ライバル登場!?
「ケンさん! おかえりなさい!」
リナさん達も参加申し込みを終え、ランドルさんと一旦別れた俺達が冒険者ギルドを後にしようとしたその時、満面の笑みのマーサさんがギルドへ駆け込んできた。
「お久しぶりです。はい、無事に戻ってきましたよ」
「それにしても……また、なんだか豪華なのがずいぶんと増えているねえ。いやあ、最強の魔獣使いの名に恥じない従魔達だねえ。お見事」
壁面にずらっと並ぶ俺の紋章を付けた従魔達を見たマーサさんは、呆れたようにそう言って笑った。
まあ、確かに前回ここを立った時に比べたら大きいのも小さいのも色々と増えているな。
「依頼された部屋の改装は全て終わっているよ。鍵を持ってきたからお返ししておくね」
「ああ、ありがとうございます。ううん、楽しみだ」
「裏庭では、早駆け祭りの時期に合わせて成るように植えた、早生のサクランボがそろそろ食べごろだよ。いちごポットも見事に鈴生りになっているから、好きなだけ楽しんでおくれ」
「おお、家でサクランボやイチゴ狩りが出来るって最高ですね。もちろんがっつり楽しませてもらいますよ」
笑顔の俺に、マーサさんも嬉しそうに笑っていた。
クーヘンはまだ店でする事があると言うので、段取りが済めば別荘へ避難してもらう事にして一旦分かれて店へ戻ってもらった。俺達は、従魔達を引き連れてマーサさんと一緒に別荘へ向かった。
当然、別荘までの道もパレード状態だった。マジでゴリゴリHPが削られるんですけど!
と、その時、前方が不意にざわめいて、驚いた俺達が何事かと足を止める。
「ほらケンさん! 噂のライバル登場ですよ!」
周りにいた人達が、目を輝かせて口々にそう言いながら前方を指さしている。
この時の俺達は、安全を確保する意味もあって全員が騎獣に乗っている。ちなみにマーサさんはいつも小さな馬のノワールに乗っている。
何事かと少し伸び上がるようにして前を確認すると、人混みの向こうに突然大きな真っ黒なオオカミの姿が見えて目を見開く。
マックスほどではないがかなり大きな野生味あふれるオオカミで、歓声と同時に二十代前後と思しき小柄な青年がその背に飛び乗ったのだ。
「おお、あれが噂の俺達より先に来ていたっていう魔獣使いかテイマーだな。ううん、ここから見る限り他に従魔は……」
その時、人混みが一斉に割れて俺達とその人との間に誰もいなくなる。
距離にして大体30メートルくらいかな。
あんなデカいのがいて、どうしてこの距離になるまで気づかなかったのかと密かに驚いていると、すぐ横にあった居酒屋からもう一人、彼と同じくらいの年頃の冒険者らしき青年が、これも真っ黒な鹿を連れて出てきた。すごい、角まで真っ黒だ。
その鹿の胸元には、輪の中に星マークの描かれた紋章が大きく刻まれている。
成る程、黒い子の場合は白っぽい色の紋章になるんだ。うちのセーブルは焦茶色の毛並みだけど刻まれた紋章は黒だぞ。もしかして魔獣使いによって違うのかな? 俺はその時、そんな事をのんびりと考えていた。
そのもう一人が飛び乗ったその真っ黒な鹿は、恐らくエルクなのだろう。
オンハルトの爺さんが乗るエラフィと変わらない大きさをしているけど、エラフィよりもこっちの方がなんとなく強そうな気がするけど、これは黒い色のせいかな?
そしてそのエルクの背中には、ライオンのようなふさふさのタテガミを持つ大きな茶色の猫と真っ黒な猫が並んで座ってこっちを見ていた。
どちらも猫にしては異様に脚や首が太いし顎も大きいから、恐らくあれはライオンとクロヒョウのジェムモンスターなのだろう。
そして真っ黒なエルクに乗った冒険者の右肩には、濃い焦茶色の大きなフクロウが留まっていたのだ。
従魔達に刻まれているのは全て同じ星型の紋章だから、二人のどちらかが魔獣使いなんだろう。
「おお、なんかすっげえ格好良い!」
思わずそう呟くと、俺の周囲にいた街の人達が揃って、何言ってるんだよ? って感じに俺を見た。
だって。ライオンにクロヒョウ、フクロウまでいるんだぞ。
「何処でテイムしたのか教えてもらえないかなあ……」
内心ワクワクして話しかけようとしたんだけど、黒いオオカミに乗った冒険者はこっちを全く見ようとしないし、逆にフクロウを肩に留まらせてエルクに乗った冒険者は思いっきりこっちを見た。
順番に俺達をゆっくりと見て、最後に俺のところで視線が止まる。なかなかに男前なその冒険者さん、凄い目力でガン睨み状態。
ちょっと待って。俺、あなたの親の仇か何かですか?
マジでそう言いたくなるくらいの敵意のこもった目に、話をしようとした気持ちがシュルシュルと萎んでいく。
しかも、彼らはこっちへ向かって平然と進んできたのだ。
30メートルの距離なんて、従魔に乗っていればゆっくり進んでもあっという間だ。
当然そのまま進めば、止まっている俺達と向き合う形になる。
「やっと来たな」
エルクに乗っていた方の冒険者が、俺達と向き合う形で止まって口を開いた。
「残念だが三連覇は諦めてもらうぞ」
「今回は、俺達、漆黒の風が一位と二位を独占だよ」
「個人戦でもチーム戦でもな!」
明らかに年下の若者から思いっきり煽るみたいな口調でそう言われて、咄嗟に返事が出来なかった。
代わりに答えてくれたのはハスフェルとギイで、二人は揃ってにんまりと笑って、呆然としている俺を横目で見てから口を開いた。
「おお怖い怖い。お子ちゃま達が、ずいぶんといきりたって何やら吠えているぞ」
「まあ、最初は誰だって自分が絶対に勝つと思って出るんだから、始まるまでは好きに吠えさせてやればいいさ」
「言ってやるな。弱い犬程よく吠えると言うではないか」
ハスフェルとギイに続き、オンハルトの爺さんまでもが思いっきり面白がるような口調でそう言って笑った。
どっと周囲にいた人達が笑い、二人の冒険者達の顔が怒りに歪む。
ううん、早駆け祭りは所詮はお祭りなんだから、そんなに必死にならないでくれよ。祭りは楽しむものなのにさあ。
完全に面白がっているハスフェル達と街の人達に囲まれて、基本的に人と争う事をしない俺は、密かに諦めのため息を吐いたのだった。
はあ、早く別荘へ行って風呂に入りたい!