大人の休日!
「そろそろ腹が減ってきたなあ。もう太陽も真上にあるみたいだし昼飯にするか」
アクア達が作ってくれたスライムソファーに座って、一つ欠伸をして空を見上げた俺はそう呟いてから大きく伸びをして立ち上がった。
結局、俺が最初に作った花冠は草原エルフ三兄弟による争奪戦の末アーケル君が確保して、リナさんとアルデアさんが追加で作ってくれた花冠をオリゴー君とカルン君が貰って、三人揃って大喜びしていた。
まあ、俺と違って見た目美少年なリナさん一家が、揃って花畑に座って花冠を被って喜んで笑い合っている図は、ちょっと雑誌の表紙にしたいくらいの出来過ぎな光景だったよ。俺やランドルさん、ハスフェル達だとこうはいかないからな。
ちなみに、俺とリナさん一家がせっせと花冠を作っていた間、ハスフェル達はスライムソファーを作ってもらって並べてそれぞれに座り、走り回る従魔達を眺めながら早速一杯やっていたよ。まあ、これも一種の花見酒と言えるだろうさ。
そして従魔達による花輪争奪戦は、そりゃあもう大変な騒ぎになっていたのだった。
俺が作った最初の二個は、もうどちらも花が全部散ってしまって完全に単なる緑の輪っかになっていたし、あの後も追加で作ってやった合計三個の太くて大きな花輪も、取り合いっこをする間にボロボロと花が千切れて飛び散ってしまい、こちらも完全に単なる緑の輪っかになっていたよ。なんか、花達ごめん! って感じだ。
そして俺は従魔達に頼まれて、あいつらが嬉々として持って来る緑の輪っかを受け取るたびにフリスビーみたいに、地面と水平になるようにして思いっきり投げてやったのだった。当然それをもの凄い勢いで嬉々として追いかける従魔達。
でもまあ、あれだけの数の茎を束ねていると案外頑丈だったみたいで、花は散ってしまったものの全然壊れない天然の輪っか型フリスビーに、従魔達は投げる度に狂喜乱舞して走り回っていたのだった。
「なあ、そろそろ腹が減ってきたんだけどどうする? 弁当でよければ出すけど?」
さすがにあれだけの勢いで従魔達が走り回っているすぐ横で、火を使うのはちょっと危なすぎるからここで肉を焼くのは禁止だ。万一突っ込まれたら大惨事確定だからな。
「ああ、良いですね。これだけ気温が上がって良い天気だと、外で食う弁当はそりゃあ美味いでしょうね」
スライムソファーに座ってくつろぐ嬉しそうなランドルさんの言葉に、全員が揃って笑顔で拍手をする。
笑って頷いた俺は、まだまだ在庫のある鉱夫弁当をアレンジした料理がぎっしり入っている重箱や、サンドイッチやパンメインで作ったカフェのテイクアウト風弁当なんかを次々に取り出していったのだった。
どれも、俺だったら余裕で二人前どころか三人前はありそうなサイズだ。
これは、普通はシェアして皆で食べるものなんだけどなあ……。
大喜びでそれぞれ大きな重箱を確保する彼らを見て、ちょっと遠い目になった俺だったよ。
皆、相変わらずよく食うねえ。
「ふわあ、これはまた最高に美味しそうですね!」
スライムソファーに座ったボルヴィスさんが、嬉しそうにそう言って蓋を開けて広げた重箱の中身を見て満面の笑みになっている。
「本当ですね。この肉巻きおにぎりなんて、もういくらでも食べられそうですよ!」
同じくスライムソファーを作ってもらって座ったランドルさんも、塩握りをアレンジして作った肉巻おにぎりを見てうんうんと頷きながらそういい、広げた重箱を見てこれ以上ない笑顔になっていたよ。
「喜んでもらえて嬉しいですよ。まだまだありますから、しっかり食べてくださいね」
笑った俺の言葉に、それぞれスライムソファーに座った全員からお礼の返事が返ってきたよ。
ちなみに俺が取ったのは、自分用に用意している他よりもかなり小さな三段になった重箱で、綺麗な桜の花模様の風呂敷で包んだやつだ。
蓋を開けると一段目には小さめに握り直したおにぎり各種がぎっしり入っている。シャムエル様が好きな肉巻きおにぎりも、もちろんちゃんと入っているよ。
二段目にはメインのおかず色々。ここには岩豚トンカツと鶏ハム以外に、俺が好きな西京焼きと白身魚のフライタルタルソース添えも入っているから和洋折衷って感じでなかなかに豪華だ。もちろん副菜には根菜の煮付けを始め温野菜なんかが他の弁当よりも多めに入っている。
三段目はシャムエル様用お菓子の詰め合わせ。ここには激うまリンゴとブドウも入っているので、俺はこれをちょっとだけいただく予定だ。
「じゃあ、まずはシルヴァ達にお供えだな」
小さく笑ってそう呟き、いつもの敷布を取り出してスライムソファーの空いた場所に置く。横には冷えた白ビールと麦茶の入ったマイカップも置いておく。
昼間っから飲むのはどうかと思うが、まあ、花見に酒はつきものだよな。
当然だけどスライム達はちゃんと心得てくれているので、広げた弁当やビールの瓶を落っことすような事はしない。
「今日はハンプールのお屋敷の庭で野の花の花見をしています。花冠を作って従魔達と一緒に遊んだりしました。あとで新しく作った花冠もお供えするね。弁当、少しですがどうぞ」
手を合わせて目を閉じ、ごく小さな声でそう呟いて祈る。
いつもの収めの手が俺の頭を何度も撫でてから、広げた重箱を順番に撫で回してから持ち上げ、最後に一瞬でリナさん一家の所へ行って彼らの頭にまだ載ったままになっていた花冠をそっと撫でてから、こっちに手を振って消えていった。
「絶対、シルヴァ達なら似合っただろうにな」
小さくそう呟き、顔を上げた俺はお皿を手に高速ステップを踏んでいるシャムエル様を見た。
「一通りください!」
シャムエル様の予想通りの言葉に吹き出した俺は、お皿を受け取り順番に一通り取り分けてやった。
おやつの段はそのまま一旦蓋をして収納しておく。
「おやつは後でな。はいどうぞ」
「うん、了解です! あ、白ビールはここにください!」
当然のようにグラスを取り出すシャムエル様を見て、笑って白ビールの栓を開けたのだった。
春の花畑で、皆で集まって豪華な重箱に入った弁当を食べて昼から一杯飲む。
ううん、大人の休日って感じがするねえ。