まさかのファンクラブ発足??
「ああ、ランドルさん! ケンさんの豪邸へようこそ〜〜!」
俺がランドルさんとボルヴィスさんを伴ってリビングへ行くと、何故か部屋で休んでいたはずの全員が、従魔達を引き連れてリビングに集合していた。
「呼び鈴の音が聞こえたので、おそらくランドルさんが来たんだろうって事で、出迎えはケンさんに任せて俺達はこっちへ集まったんです……ええと、そちらは?」
笑顔のアーケル君だったけど、途中でランドルさんの後ろに控えていたボルヴィスさんに気がついたらしく、驚いたようにそう尋ねる。
「ああ、はじめまして。ボルヴィスと申します。一応上位冒険者です。ケンさんのおかげで魔獣使いになれました。今回の早駆け祭りにも、こいつと一緒に参加しますので、どうぞよろしくお願いします」
側に控えていたセラスの首輪をそっと掴んだボルヴィスさんが、草原エルフ一家に向かって深々と頭を下げる。
「ああ、お噂は聞いています。魔獣使いの紋章を授かったんですね。おめでとうございます。あの、俺も魔獣使いで、アーケルって言います。良かったら俺とチームを組んではいただけませんか! 俺だけ余っているんですよ!」
「はい、その事ならギルドマスターのエルから聞いています。草原エルフの魔獣使いの方が一名、まだチームを組んでおられないので、よければ誘ってみろと。こちらこそよろしくお願いします!」
満面の笑みのボルヴィスさんの言葉に、こちらも満面の笑みになったアーケル君が進み出てしっかりと握手を交わす。
それから、順番にリナさん一家と自己紹介をしながら握手を交わしたボルヴィスさんだった。
って事で、ランドルさんとボルヴィスさんにもそれぞれ好きな部屋を確保してもらい、夕食にはまだ早かったんだけどなんとなくそのままリビングで宴会になだれ込んだ。
皆それぞれに買い置きを山ほど出してくれたので、今日も色々並んだバイキング状態。
ハスフェル達が嬉々として酒瓶を並べ始めたのを見て、俺は無言で用意してあった巨大な空のアイスピッチャーに山盛りの透明な氷を作っておいたのだった。
「ところでケンさん。例の魔獣使いの事なんですが、ちょっと調べて来ましたよ」
何となくダラダラと飲み食いしながらお互いの従魔をそれぞれ紹介も終わって和んでいると、吟醸酒を手にしたランドルさんが真顔で俺の隣に座った。
「例の魔獣使いですか?」
ネージュは改めて事情を説明してランドルさんにも紹介しているので、俺がネージュを見ながらそう尋ねるとランドルさんは真顔で頷いた。
「まず、あの自分の従魔を街の中で放逐した一件ですが、街の住民達からの通報が複数あったらしく、冒険者ギルドから彼に厳重注意と罰金が課せられています。まあその日のうちに清算したと聞きましたけどね」
確かに、あれだけの従魔を連れている魔獣使いなら、真面目にジェム採取をしていればそれなりの資金はあるだろうから、罰金がいくらだったのかは知らないけれど別に彼にしたら痛くもない程度の金額だろう。
「へえ、羽振りがいいもんだねえ。ええと、名前は確か魔獣使いはマールって名前だっけ」
「ああ、それはご存知でしたか。魔獣使いの男がマールカロ、皆はマールと呼んでいますね。もう一人の黒いオオカミに乗っていた方がリンピオです。二人とも最近冒険者登録をしたばかりらしく、しばらくは辺境地域で、野良で冒険者をしていたそうですよ」
「ええ? 野良の冒険者って……要するに冒険者ギルドに登録していなかったって事だよな? どうして、登録しなかったんだ? ギルドカードは身分証にもなるし、素材やジェムの買い取りも、未登録でするよりは利率が良いって聞くぞ?」
俺の言葉に、ハスフェル達も揃って頷く。
「そこなんですよね。ですが街で聞いたところ、特にギルドと何かあったわけではなく。辺境地域で単にギルドの支部が無かったからだってのがもっぱらの噂です」
「ああ。それなら辺境地域では、野良で冒険者をしていたのは有り得るな。たまにいるぞ、そんな奴」
笑ったギイの言葉に、そんなものかと一応納得しておく。
「それでハンプールの街へ来たら、街中がケンさんの噂で持ちきりなのを見てずいぶんと気分を害していたらしいですよ。おそらくだけど、ハンプールへ来れば自分達が優勝候補だって言われてチヤホヤしてもらえると思っていたみたいですね。ですがまあ、一応あいつらにも自称後援会が出来て衣食住の面倒を見ているみたいですから、来た当初よりは大人しくなったらしいですけどね」
「後援会? へえ、そんなのがあるんだ」
参加者の後援会って凄い。ちょっと羨ましくなってそう言ったら、ランドルさんに呆れたみたいに見られた。
「知らぬは本人ばかりなりって事ですかね。言っておきますが、ケンさんにも相当人数が会員になっている巨大な後援会が出来ていますよ。ちなみに、ハスフェルとギイ、それからクーヘンとオンハルトと……一応、俺にも、ね」
最後は苦笑いしながらの言葉に、俺達は揃って吹き出したのだった。
「ほら、スライムトランポリンの時に、ケンさん宛に山ほどの差し入れが届いたでしょう? あれも後援会からですよ。まあ別に後援会と言っても厳格な決まりや規約があるわけではなく、要は自分が好きな参加者を集まって皆で応援するのが一番の目的です。言ったように、例えばレース期間中に参加者の住むところを提供したり、様々な差し入れを行ったり、賭け券の大量買いを行なったりする程度です。あとはまあ、集まって飲み食いしながら誰それのどこが好きだとか、どこが良いとかを好き勝手に言っている程度です。要するに、早駆け祭りの花形である三周戦に参加するとほぼ後援会が立ち上がりますね。まあ、今回は三周戦の参加者と、魔獣使い戦の両方がありますから街の人達は大変でしょうね」
笑ったランドルさんの説明を聞いて納得する。
成る程。今の話を聞くに後援会と言うよりは、非公認のファンクラブ的な活動が中心みたいだ。推し活って言うんだっけ?
でもって、俺達にもそれぞれ後援会が出来ているみたいだ。
「ええ、そんなの言ってくれたらいくらでもお礼するのに!」
「貢がれる側がお礼してどうするんですか。ケンさんがすべきは、応援を受けて三連覇する事でしょう? まあ、俺が阻みますけどね」
「ほお、二連覇の覇者に向かって良い度胸だなあ」
ドヤ顔のランドルさんの言葉に俺も胸を張って言い返し、しばらくの間無言で顔を見合わせてから、揃って吹き出したのだった。