今後の事
「ごちそうさまでした! いやあ、やっぱりケンさんの作ってくれる料理は美味しいですよね」
「だよなあ。いやあ、こんな贅沢出来るって有り難い話だよなあ」
「岩豚〜〜〜! これが食べたかったんだよ〜〜〜!」
残りの岩豚のトンカツサンドを食べながら、アーケル君が涙ぐんでいるぞ。
「あはは、それだけ喜んでくれれば、作った俺も嬉しいよ。まあ岩豚もハイランドチキンもグラスランドチキンもまだまだたくさんあるから、遠慮なく食べてくれよな」
笑った俺の言葉に、リナさん一家が声を揃えてお礼を言ってくれたよ。
「そういえば、ランドルさんは昨日はこっちへは来なかったんだな。バッカスさんのところに泊まったのかな?」
食後のコーヒーをおかわりした俺は、メンツが足りないのに気づいてそう呟く。
「宿泊所に宿を取ったって話は聞かなかったから、おそらくバッカスさんのところに泊まったんだろうさ。彼の為の部屋が用意してあると聞いたぞ」
笑ったオンハルトの爺さんの言葉に、俺も笑顔で頷く。
「クーヘンも、俺達の為の部屋を今でも用意したままにしてくれているって言っていたもんなあ。やっぱり仲間っていいよな」
何だかたまらなくなって、ちょっと潤んだ目でそう呟いて笑う。
「愉快な仲間達に乾杯!」
「愉快な仲間達に乾杯!」
さすがに朝からお酒は出ていないけど、俺の呟きを聞いたアーケル君が飲んでいたマイカップに入ったコーヒーを乾杯するかのように掲げてそう言い、皆も笑顔でそれに続いたのだった。
「ところで、ネージュの元主人のあの男の事って、どうするべきだと思う? 俺がテイムしたネージュを見て、何か言われたりしないかな?」
まあ、あいつがテイムしていた時とは羽色が変わっているから同一個体だと気付かれる事はないと思うけど、俺がフクロウを連れていたら何か言って来そうな気もする。
「放っておけばいい。羽色が変わっている時点で、完全に別個体だよ。そもそも自分から放逐したのだから、誰かにテイムし直しされたからといって文句を言う権利なんてないさ」
ギイがバッサリとそう言ってくれたので、まあそれもそうかと納得しておく。
「ええと、一応ネージュの記憶がある時に聞いた話なんだけど、あいつは俺の事を倒すべきライバルみたいに考えていたらしいんだ。しかも早駆け祭りで単に俺に勝ちたいって言うよりは、魔獣使いそのものとしてって意味でさ」
一応これは報告しておくべきかと思って、全員がいる前でそう言っておく。
「ほお。それはまた無謀なやつだな。早駆け祭りで二連覇の勝者であるお前を目標にするのはまあ分かるが、魔獣使いとしての能力は、どう見てもケンの方が明らかに上だぞ」
呆れたようなオンハルトの爺さんの言葉に、ハスフェル達とリナさん一家も苦笑いしつつ頷く。
「先輩魔獣使いとして言わせてもらえるなら、ケンさんの魔獣使いとしての能力は明らかに私なんかよりも遥かに上です。史上最強って言葉も間違っていないと思います。私ならケンさんをライバルだなんて恐れ多くて絶対に言えませんよ。ケンさんが連れている従魔達を見てそれが分からないのなら、あの男は魔獣使いとしては二流以下ですね。相手にする必要なんてありませんよ」
「まあ、それはそうなんだけどさあ……」
戸惑うような俺の言葉に、リナさんがとても優しい笑顔になる。
「もしかして、あの男が連れていた他の従魔達の事を考えておられる?」
密かに考えていた事を言い当てられて、困ったように笑った俺は素直に頷いた。
「そうですね。正直言うと、他の従魔達も虐待されているんじゃあないかって、ちょっと心配になっています。ネージュに記憶がある間に、その辺りも聞いておけばよかったな。ちなみに従魔の虐待って、何かの罪に問われたりする?」
最後はハスフェル達の方を向いてそう尋ねる。
「ううん、どうだろうなあ。まあ、あの男に関して言えば、自分の従魔を街中で意図的に放逐したのは、かなり危険な行為ではある。ギルドへ訴えれば、罰金などを課せられる可能性は高いな」
「あ、やっぱりあれってまずい行為だった?」
あの時の事を思い出しつつそう尋ねると、ギイと顔を見合わせたハスフェルが真顔で頷いた。
「従魔の意図的な放逐と、主人の死による支配からの従魔の解放は全く違うからな。たとえば、街の中に住む魔獣使いが何らかの事情で急死したとする。この場合、当然そいつが連れていた魔獣達は、街の中で突然支配から解き放たれる事になるわけだが、この場合は最低でも数日程度は余裕があって、その間に従魔達は創造神様から特別な指示が与えられると聞く。つまり、誰も襲う事なく野に帰れ。己が天寿を全うしろ。とな」
「ああ、成る程。主人の死で支配から解き放たれたはずの元従魔達が、誰も襲わずに一目散に街から逃げ出すのはそういう事なんですね」
ハスフェルの言葉に、納得したようなリナさんが小さくそう呟き、俺も納得して頷く。
「そっか、創造神様が指示して街の外へ逃がしてくれているのか。だけどネージュの場合みたいに、主人が死んだわけではないのに意図的に放逐された場合は、その指示が届かないわけか」
俺の呟きに真顔のハスフェルが頷く。
「とりあえず、マーサさんにでも頼んであの男の普段の様子を調べてもらうべきだな。従魔を日常的に虐待しているのなら……何らかの措置をした方がいい気がする。万一にも主人に捨てられて理性を失って野生化したジェムモンスターが街の中で暴れたりしたら、どれ程の大惨事になる事か。そんな光景、考えたくもないよ」
ギイの吐き捨てるような言葉に、俺だけでなく全員が揃って真顔で頷いたのだった。