ローザ達の説得と風呂の時間
「ええと、俺は下の部屋にある風呂に入ってくるよ。そいつの事、任せてもいいかな?」
まだ羽繕いを続けているお空部隊の面々を見て、俺はため息を一つ吐いてから立ち上がった。
「そうね。少し落ち着いてきたみたいだから、もう少し私達がお話ししてみるわね。もう、ほぼ支配からは解放されているみたいだけど、まだしばらくは意識を保てるから心配しないでね」
俺のところへ飛んできて頬をふっくらと膨らませたローザの言葉に、俺はもう一回ため息を吐いてそっと手を伸ばしてローザのふわふわな頬を指先でくすぐってやった。
「もちろん説得出来るのならそれに越したことはないけど、無理はしなくていいぞ。あの子が望むならもちろん俺がテイムしてやってもいいけれど、逆に単なるジェムモンスターとして地脈に帰るってのも、一つの生き方な気がする。薄情って思うかもしれないけど、あの子がそれを望むのなら俺はそれでも構わないよ」
「そうね。それも確かに一つの選択肢ではあるわね。分かった。ちゃんと話をするからね」
俺の指先を甘噛みしたローザは、軽く羽ばたいてまたフクロウの横へ留まりじっとしているフクロウの羽繕いを再開した。
お空部隊総出で羽繕いされているフクロウは、目を閉じたままじっとして動こうとしない。
だけど、もうその体からはあの揺らぎはほぼ消えてしまっていた。
「大丈夫だよ。ここにはお前をいじめる奴はいない。ゆっくり休んでくれよな」
何だかたまらなくなってそっと手を伸ばした俺は、そう言いながらフクロウの頭をそっと撫でてやった。
おお、またうちの子達とも手触りが違う。だけどこれも最高のふわふわだ。
だけど、うちの子達のように甘噛みしてくる事もなければ、逆に撫でられて嫌がる様子もない。
強いて言えば、放心状態。全てに無反応って感じだ。
「はあ、あの馬鹿野郎、やっぱり一度殴ってやればよかったかな」
動かないフクロウをもう一度撫でてやってからそう呟いた俺は、手早くお風呂セットを取り出した。
「風呂に行くけど、お前らはどうする?」
「えっとえっと……足を離しても大丈夫ですか?」
フクロウの足を確保していたスライム達が、俺の言葉に困ったようにそう言ってモニョモニョと動き始めた。
マックスの背の上でお空部隊に取り囲まれて羽繕いをしてもらっていたフクロウは、スライム達がゆっくりと動いて足を解放した途端、ビクって感じに震えてそれから軽く身震いした。
そして、ここで初めて目を開き、部屋を見まわしてから翼を広げて置いてあった椅子の背もたれに飛んで行った。
ローザ達がその後を追っていく。
黙って見ていると、背もたれに並んで止まりまたフクロウを取り囲んでせっせと羽繕いを始めた。
「鳥の一番のスキンシップって、羽繕いなのか。だけどもうちょっと反応してほしいよなあ」
しかし、黙って見ていると羽繕いをしながらごく小さな声でローザ達が何やら囀っている。
少なくとも人の言葉には聞こえないけど、多分話をしているっぽい。
フクロウがごく小さな声で何やらゴニョゴニョと答えるのを見て、ここはお空部隊の子達に任せる事にした。
「はあ、どうしたもんかなあ……」
すっかり綺麗になった風呂場を見渡し、洗い場に転がした氷の数々を見て俺は今日何度目か数える気もないため息を吐いた。
「とにかく風呂だ。温まろう」
手早く服を脱ぎ、スライム達が早速作った氷で遊び始めたのを見て、かかり湯をしてから湯船に浸かる。
お風呂場も留守の間にしっかりと改良してもらっていて、座ったまま肩まで浸かれるように湯船が深くなっている。
風呂の縁に頭を乗せてぼんやりと天井を見上げてもう一度ため息を吐いた俺は、黙って両手で湯をすくって顔をバシャバシャと洗った。
「あの子は一旦保護する。だけどテイムはすぐにはしない。でもって、あの子の意識がある間に、出来ればあの野郎が何を考えているのか知りたいんだけどなあ……」
こうなると、逆に有名になりすぎた今の俺達はこの街では隠密行動が出来ない。
あいつと街のどこかでうっかり接触しようものなら、今日のように街中の大注目を浴びる事になりそうだからな。
「となると、マーサさんかギルドマスター辺りに協力してもらって調べてもらうのが一番なんだろうけど……」
とにかく、あの野郎の事情が分からないから、具体的にどうするのがいいのかが分からないから動きようがない。
「明日にでも、マーサさんに連絡して改めてあいつの事調べてもらうように頼むか。あとはシャムエル様頼りだな」
もう一度大きなため息を吐いた俺は、頭の先まで湯に浸かってから一気に立ち上がった。
「おおい、体を洗うから場所交代してくれ〜〜」
「はあい!」
氷のボールで遊んでいたスライム達が、俺と交代してボールごとお風呂に飛び込んでいく。
気分を変えるようにもう一度大きなため息を吐いた俺は、湯を洗面器にすくって手拭いで体を洗い始めた。
まあ、サクラがいつも綺麗にしてくれているから、これはあくまで気分的なものだけどさ。
そして少し長湯をして風呂から上がった俺は、ちょっとドヤ顔になったローザとブランにせっせと羽繕いを返しているフクロウの姿を見て驚く事になったのだった。