやると、尻尾扇風機状態のマックスはご機嫌にワンと吠えた。
「もちろんどこへでもお連れしますからご心配なく。人の足で歩いていたら、別荘に帰る頃には陽が傾いてしまいますよ! それから、もちろん行っても良い場所と行ってはいけない場所は分かっていますよ。ベリーからちゃんと境界線の場所を聞きましたので、他の新入りの子達にも皆で教えておきます!」
尻尾扇風機状態でドヤ顔のマックスの言葉に、思わず吹き出した俺だったよ。
「おう、よろしくな。新しい子達もたくさん増えているから、しっかり教えておいてくれよな!」
もう一度マックスを思い切り撫でてやってから、リナさん一家とランドルさんを振り返った。
「じゃあ、ここは片付けて一旦別荘へ戻りましょう。裏庭には楽しいイベントが待っていますからね!」
「楽しいイベント?」
声を揃えて首を傾げる彼らを見て、そういえばマーサさんにお願いして裏庭に果樹を植えてもらう契約をした時って、俺だけしかいなかったんだっけ、と今更ながらに思い出していたのだった。
「ふ、ふ、ふ。まあそれは行ってみてのお楽しみだよ。俺もどういう感じになっているのか分からないからさ」
手早くマックスに鞍と手綱を取り付けながらそう言って笑うと、あっという間に後片付けを終えた全員が急いでそれぞれの騎獣に鞍を載せていた。
「よし、それじゃあ戻ろうか」
見渡す限りの花畑をもう一度見回した俺は、一つ深呼吸をしてからそう言って別荘目指してマックスを走らせたのだった。
当然全員がそれに続く。
ふふふ、イチゴ狩り、楽しみだなあ。だけど、どれくらい実が出来ているんだろう?
もしかして、このメンツにかかれば瞬殺されるくらいの量しかなかったら、ちょっと悲しいかも……。
マックスの背に揺られながら、のんびりとそんな事を考えている俺だったよ。