別荘にて
「おお、すっげえ! 廊下がめっちゃ綺麗になってる〜〜〜!」
別荘の中へ入ったところで、俺は思わず上を見てそう叫んだ。
豪華な彫刻が全面にわたって彫られた天井は、以前はちょっと全体に埃っぽかったんだよ。
まあ、掃除はしてくれていたんだろうけどなんとなく全体に古びた感じだったのが、今はもう埃の一つもなくピカピカだ。照明も明るくなっている気がする。
「補修が必要な個所は全て終わっているよ。じゃあ、まずはリビングかな」
得意げなマーサさんの言葉に頷き、全員揃ってリビングへ向かう。
ここは以前も使っていた部屋だけど、やっぱり何というか明るさが違う。壁も天井もピカピカ。
天井からは、ジェムを使った巨大なシャンデリアがぶら下がっていて煌々とした輝きを放っている。
だけどまあ、これはバイゼンのお城に比べたら大した事はないので、意外に平気そうだ。
「へえ、窓も綺麗だ。これって何かの蝶の羽なんだろうな」
部屋を見回した俺は、大きな窓の側に駆け寄り窓越しに外の景色を見た。
「歪みが一切ない。へえ、こりゃあ見事だ」
これもピカピカに磨き上げられた窓を見てそう呟く。
「これはゴールドバタフライの羽だよ。ここまで歪みが無く完全な透明で均一な厚みにまで磨き上げるのは、相当な腕と時間が必要なんだよ」
ドヤ顔のマーサさんの説明に、思わず拍手をする俺だったよ。
リビングには大きな木製のテーブルと椅子のセットが置かれていて、壁面と窓側には大きなソファーも置かれている。
その後、客室を順に案内してもらい、リナさん一家には好きに部屋を選んでもらった。
リナさんとアルデアさんは一緒の部屋を取り、アーケルくん達も三人で一緒の部屋にしたから結局ニ部屋しか客間は使わなかったよ。
そのあとは、ハスフェル達の部屋を順に回り、最後に俺の屋根裏部屋へ向かった。
「リード兄弟が、張り切っていたよ」
笑顔のマーサさんの言葉に俺も笑顔で大きく頷き、降ろしたままになっている折りたたみ式の階段を上がっていく。
「うわあ、すっげえ!」
目に飛び込んできた部屋の様子に思わずそう叫んで力一杯拍手をする。
広い屋根裏はお願いしたように壁で半分に区切られ、奥が寝るスペースで手前側が寛ぎスペースになっている。
柱の金具もピカピカに磨き上げられていて、何というか秘密基地感が半端ない。
「完璧です!」
拳を握って親指を立てる俺を見て、マーサさんも笑顔で大きく頷いていたよ。
帰るマーサさんを見送ってから、自分の部屋にしている屋根裏部屋に戻る。
寛ぎスペースに置かれた大きなソファーに座って、止まり木に並んでいるお空部隊を振り返った。
あのフクロウは、まだマックスの背中に乗ったままで、足元をスライム達が守ってくれている。
「なあ、お前……名前は?」
話しかけてみたが、俯いたフクロウは答えようとしない。
困ったようにお空部隊の子達を見ると、ふわりと羽ばたいたモモイロインコのローザが飛んできて俺の腕に留まった。
「ちょっと私達が代わりにお話ししてみるね。ちなみに確認なんだけど……ご主人はあの子をテイムする気はある?」
窺うようにそう聞かれて咄嗟に答えられなかった。
「ええと……あの子が希望するなら、もちろんテイムしてあげるよ。だけど、どうだろうな?」
羽を膨らませて俯くフクロウからは、まだあの揺らぎが立ち上っている。
「じゃあ、それも含めて話をしてみるわね。ちょっと待ってて」
羽ばたいたローザがマックスの上に飛んでいき、他の子達までもが次々に飛んでマックスの背中に留まった。
ローザとブランがフクロウの左右に留まり、大きな嘴で羽繕いを始めた。
俯いたフクロウは目を閉じてじっとしたままだ。
黙々と羽繕いをする二羽とフクロウを見ながら、俺はもう何度目か数える気もないため息を吐いた。
「あの野郎、どうしてやるべきかなあ。俺的には、ちょっと本気で腹が立っているから、何か……」
「ええ、そうよ! 私たちのご主人はすっごくすっごく素敵な方よ」
「暴力を振るうような事は、絶対にしないから安心してね」
「そうよ。すっごく優しいご主人なんだから」
ローザ達が口々にそう言ってフクロウの羽繕いを再開する。
「そ、そうですよ。私達のご主人は最高のお方です」
ファルコまでが慌てたようにそう言って、そっとフクロウの背後から羽繕いを始めた。
だけどフクロウは一切答えようとしない。
「まあ、無理強いは駄目だよな。とにかく今は見守るくらいしか出来ないよなあ……」
俯いたままじっと動かないフクロウを見て、俺はもう一度大きなため息を吐いたのだった。