違う羽色と同じ名前
「嬉しいです。これから、どうぞよろしくお願いします」
リアルフクロウサイズになった真っ白なネージュの胸元には、俺の紋章が綺麗に刻まれている。
そして、元々ここにあったあの男のリースみたいな紋章は、もう影も形もない。
うん、これはリセットして良かった事例だよな。一片の後悔もないぞ。
俺の腕に額を擦り付けるみたいにして甘えていたネージュは、顔を上げて少し恥ずかしそうにそう言うと、羽を広げて軽く羽ばたいてローザ達が留まっている置いてあった椅子の背中に並んで留まった。
反対側にはファルコが並んで留まり、挨拶するみたいにまた羽繕いを始めた。
「男子仲間が出来てよかったな、ファルコ」
「そうですね。同性の翼のある仲間が来てくれて私は嬉しいです」
目を細めてそう言ったファルコの言葉に、ネージュもなんだか嬉しそうだ。
楽しそうなもふもふ羽毛部隊を眺めて和んでいた俺は、まだ顔も洗っていないのを思い出して立ち上がった。
「あ、今気がついたけど……ネージュってカルン君の従魔と同じ名前だよ。いつか従魔の名前に使おうと思って考えていたけど、名前が品切れで俺が考えていたストックの名前を彼にあげたんだった。そっか……やっちゃったなあ」
別に名前が重なっても主人が違うから大丈夫だとは思うが、一緒に行動する仲間だもんなあ。
従魔の数がどんどん増えていって、自分の従魔の名前はさすがに間違ったり重ならないようにちゃんと把握しているけど、うっかり仲間と同じ名前を使っちゃったよ。
「気をつけていたんだけどなあ。とうとうやっちゃったよ」
なんだか申し訳なくて小さくそう呟いてネージュを見る。
仲良くファルコと嘴を重ねるみたいにして何か話をしている。
名前がダブったって、謝っておくべきだろうか? だけどあんなに喜んだ後にこれを言うのはちょっと申し訳ないかな?
そんな事をつらつらと考えながら、とにかくまずは顔を洗いに行く。
いつものように、顔を洗った後にサクラに綺麗にしてもらい、水槽に放り込んでやる。それから、次々に跳ね飛んでくるスライム達を捕まえては、これも順番に水槽に放り込んでやった。
ここの別荘の、俺の部屋である屋根裏のすぐ下の階にあるお風呂のある広い部屋。ここが俺が風呂に入ったり顔や手を洗う時の水場がある部屋なんだけど、ここの水場の水槽は、今まで見たいろんな水槽の中でもダントツに大きい。ちょっとした風呂桶くらいはありそうだ。
なのでソフトボールサイズのスライム達が全員水槽に入っても、転がるだけの余裕がある。水の流れに沿って、水槽の中でまるでクラゲみたいにスライム達がクルクルと回っている。
「あれ、目を回さないのかねえ」
思わずそう言いたくなるくらいに、大きな水槽の中をスライム達が流されている。
「大丈夫で〜〜す!」
「流されてると気持ちいいんで〜〜す!」
俺の呟きが聞こえたらしいスライム達の、得意そうな声が聞こえて思わず吹き出したよ。
「そっか、楽しんでいるのなら構わないな。別に邪魔はしないから、好きなだけ遊んでいてくれ」
笑ってそう言い水浴びチームと場所を交代してやり、俺は自分の部屋に戻って手早く身支度を整えた。
「なあ、シャムエル様。ちょっといいか?」
ベッドサイドに置いてあった小さなテーブルの上でせっせと尻尾のお手入れをしていたシャムエル様を見て、身支度を終えた俺は横から指で尻尾を突っつきつつそう尋ねる。
「うん、どうしたの改まって?」
お手入れの手を止めたシャムエル様が、不思議そうに俺を見上げる。
「ネージュの事なんだけどさ。テイムしたのは全然構わないんだけど、いきなり焦茶色のフクロウが真っ白になっていたら、ハスフェル達やリナさん達は驚くんじゃあないか? まあ、ハスフェル達にはシャムエル様がしてくれたって説明するにしても、リナさん達やランドルさんになんて説明すればいい?」
「ああ、その事なら大丈夫だよ」
心配するような俺の言葉に笑って目を細めたシャムエル様は、また尻尾のお手入れを再開しつつネージュを振り返った。
「そのまま説明すればいいよ。目が覚めたら焦茶色だったのが真っ白なフクロウに変わっていたって。それでテイムしたんだって言えばいいよ」
「ええ? そんな説明で納得してくれるわけ……あるの?」
妙に自信ありげなシャムエル様の言葉に、少し考えてそう尋ねる。
「うん、大丈夫。基本的にはあまりしないんだけど、今のようにちょっと訳ありな子を別のご主人に引き渡す際なんかに、ごく稀にだけど私がちょっとだけ手を出して、今みたいにクラスをチェンジする事があるんだ。それは創造神の交換と呼ばれる特別な事象でね。つまりこれも祝福の一種な訳。だからあんな不幸な事があったネージュを可哀想に思って労りの意味を込めて、まあ実際にそうなんだけど、創造神がこの子の新たな旅立ちに際して祝福をくれたんだって、皆そう考えてくれるよ」
「へえ、成る程なあ。そりゃあいい。じゃあ俺は目が覚めたら真っ白なフクロウがいて、従魔達があの子だって教えてくれたから、これが創造神様の交換なのかって納得して改めてテイムしたって事でOK?」
「OKOK! それでバッチリだよ!」
くるんととんぼ返りを決めたシャムエル様が、ドヤ顔でうんうんと頷いてちっこい腕を組む。
「それと、さっきケンが言っていたネージュの名前だけど、そっちも大丈夫だよ」
「え、名前がダブってても大丈夫って事? へえ、だけど何がどうして大丈夫なんだ?」
「ふふん。どう大丈夫かは、カルン君か、あのシンリンオオカミの従魔に直接聞くといいよ」
またくるっとバレリーナみたいに一回転したシャムエル様は、優しい声でそう言ってぷっくらと頬を膨らませながら目を細めた。
うああ、そのほっぺたを今すぐ俺に突かせてくれ〜〜〜!
内心でそう叫んだ俺は、突っつきそうになる右手をぐっと握りしめて大きく深呼吸をしたのだった。
はあ、平常心、平常心……。